番外編 安眠聖女の「パジャマ・パーティー」と、男たちの不法侵入(未遂)
「いい、エレノア。安眠の質を左右するのは、枕や香りだけじゃないわ。直接肌に触れる『着衣』……そう、パジャマこそが最後の鍵なのよ」
ある夜、紬はサロンの一室で、エレノアを相手に熱い講義を繰り広げていた。
紬が手にしているのは、王都から取り寄せた最高級の綿を、ドワーフの技術で限界まで細く紡がせ、さらにハーブの抽出液で防虫・リラックス加工を施した特製の布地である。
「パジャマ……? 淑女は夜、豪華な刺繍の入ったネグリジェを纏うのが常識ですが……」
「それよ! そのフリルやレースが寝返りの邪魔をして、肌を刺激するの。安眠の天敵は『装飾』なのよ。今夜はこれに着替えて。私が考案した、究極の二部式パジャマよ」
紬が差し出したのは、現代の「スウェット」や「シルクパジャマ」に近い、機能美を追求したシンプルな一着だった。
一時間後。
パジャマに着替えたエレノアは、そのあまりの解放感に震えていた。
「な、なんですの、この『着ていない』かのような軽やかさ……! 締め付けが一切ありませんわ! 紬様、わたくし、自分が雲になった気分です!」
「でしょ? 腹巻もセットだから、寝冷えの心配もないわ。さあ、今日はこのまま女子会よ」
二人が特製パジャマでリラックスし、新作のハーブティーとドライフルーツを楽しんでいた、その時。
……ドォン!!
「紬! 大丈夫か! 何やら不穏な『解放感』の気配を感じたが……!」
「紬! 扉を開けて! 君が雲になったって声が聞こえたけど、まさか空へ昇ってしまうのかい!?」
扉の外では、案の定、アルベルトとシリルがパニックを起こしていた。
カイルの「特殊隠密訓練」を修了したはずの彼らだが、紬のことになると途端にデシベルの制御ができなくなる。
「……もう、うるさいわね。今は女子会中。立ち入り禁止よ」
紬が冷たく言い放つが、シリルの執念は凄まじかった。
「女子会? ズルいよ! 僕も、僕もその『雲になる服』を着れば参加資格があるよね!? カイル、今すぐ僕にそれと同じ服を用意して!」
「……殿下、それはさすがに……。いえ、私も少し興味はありますが……(天井裏からの声)」
「カイル、貴様まで! ……紬、私にも、その……その服があれば、さらに深い眠りを得られるのだろうか」
扉の向こうで、最強の騎士(公爵)が、モジモジしながら「お揃い」をねだる気配。
結局、根負けした紬は、後日二人(+カイル)の分までパジャマを縫わせる羽目になった。
数日後の夜、サロンのリビングには、お揃いのパジャマを着て、よだれを垂らしそうになりながらソファで「整っている」公爵、王子、隠密、そして令嬢の姿があったという。
「……有給休暇の静寂を守るはずが、なんで部屋着のユニフォーム化が進んでるのかしら」
紬は、全員がお揃いのパジャマで爆睡しているシュールな光景を眺め、自分もまた、特製の腹巻をしっかりと締め直し、愛用のベッドへと潜り込んだ。




