表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女の力は安眠のために。〜ブラック企業帰りの私は、現代知識で冷徹公爵を寝かしつけます〜  作者: サバ味噌饅頭
第11章:忍び寄る王宮の影、安眠の終わり?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/87

第四話 失われた「眠り」: 王都で蔓延する謎の熱狂

ゼノスが震える手でテーブルに置いた、奇妙な多面体の魔導具。それが鈍い音を立てて起動すると、青白い光が部屋の空気を侵食し、王都の惨状を映し出す立体的なホログラムが浮かび上がった。


「……何よ、これ。これがあの、光あふれる王都なの?」


紬は思わず息を呑んだ。そこに映し出されていたのは、彼女が知る、石畳に馬車の音が響き、夜には柔らかなガス灯が街を包む穏やかな都ではなかった。


映像の中の王都は、真夜中であるはずなのに、眩いほどの魔導光で埋め尽くされている。広場では、民衆が血走った目で、何かに取り憑かれたように演説を聞き、激しく拳を振り上げている。大通りでは、昼夜を問わず建築資材を運ぶ男たちが、限界を超えて腫れ上がった足を引きずりながら、一度も足を止めることなく石畳を走り続けていた。それは前世で見た、アドレナリンと栄養ドリンクだけで命を前借りし、壊れるまで走り続ける「狂気のプロジェクトルーム」を、一国の規模まで拡大したような地獄絵図だった。


「……見てくれ、この子供たちの目を」


ゼノスの声は、深い絶望に沈んでいる。 映像が寄った先には、寄宿学校の教室に座る子供たちがいた。深夜二時を回っているというのに、誰一人としてまどろむことすら許されていない。彼らは虚ろな目で、ページをめくる指を震わせながら教科書を読み耽っている。その瞳孔は異常なほどに開き、頬はこけ、まるで精巧な操り人形のようだった。


「第一王子エドワード殿下が……あの狂った男が、王家の禁忌の蔵から『不夜のレガリア・エヴァーウェイク』を持ち出したんだ」


「不夜の鐘……? そんなもの、ただの御伽噺だと思ってたわ」


「実在したんだよ。その鐘が放つ特殊な魔導波は、脳の生存本能を麻痺させ、強制的な全能感を植え付ける。鐘の音が王都に響くたび、人々は眠りを『進化を妨げる悪』だと信じ込まされる。……疲労を感じないのではない、疲労を感じる機能そのものを、王子に奪われたんだ」


かつて紬を「効率の悪い無能」と蔑み、国から追放したエドワード。彼は、紬が提唱した『睡眠による自己治癒』の対極にある、究極の『24時間稼働国家』を強引に作り上げていた。


「今の王都は、数字上ではかつてない繁栄を遂げているよ。24時間稼働する工場、不眠不休で訓練を続ける鉄の軍隊、そして膨れ上がる税収。……エドワード殿下は、これこそが隣国の脅威に勝ち勝つ唯一の道だと信じている。だが、実態は見ての通りだ。人々の精神は摩耗し、感情は死に、ただ効率という名の魔物に食い荒らされている。……今の王都は、巨大な過労死予備軍が、笑いながら死に向かって行進している地獄絵図だ」


ゼノスが魔導具を止めると、部屋に重苦しい静寂が戻った。 映像が消えた後も、紬の網膜には、あの血走った目で見つめ返してくる子供たちの顔が焼き付いて離れなかった。


「……眠れないことが、どれほど魂を削るか。あの王子は、何一つ分かっていないのね」


紬の拳が、白くなるほど強く握りしめられる。 安眠を愛する彼女にとって、それは単なる暴政ではなかった。人間の尊厳を根底から踏みにじる、決して許すことのできない「最大の冒涜」だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ