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聖女の力は安眠のために。〜ブラック企業帰りの私は、現代知識で冷徹公爵を寝かしつけます〜  作者: サバ味噌饅頭
第8章:新装開店! 癒やしの庭園と秘密のハーブ

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第四話 紬の小さな夢:サロンの増築計画

豪商マルコとの「匿名ブランド契約」によって、紬の手元には、平民が一生かかっても使い切れないほどの金貨が舞い込んできた。 だが、紬の物欲は相変わらず枯れ果てていた。宝石にもドレスにも興味はない。彼女が求めているのは、ただ一つ。


「……よし、増築するわ。防音性能を今の三倍に上げた、完全独立型の『安眠特別室』を作るのよ」


紬の宣言に、公爵邸のお抱え大工たちが総動員された。 紬が設計図として提示したのは、現代のレコーディングスタジオや高級ホテルのスイートルームの知識を詰め込んだ、異世界基準を逸脱した「沈黙の部屋」だった。かつて騒音トラブルに悩まされた安アパートでの日々や、耳栓が手放せなかったオフィスでの苦い記憶が、彼女の筆を走らせる。


「いい? 無響石と火山岩の二重構造にするの。壁には防音効果のある火山岩のプレートを敷き詰めて。床は振動を吸収する特殊なゴム……じゃなくて、弾力のある魔獣の皮を多層構造にするわ。窓は完全な遮光を保証する二重構造。ここに入れば、外でドラゴンが咆哮してようが、戦争が始まってようが、10デシベル以下の静寂を保つのがノルマよ」


「……紬、その『10デシベル』とやらが何かは分からんが、気合は伝わった。私が魔力で壁の強度を補強しよう」


アルベルトが、頼んでもいないのに壁材に強化魔法を注ぎ込み始める。


「紬! 僕のヴィラから、最高級のシルクを壁紙として提供するよ。音を吸い込むだけじゃなく、見た目も美しくないと安眠できないだろう?」


シリルが、ヴィラのカーテンを引きちぎらんばかりの勢いで資材を運び込む。

だが、問題はここからだった。 紬が作成した増築案の周囲に、二人の男が勝手に「自分の部屋」を書き加えたのだ。


「待て、シリル。なぜ紬の寝室の右隣が君の部屋になっているんだ? 護衛の観点から言えば、私が右隣、カイルが天井裏、これが定石だ」


「アルベルト、君は公爵邸があるじゃないか。僕は『隣のヴィラの住人』なんだから、増築部分の左隣は僕の権利だよ。むしろ渡り廊下で繋ぐべきだね」


「……あんたたち、私の設計図に落書きしないで。これは私の『隠れ家』であって、『シェアハウス』じゃないのよ」


紬が冷たい視線を向けると、二人は一瞬怯んだが、すぐに「紬の安全(独占欲)のため」という謎の正当性を主張し始めた。 結局、エレノアまでが「わたくしの美容実習室も必要ですわ!」と参戦し、工事現場は、当初の「小さな静かなサロン」から、さながら「鉄壁の要塞サロン」へと変貌を遂げていった。職人たちは、王族と公爵の板挟みになりながら、もはや宮殿を建てる時以上のプレッシャーの中でノミを振るう羽目になった。


数週間後。 完成したのは、外見こそ領地の風景に馴染む石造りの家だが、その内部は、魔法と現代知識が融合した史上最強のリラクゼーション施設だった。


増築された『安眠特別室』のドアを閉めた瞬間、外界の音は一切途絶えた。 そこにあるのは、自分の心臓の鼓動すら聞こえそうなほどの、深い、深い、漆黒の静寂。


「……あぁ、これよ。これが欲しかったの」


紬は、新調された最高級のマットレス(マルコに探させた逸品)に身を投げ出した。 外では、相変わらず「右隣の部屋の鍵は誰が持つべきか」でアルベルトとシリルが小競り合いを続けているようだが、この部屋にはその雑音すら届かない。


紬は、人生で初めて手に入れた「完璧な城」の中で、誰に気兼ねすることもなく、深いまどろみの中へと沈んでいった。


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