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聖女の力は安眠のために。〜ブラック企業帰りの私は、現代知識で冷徹公爵を寝かしつけます〜  作者: サバ味噌饅頭
第13章:安眠の霧、王都を包む

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第四話 私はただ、寝たいだけです

王都が真の安らぎを取り戻したその日の正午。 王宮の謁見の間には、不眠の呪いから回復したばかりの国王をはじめ、主要な貴族たちが顔を揃えていた。厳かな静寂の中、国王が玉座から立ち上がり、紬に向かって深く、重みのある声を響かせた。


「紬よ。そなたはエドワードの暴挙を止め、我が命を救い、王都全域に平穏をもたらした。その功績は、建国以来の伝説に匹敵するものである」


国王が合図をすると、侍従たちが金色の盆に載せられた豪華な勲章と、羊皮紙の巻物を差し出した。


「そなたに『救国の聖女』の称号と、公爵に準ずる地位を授ける。さらに王都の中央に君のための広大な屋敷を用意し、生涯を保証するだけの莫大な年金と、王宮魔導具開発局の総責任者の椅子を約束しよう。さあ、その誇り高き首に、この勲章を――」


誰もが息を呑むような、破格の報奨。かつて紬を追放した貴族たちは、その圧倒的な「格付け」の差に震え、掌を返すように羨望の眼差しを送っている。前世で、激務の末に「昇進」というエサを与えられ、さらなる責任(残業)を押し付けられた数々の不運な先輩たちの顔が紬の脳裏をよぎり、彼女の生存本能が激しく警鐘を鳴らした。


しかし、紬は一歩も前に出ることなく、その場で優雅に、しかし即座に首を振った。


「謹んで、すべてお断りいたします」


謁見の間が、凍りついたような静寂に包まれた。国王も、差し出された勲章を握ったまま目を見開いている。


「……何だと? 地位も、名誉も、富も……すべて不要と言うのか?」


「はい。称号なんて肩書きが重くて肩が凝りますし、そんな豪華な屋敷、管理や掃除のことを考えただけで眠れなくなっちゃいます。総責任者なんて、責任という名の『残業』が目に見えてるじゃないですか」


紬は、呆気にとられる一同をよそに、清々しい笑顔で言い放った。


「私はただの有給休暇中の聖女です。今回のことは、自分の休暇を邪魔されたことに対する個人的な『おしおき』に過ぎません。私が本当に欲しいのは、勲章でも役職でもありません」


「……では、そなたは何を望むのだ。余が叶えられることなら、何でも言ってみよ」

紬は、隣で静かに自分を見守っているアルベルトと視線を合わせ、それから国王を真っ向から見据えた。


「私はただ、北の地のサロンへ帰って、有給の続きを消化したいだけです。誰にも邪魔されず、好きな時に起きて、好きな時に眠る。……私はただ、寝たいだけなんです」


「……寝たい……だけ?」


「ええ。安眠こそが、私にとっての最高の報酬ですから」


聖女のあまりにも「個人的」で「健康的」な宣言に、国王は一瞬呆然とした後、堪えきれずにお腹を抱えて笑い出した。その笑い声は、王宮を覆っていた澱みを完全に吹き飛ばすほど朗らかだった。


「ははは! まさか、この余が、一晩の睡眠に敗北するとはな! よかろう、聖女・紬よ。そなたの『有給休暇』は、王国の法律をもってしても侵してはならぬ特権として認めよう!」


こうして、紬は歴史に名を残す救世主としての地位を、自分の「心地よい昼寝」のためにあっさりと投げ捨てた。その潔い引き際に、彼女を蔑んでいた者たちは言葉を失い、彼女を知る者たちは、ますますその「安眠」の深さに魅了されるのだった。



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