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聖女の力は安眠のために。〜ブラック企業帰りの私は、現代知識で冷徹公爵を寝かしつけます〜  作者: サバ味噌饅頭
第14章:聖女、公爵夫人になっても寝かせてもらえません!

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番外編 安眠聖女の休日 〜パパたちの育児奮闘記と、隣領の甘い夜〜

「……紬、助けてくれ。この子は、私の剣筋を完全に見切っている……」


フェルゼン領の公爵邸。かつて「死神」と恐れられたアルベルト・フォン・ブラッドレイは、今、人生最大の窮地に立たされていた。

相手は、生後六ヶ月になる愛娘・リリアだ。


リリアはアルベルト譲りの美しい銀髪を揺らし、パッチリとした瞳でキャッキャと笑いながら、アルベルトの指を力いっぱい握り締めている。時刻は深夜二時。


「アルベルト様、諦めてください。リリアは貴方に似て、一度興味を持つとトコトン追いかけるタイプなんです。……ほら、貴方の指が『最高のおもちゃ』だと思ってるのよ」


ベッドで眠そうに目を擦る紬に、アルベルトは絶望的な顔を向けた。


「しかし、私は明日、国王陛下との重要な謁見が……。いや、それ以前に、リリアに嫌われたくないから無理やり寝かせることもできん……」


「……貸して。プロの技を見せてあげるわ」


紬がひょいとリリアを抱き上げ、小さな背中の「安眠のスイッチ(脊柱起立筋のキワ)」を優しく、一定のリズムで撫で始める。


すると、あんなに元気だったリリアが、数分もしないうちに「ふにゃ……」と力を抜き、アルベルトの胸元に顔を埋めて寝息を立て始めた。


「……魔法か? やはり君の手は、神の授け物か……?」


「ただのベビーマッサージですよ。……さあ、パパ。リリアが起きたら大変だから、私たちも寝ましょう?」


アルベルトは愛娘を慎重にベビーベッドへ移すと、紬を背後からそっと抱きしめた。


「……ああ。君の香りが、私にとって一番の安眠剤だ」


かつての不眠公爵は、今や「世界一幸せな寝顔」を見せるパパになっていた。


一方その頃、隣領のシリル王子夫妻の別邸では。


「エレノア! 君、また僕の枕を勝手に『美容効果のある香油』まみれにしただろう! 香りが強すぎて、鼻が曲がりそうだよ!」


「なんですって!? それはシリル様の『おじさま臭』を防ぐための、最高級の処置ですわよ! 感謝なさいませ!」


相変わらずの痴話喧嘩を繰り広げているのは、シリルとエレノアだ。


だが、シリルの手はエレノアの肩を抱いて離さず、エレノアも文句を言いながらシリルの胸板をペシペシと叩いている。


「……ふん。君がそこまで言うなら、今夜は君の腕を枕にして寝てやる。美容効果とやらを、僕が直接確かめてあげよう」


「あら、受けて立ちますわ! 私の腕は、紬様の指導のおかげで、マッサージ器よりも心地よいのですから!」


数分後。


あれほど騒がしかった寝室からは、「……シリル様、苦しいですわ」「静かにして、エレノア。……愛してるよ」という甘い囁きと、幸せそうな二人の寝息が聞こえてくるのだった。


その夜、公爵邸の屋根の上では、カイルが静かに夜風に当たっていた。


「……リリアお嬢様、ようやく寝ましたね。紬さんのあの撫で方、僕も後でこっそり教わろうかな……」


さらに地下の研究室では、ゼノスが怪しく目を光らせていた。


「……ふむ。赤ん坊の心拍を検知して、自動で紬の声を再生する『全自動寝かしつけベッド・改』。……これが完成すれば、私はまた紬とゆっくり研究デートができるはずだ」


不健康な男たちは、今夜もそれぞれのやり方で、安眠聖女への変わらぬ愛を誓うのであった。

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