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聖女の力は安眠のために。〜ブラック企業帰りの私は、現代知識で冷徹公爵を寝かしつけます〜  作者: サバ味噌饅頭
第6章:安眠妨害の第二王子と、不眠公爵の独占欲

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第三話 共同作業(?)と、安眠のための荒療治

朝食バトルから数時間。事態は沈静化するどころか、さらに悪化していた。


「紬、この羽毛は少し硬くないか? 僕のヴィラから最高級の白鳳鳥はくほうちょうの羽毛を持ってこさせよう。君の安眠には僕の財力が必要だ」


「余計な真似を、シリル。……紬、防音魔法の触媒を強化した。これで隣のチャラついた男の声も聞こえなくなるはずだ。私の魔力が君を守る」


サロンの中では、シリルが勝手に家具の配置換えを始め、アルベルトは壁に手を当ててゴリゴリと魔力を流し込んでいる。二人の美男子が狭い屋敷の中で小競り合いを続けるたび、床が揺れ、火花が散り、何より――うるさかった。


紬は、ソファに深く沈み込み、眉間を押さえて耐えていた。 彼女が欲しかったのは、静寂だ。誰にも邪魔されない、穏やかな暗闇だ。それなのに。前世で、締め切り間際に不要な機能追加を議論し合うディレクターとエンジニアの怒号に挟まれていた、あの地獄のようなオフィス環境がフラッシュバックする。


「……あのね。二人とも」


「なんだい、紬? 遠慮せずに僕を頼って――」


「紬、何か不快な点があれば、この第二王子を今すぐ領外へ――」


「うるさいって言ってんでしょうがぁぁぁ!!」


紬の怒号が石造りの壁に反響した。その凄まじい気迫に、最強の騎士である公爵も、不敵な王子も、文字通り凍りついた。


「あんたたち、ここを何だと思ってるの? 私の隠居先よ! 有給休暇ホリデーの聖域なのよ! あんたたちがマウントを取り合ってるせいで、私の副交感神経は今、絶滅の危機に瀕してるの! 睡眠不足は万病の元。今のあんたたちは、私にとってただの『巨大なノイズ』なのよ!」


「ノ、ノイズ……? この僕が……?」 「紬、私はただ、君の環境を……」


「言い訳禁止! 脳が興奮して止まらないなら、強制終了シャットダウンさせるしかないわね」


紬の瞳に、冷徹な「仕事人」のスイッチが入った。彼女はまず、呆然とするシリルの背後に音もなく回り込むと、その美しいうなじにある、自律神経を司る急所を親指で捉えた。


「シリル様、初診のおまけよ。現代指圧奥義――『強制ログアウト』!」


「えっ……あ、がふっ!?」


紬が体重を乗せて垂直に圧を加えた瞬間、シリルの華やかな美貌が驚愕に染まり、そのまま糸が切れた人形のように膝から崩れ落ちた。


「次はあんたよ、隈男(公爵)! 徹夜してまで私の仕事を増やす不届き者には、特別メニューが必要ね!」


「ま、待て、紬! 私は――ぐ、おぉっ……!?」


逃げようとしたアルベルトの肩甲骨の隙間に、紬の容赦ない肘打ち(のような一点指圧)がめり込んだ。魔力の暴走を逆手に取り、一瞬で循環を正常化――もとい、急激な弛緩を強制する禁じ手。


ドォン! ドォン! と、床に二つの「美形の塊」が転がった。


「……ふぅ。……よし。静かになったわ」


紬は、床で揃って白目を剥いて爆睡し始めた二人を見下ろし、ようやく訪れた静寂を深く吸い込んだ。 エレノアはすでに「あら、わたくしも……」と、とっくにハーブの香りに誘われてソファで沈没している。


「カイル! カイル、いるんでしょ!」


天井の影から、カイルが困ったような、しかしどこか感心したような顔で姿を現した。


「……お呼びでしょうか。見事な手際ですね」


「この二人、隣のヴィラまで運んでおいて。あと、玄関に『猛犬……じゃなくて、猛者(公爵・王子)注意:施術中は静粛に』って看板立てて。……私は、これから三時間の昼寝に入るわ。……いい? 起こしたら、次はあんたを指圧で廃人にするわよ」


「……御意。どうぞ、良き夢を」


カイルが苦笑しながら二人を回収していく中、紬は自作の遮光カーテンをピッチリと閉めた。 外界の騒がしい男たちを排除し、ようやく手に入れた究極の暗闇。


紬はベッドに潜り込み、今日一番の幸せな溜息をついた。 たとえ明日、王都から軍隊が来ようとも、今の彼女を止めることはできない。

眠りの聖女の「鉄の休息」は、こうして守られたのである。


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