第四話 聖女の噂、王都を席巻す
紬を「隈だらけのゴミ」と呼び、城からつまみ出した日から数ヶ月。 第一王子エドワード・フォン・ルミナリスは、最悪のコンディションの中にいた。
彼が「本物」と信じて囲った女子高生聖女の『光の聖剣』は、確かに魔物をなぎ倒す派手な力を持っていた。しかし、その輝きはあまりにも眩しく、刺激が強すぎた。彼女が力を振るうたびにエドワードの神経は高ぶり、城内の者たちは常に興奮状態で衝突を繰り返す。それはまるで、休息のない戦場で強壮剤を打ち続けられているような、歪な覚醒状態だった。
結果として、王都は慢性的なギスギス感に包まれ、エドワード自身の肌荒れ(ビタミンB不足)も悪化の一途を辿っていた。
そんな折、北のフェルゼン領から届く報告書が、彼の逆撫でされた神経をさらに苛立たせる。
『北の地に、指先一つで荒れ狂う呪いを鎮める癒やし手が現れた』 『氷の公爵、平民の女の膝で赤子のように眠る』 『その女の指先には、あらゆる魔導薬を凌駕する「神の安らぎ」が宿っているという』
エドワードは執務室で書類を叩きつけた。
「ふざけるな……! 紬だと? あの、鑑定水晶を使い捨てライター程度にしか光らせられなかった、あの地味で可愛げのない無能女が……北の地で聖女と崇められているだと!?」
彼にとって、紬は「何も生み出さないハズレ個体」だったはずだ。しかし、彼女を追い出してからというもの、自分を囲む空気からは「平穏」という概念が完全に消え去った。紬の地味な「癒やしの波動」こそが、王都の猛々しい魔力を中和し、人々を深い眠りへと誘うバランサーであったことに、愚かな王子はまだ至っていない。
「……シリルまでが北へ向かったきり戻らん。公爵も、あの女を独占しているというではないか。不快だ。実に不快だ!」
エドワードは、鏡に映る自分のひどい顔――寝不足とストレスでボロボロになった肌――を見て、忌々しげに顔を歪めた。
「使いを出せ。……その紬という女を、王都へ連れ戻すのだ。私が『救世の聖女』としての役目を与え直してやろう。私に最高の休息を献上すれば、以前の無礼を許してやってもいい」
彼はまだ気づいていなかった。 紬にとってエドワードは、安眠を妨害し、不快な騒音を撒き散らす「巨大な有害廃棄物」以外の何物でもないということに。




