表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女の力は安眠のために。〜ブラック企業帰りの私は、現代知識で冷徹公爵を寝かしつけます〜  作者: サバ味噌饅頭
第6章:安眠妨害の第二王子と、不眠公爵の独占欲

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/85

番外編 社交界沈没!エレノアの「安眠香水」プロデュース

王都の神殿で紬がエドワード王子を「強制終了」させてから数週間。王都の貴族たちの間では、ある「禁断症状」が蔓延していた。


「……あの、淡い光と共に漂った、天国のような香りが忘れられない……」

「あの香りを嗅いだ瞬間、長年の不眠が嘘のように消えたのです。あれこそが真の救い……」


紬が放った《リラックス・オーラ》の残り香は、ストレス社会に疲弊した貴族たちの心を完全に掴んでしまったのだ。そんな「安眠難民」たちの声を、鋭い商機として捉えたのが、フェルゼン領の公爵令嬢エレノアだった。


「紬様! 朗報ですわ! 王都の皆様があまりにも哀れでしたので、わたくし、紬様が調合されたアロマをベースに、一般向けの香水を開発いたしましたの!」


北の地、紬のサロンにエレノアが持ち込んできたのは、美しくカッティングされたクリスタルの小瓶。ラベルには、金文字で**『聖女の休息 〜強制終了シャットダウンの香り〜』**と記されている。


「……え、なにその物騒な商品名。あと、勝手に商品化しないでよ、私の有給に仕事を持ち込まないでって言ったじゃない」


紬はソファで寝そべりながら、迷惑そうに目を開けた。


「あら、紬様は監修としてお名前を貸してくださるだけで結構ですわ。配合は、あの日紬様が使われた『エドワード殿下トドメ用オイル』を、死なない程度……いえ、日常生活に支障がない程度に薄めてありますの。美容と健康に効果抜群ですわよ!」


「薄めたのね? 本当に薄めたのね? 事故が起きても知らないわよ……」


紬の適当な(投げやりな)承諾を得て、その香水はエレノアの強大な流通網に乗せられ、王都の社交界へと解き放たれた。


数日後、王都では建国以来の珍事が発生していた。

発端は、王立騎士団の記念舞踏会。着飾った令嬢や騎士たちが一堂に会する、一年で最も華やかな夜会のはずだった。


「……あら、今日の皆様、なんだかとても良い香りが……」

「ええ、これが噂の……。なんだか、急に肩の力が抜けて……」


会場のあちこちで、エレノアが発売した『聖女の休息』が振り撒かれていた。最初は「心が落ち着く」程度の評価だったが、数百人の貴族が一箇所に集まり、全員がその香水を身に纏ったことで、会場内の成分濃度は紬の「直撃指圧」に匹敵するレベルまで上昇。


「あ、れ……? 視界が、ゆっくりと……」

「お、お嬢様……。ダンスの途中、ですが……私は、もう……」


バイオリンの優雅な旋律が流れる中、フロアで踊っていた騎士が、白目を剥いてパートナーの肩に崩れ落ちた。それをきっかけに、ドミノ倒しのように人々が床に沈んでいく。


「……おやすみなさい……世界……」

「定時退社、万歳……」


かつては権力闘争と虚飾の場だった舞踏会会場は、わずか三十分で、数百名の貴族が折り重なって眠る「巨大な雑魚寝会場」へと変貌を遂げた。


報告を受けたエドワード王子(最近は紬の恐怖で規則正しい生活を送っている)が現場に駆けつけた時には、音楽隊までもが楽器を抱えたまま爆睡しており、会場には静かな寝息と、微かなラベンダーの香りが漂うばかりであった。


「……というわけで紬様。王都の夜会はすべて中止。人々は争うことをやめ、街は夜の8時には静まり返るようになりましたわ! まさしく平和の香り、これぞ『聖女の奇跡』ですわね!」


北の地で、エレノアが誇らしげに売り上げ報告書(という名の貢ぎ物)を差し出す。


「……平和っていうか、単なる集団昏睡じゃない。まあ、静かになったんならいいけど……」


紬は、窓の外でカイルが「一歩も音を立てない訓練」をしているのを見つめ、相変わらず自分の周りから常識が消えていくのを感じながら、また一つ深い欠伸をした。


「……とりあえず、私の家の周囲ではその香水、使用禁止ね。……これ以上寝たら、私、本当に石像になっちゃうわ」


こうして、王都の貴族たちは「物理的な安眠」という最強の武器を手に入れたが、紬のサロンへの予約リストは、さらに数年先まで埋まることになったのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ