後日談 その後の「安眠聖女」
それからさらに月日が流れた。 今、フェルゼン公爵邸には、かつてないほど「騒がしい、けれど幸福な」事件が起きている。
「おぎゃあ、おぎゃあ……っ!」
産声が上がった瞬間、公爵邸は戦場と化した。 最強の隠密カイルは、赤ん坊の夜泣きを感知するや否や、音速で「最高級の揺りかご」を揺らし始め、天才魔導師ゼノスは「乳幼児用・熟睡周波放射器」を手に部屋に飛び込む。そしてアルベルト公爵は、不器用ながらも我が子を抱き上げ、慣れない手つきで安眠のツボをマッサージしようと奮闘している。前世で、深夜まで続く会議の喧騒に耳を塞いでいた紬にとって、今のこの騒々しさは、どんな静寂よりも心地よく、生命の輝きに満ちた旋律だった。
「……もう、みんな。私の出番がないじゃない」
ベッドの上で、紬は苦笑しながらその光景を眺めていた。 彼女がかつて夢見た「穏やかな有給休暇」は、今や愛する家族という「賑やかな幸福」に形を変えていた。
紬が生み出した「安眠の魔法」は、血脈を超え、時代を超えて、人々の心に深く根付いていく。 人々が夜を恐れず、安心して目を閉じることができる世界。 その中心には、いつも枕を抱いて微笑む一人の聖女の伝説があった。かつて彼女を「無能」と切り捨てた組織も、今や彼女がもたらした「休息」という名の文化なしには一日たりとも立ち行かなくなっている。
「……さあ、みんな。いい加減にして寝なさい。……明日も、いい朝が来るんだから」
安眠の聖女の優しい声が、公爵邸を、そして幸せな未来を包み込むように響き渡った。




