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聖女の力は安眠のために。〜ブラック企業帰りの私は、現代知識で冷徹公爵を寝かしつけます〜  作者: サバ味噌饅頭
第14章:聖女、公爵夫人になっても寝かせてもらえません!

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番外編 聖女のいない休息時間 〜彼らの安眠(?)な日常〜

公爵邸の執務室。深夜。


アルベルトは、部下が持ってきた「報告書」ではなく、一点の「クッション」を凝視していた。


「……こうか? いや、もう少し角度を……」


彼は、紬に教わった『安眠の呼吸法』と『セルフ・指圧』を忠実に再現しようとしていた。冷酷無比と恐れられる指が、自分のこめかみを不器用に揉みほぐす。


「……ちがう。紬の指は、もっとこう……吸い付くような……温かい……」


思い出しただけで、彼の耳たぶが赤く染まる。

そこへ、副官がノックもなしに入ってきた。


「閣下、明日の軍議の――って、閣下。何をしておられるのですか。自分の顔をそんなに必死に揉んで……」


「……下がれ。これは魔力循環の調整だ。……断じて、彼女の指の感触を思い出そうとしていたわけではない」


「……そうですか(隈が消えてから、閣下がどんどん面白くなっている……)」


            ------------------


サロンの屋根裏。カイルは音もなく梁の上に陣取っていた。


本来の任務は「紬の護衛」だが、今の彼は、紬が客(街の住人)にマッサージをしている様子を、身を乗り出して観察している。


「……あーあ。あのおじさん、紬さんに腰を触られて。……僕なんて、この前『実験台』になった時、肩甲骨のキワまで攻められたんだからね。僕の方が、絶対に紬さんの技術に詳しい自信がある」


カイルは、懐から紬が残した「残り香のハーブ袋」を取り出し、深く吸い込んだ。


「……閣下も王子も、正面から行くからダメなんだよ。……僕は影から、紬さんの『一番のお気に入り』の実験台になるんだ。……そのためには、明日はもっと派手に腰を痛めたフリをして……ふふっ」


その暗闇の中での微笑みは、わんこどころか、完全に獲物を狙う狩人のそれだった。


            ------------------


サロンの隣に建てられたシリルのヴィラ。テラスでは、シリルとエレノアが向き合っていた。


「……で? 君はいつまで僕のテラスで『紬特製・デトックス茶』を飲んでいるんだい? エレノア嬢」


「あら、シリル様こそ。紬様に『ニキビができた』と泣きついて、特別メニューを組ませたのはどこのどなたかしら?」


二人は、お互いに「紬の特別枠」を狙っていることを知っている。

シリルは優雅にカップを置き、エレノアをじっと見た。


「君さ。アルベルトに相手にされないからって、紬に執着するのはどうかと思うよ。……まあ、君が紬の弟子になってくれるなら、僕が紬と二人きりになる時間を稼いでくれてもいいけど?」


「……お断りですわ。私が紬様を独占する時間を、シリル様が稼いでくださいませ。……でも、シリル様。あなた、先ほどからお茶のおかわりを注ぐタイミングだけは、完璧ですわね」


「……君も、文句を言いながらそれを飲み干すスピードだけは、一流だよ」


お互いに火花を散らしながらも、二人は「紬が淹れてくれたお茶」という共通点だけで、なぜか一時間以上も話し込んでしまうのだった。


            ------------------



地下の仮設研究所。ゼノスは演算盤を弾き続けていた。


「……理解不能だ。あの女の指圧。……圧力、湿度、摩擦係数。すべてが最適解ロジックから外れているのに、なぜ被験者の脳波は、ここまで完璧な『シータ波』を描く?」


彼は紬から聞き出した「界面活性」や「毛細血管の拡張」という単語を壁一面に書き殴っている。


「……彼女の指。……いや、彼女という存在そのものが、魔導学的特異点アノマリーか。……解析しなければ。一生かけて、彼女を解剖……いや、観察し続けなければ……」


ゼノスは、初めて「数式よりも興味深い対象」を見つけた高揚感で、また一晩、寝るのを忘れるのだった。

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