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聖女の力は安眠のために。〜ブラック企業帰りの私は、現代知識で冷徹公爵を寝かしつけます〜  作者: サバ味噌饅頭
第7章:聖女のサロンは満員御礼 〜恋と不眠は、寝て治せ〜

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番外編 カイルの独白 〜静寂の守護者は眠れない〜

フェルゼン領の夜は深い。

私は今、紬様の屋敷から北に三百メートルの地点、樹齢二百年の大木の枝に潜んでいる。


私の任務は「静寂の守護」。

紬様の眠りを妨げるあらゆるノイズ——森の獣の遠吠え、風に舞う枯葉の音、そして……壁一枚隔てた隣家から漏れ聞こえる、我が主君たちの「重すぎる独占欲の残響」を排除することだ。


「……ふぅ」


私は闇に溶け込みながら、小さく溜息をついた。

正直に言おう。私自身の睡眠時間は、紬様がこの地に来てからというもの、以前の半分以下に減っている。


かつてのアルベルト閣下は、ただ「死神」のように不気味で静かな不眠症だった。私はただ、閣下が誰かを斬り殺さないよう監視していればよかった。しかし、今の閣下はどうだ。


「カイル、紬の寝息が聞こえない。もしや息が止まっているのではないか?」

「カイル、明日の紬の朝食に使う卵だが、鶏の鳴き声がうるさくては彼女が目覚めてしまう。領内の鶏をすべて防音室へ移動させろ」


……閣下。あなたは公爵であり、大陸最強の騎士団長です。鶏と戦ってどうするのですか。


さらには第二王子、シリル殿下だ。あの御方はもっと質が悪い。


「カイルくん。紬の夢の中に、僕以外の男……例えば兄上とかが出てこないように、何か『夢干渉魔法』の結界を張れないかな? もちろん、僕とのデートの夢は見られる設定で」


殿下。私は隠密であって、夢の管理人ドリームガーディアンではありません。


私は手帳を取り出し、本日の「異常報告」を記録する。

『14時:アルベルト閣下、紬様の靴を磨くために最高級の魔導ブラシを発注。』

『16時:シリル殿下、紬様の散歩道に「足音がしない砂」を敷き詰めようとして、土木ギルドと交渉開始。』


……この屋敷の周辺は、もはや物理法則よりも「彼女への執着」の方が強く作用している。


ふと、階下の窓を見る。

そこには、少し前に風邪から回復し、今は泥のように深く眠っている紬様の寝顔があった。


彼女に出会うまで、私たちは皆、何かに追い立てられるように生きていた。閣下は呪いに、殿下は期待に、そして私は「任務」という名の虚無に。

だが、彼女が「寝なさいよ」と一喝し、その小さな指先で私たちの強張った神経を解きほぐした瞬間。私たちは初めて、明日が来ることを恐れずに目を閉じることができたのだ。


だからこそ、私は眠れない。

彼女が守ってくれたこの安らぎを、今度は私が、命に代えても守り抜かなければならない。


……カサリ。


北東方向、距離五十。

一匹の野ウサギが小枝を踏んだ。紬様の眠りを妨げるには微かな音だが、今の私には落雷も同然だ。


「……おやすみ」


私は音もなく枝を蹴り、空中で「無音化の陣」を展開する。ウサギが次に足をつく前に、私はその周囲の振動をすべて影へと引きずり込んだ。


「(……紬様。どうぞ、そのまま。あなたの夢が、誰にも邪魔されない穏やかなものでありますように)」


夜明けまであと三時間。

「安眠の聖女」を支える裏方たちの戦いは、今夜もまた、誰にも知られることなく続いていく。


……ちなみに、先ほどから私の背後に気配を消して立っているエレノア嬢。

「紬様の寝顔を写し取りたいので、夜目ナイトビジョンの魔道具を貸してくださいませ」と囁くのはやめてください。私の胃が、もう限界です。


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