番外編 聖女のいない休息時間 〜男たちの譲れないこだわり〜
1. 【アルベルトvsシリル】究極の「安眠着」マウント
公爵邸の庭先。一触即発の空気が流れていた。
対峙するのは、鉄血公爵アルベルトと、第一王子シリル。
「……殿下。そのシルクのパジャマは、睡眠効率が悪すぎる」
アルベルトが突きつけたのは、新調したばかりの「最高級綿麻」の寝着だった。
「紬は言っていた。『締め付けのない天然素材が、深部体温の低下を促す』と。私は彼女の助言を、ミリ単位の誤差もなく具現化した」
対するシリルは、不敵に微笑み、自らの袖を撫でる。
「公爵、君は分かってないね。シルクの低摩擦は、寝返りのストレスをゼロにするんだ。……ああ、そういえば。紬も僕の袖を触って『いい肌触りですね』と、うっとりしていたよ?」
「……触らせたのか? 貴様、パジャマの袖を、彼女に」
アルベルトの瞳に、文字通り魔力の火花が散る。
「おっと、そこから先は想像に任せるよ。それより君のリネン、シワになりやすそうだね。紬は『清潔感』を重視する。……君のシワだらけな姿を見たら、彼女、きっと幻滅するだろうね?」
「……っ。副官! 今すぐ『防皺魔法』を付与したアイロンを持ってこい!!」
結局、二人は「どちらがより紬の理論を忠実に再現できているか」で一時間論争。
その夜、興奮しすぎて二人とも一睡もできなかったのは、言うまでもない。
2. 【カイル&ゼノス】隠密の「おやつ」争奪戦
サロンのキッチン。深夜。
カイルは音もなく、一瓶の「宝石」を手に取っていた。
紬が試作した『安眠効果のあるナッツの蜂蜜漬け』。
「……これ、アルベルト閣下への贈り物だよね。でも、閣下には甘いものより『苦い仕事』の方がお似合いだし……」
カイルは躊躇なく蓋を開けた。一切れ、口に運ぶ。
「……んー。紬さんの味がする(※紬さんが作ったという意味です)。……よし。閣下には『保存状態が悪くて発酵してました』って報告して、僕が全部処分してあげよう」
「……隠密。そのナッツの糖分濃度と、安眠成分の揮発率を計測させろ」
背後から響く、感情の欠落した声。ゼノスだ。
「半分は、私の研究室へ持っていく」
「ゼノスさん。これ、閣下のために作られた大事なものですよ? 半分も持っていったら、閣下が泣いちゃいますよ(棒読み)」
「……閣下が泣くのは、私の知ったことではない。……分けろ。さもなくば、お前の靴に『歩くたびに不快な音が鳴る魔法』をかける」
「……性格、歪んでるなぁ、もう」
結局、二人は紬に内緒でナッツを等分。
背中合わせで、一切の痕跡を残さず完食するのだった。
3. 【エレノア】「高貴な」セルフマッサージの限界
エレノアは自室で、孤軍奮闘していた。
テーマは、紬直伝の『ふくらはぎのリンパ流し』。
「右足はこう……次は左。……ああっ! もう、腕が疲れますわ!」
縦ロールを振り乱し、必死に自分の足を揉みほぐす。
「どうして紬様がやってくださる時はあんなに心地よいのに、自分でするとこんなに『労働』感が出るのかしら!?」
思考が、あらぬ方向へ飛び始める。
「……いっそ、シリル様にやらせてみようかしら? いえ、あの方はすぐ不純な動機で触ってきそうですし。……はっ! そうだわ。カイル様なら指の力も強いはず……。……でもあの方は、紬様の前に出ると急に『なよなよした犬』に退化しますしね……」
周囲の男たちが全員「紬限定」でポンコツ化している事実に気づき、エレノアは深い溜息をついた。
「……この国には、まともな殿方はいないのかしら。……でも、このオイルの香りは本当に素敵」
鏡に向かって「高貴な微笑み」を練習しつつ、彼女は誰よりも、明日という名の「紬に会える日」を心待ちにするのだった。




