表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女の力は安眠のために。〜ブラック企業帰りの私は、現代知識で冷徹公爵を寝かしつけます〜  作者: サバ味噌饅頭
第9章:秘密のトリートメント、争奪戦!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/85

第一話 「主治医」の奪い合い

シリル王子のヴィラがサロンの隣に建ち、さらにエレノアまでもが弟子入りしてからというもの、紬の隠居生活はもはや「静養地」とは呼べない賑やかさになっていた。


ある日の午後。増築されたばかりのサロンには、またしても爆発寸前の「殺気」と「甘い誘惑」が入り混じっていた。


「紬、今日は僕の肩がひどく凝っているんだ。王都から持ってきた政務も手につかないほどでね。……君のその魔法のような指で、僕の心も体も優しく解してくれないかな?」


シリルが、まるで絵画から抜け出してきたような完璧なポージングで紬に歩み寄り、その手を取ろうと身を乗り出す。 しかし、その指先が紬に触れる直前、大きな鉄の手――アルベルトの拳が、音もなくシリルの襟首を掴んで、そのまま雑巾のように引き剥がした。


「……殿下。紬の指は、私の魔力暴走を抑え、領内の安寧を保つための聖域だ。貴様のような、単なる『夜更かしが原因の遊び人』が、好奇心で触れていいものではない」


「ひどい言い草だね、公爵。僕は遊び人じゃない。君という想定外の強敵ライバルを前にして、一睡もできないほど恋に悩んでいる繊細な男なんだよ」


シリルは襟首を掴まれたまま、不敵な笑みを浮かべて紬を見つめる。


「……紬、彼のような無骨な男を放っておいて、僕のヴィラへ行こう。君の肌に最も馴染むよう、白鳳鳥の産毛だけを厳選した『究極の羽毛布団』を用意させたんだ。あそこでなら、誰にも邪魔されずに僕と――」


「シリル様、それは誘い方が直球すぎてセクハラ……いえ、完全にアウトです。それからアルベルト様も。第二王子の襟首を野犬の首輪みたいに扱うのはやめてください。外交問題になったら、私の睡眠時間がさらに削られるでしょうが」


紬は手に持っていたハーブ仕分け用のトレイを机に叩きつけ、深く、重たい溜息をついた。 目の前の二人は、国を背負う立場でありながら、紬の前では驚くほど子供じみた独占欲を剥き出しにする。前世で「他部署の重要案件」を押し付け合う、責任感のない重役たちを思い出して紬は眉間を揉んだ。


「あんたたちの『肩こり』が本当か嘘か、私の指が一番よく知ってるわよ。……はい、二人とも並んで」


紬は事務的に、しかし容赦のない速さで二人の背後に回った。


「え、あ、紬……?」


「紬、何を――」


言葉が終わる前に、紬の両手の親指が、二人の首の付け根にある自律神経の急所――「風池」と「天柱」を同時に捉えた。かつて締め切り直前の殺気立った編集部で、暴走する上司を無力化してきた「伝説の指圧」が、異世界の英雄たちに炸裂する。


「制裁の特別メニュー。奥義、『強制鎮静・一点集中フォーカス』!」


「ああっ……!?」


「ひ、ぎっ……! おぉ……っ!」


紬が絶妙な角度で体重を乗せると、二人は同時に、なんとも言えない艶めかしくも悲痛な声を漏らし、そのまま糸が切れたように膝をついた。最強の騎士の魔力も、王子の甘いオーラも、紬の「物理指圧」の前では無力化される。その一撃は、魔力を遮断するのではなく、あまりの「快感と弛緩」によって戦意を根こそぎ奪い去るという、ある意味で呪いよりも恐ろしいものだった。


「……少しは落ち着きました? 二人とも、脳に血が上りすぎなのよ。これじゃ眠れるはずがないわ」


紬は膝をついて荒い呼吸を繰り返す二人を冷めた目で見下ろし、エプロンのポケットから温度計を取り出した。


「今日のメニューは『足湯』よ。殺気を放って熱くなった頭を冷やすには、足を温めて血液を下に降ろすのが一番なの。……いいから、大人しく並んで座りなさい。拒否権はないから」


サロンの奥から運ばれてきたのは、木の香りが清々しい二つの桶。 紬は、悶絶しながらも「……紬に触られた……」とどこか嬉しそうな顔をしている二人の猛獣を椅子に押し付け、その足を強引に温かな湯の中へと沈めた。



静かなサロンに、バシャリ、というお湯の音だけが響く。 こうして、安らぎの聖女を巡る「大人げない争奪戦」の第一ラウンドは、強制的な足湯タイムによって一時休戦となったのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ