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聖女の力は安眠のために。〜ブラック企業帰りの私は、現代知識で冷徹公爵を寝かしつけます〜  作者: サバ味噌饅頭
第4章:聖域争奪戦・究極の有給防衛線(前編)

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第六話 魔力覚醒症候群のパンデミック

紬が宣言した「三日間の完全ストライキ」。 それは、安眠を貪る彼女にとっては至福の静寂になるはずだった。しかし、彼女という「精神安定剤」を突然奪われたフェルゼン領の重鎮たちは、禁断症状ともいえる異常事態に陥っていた。


ストライキ二日目の夜。紬は、遮光フェルトで完璧に密閉されたはずの室内が、妙に「明るい」ことに気づいて目を覚ました。


「……なによ、もう朝? いや、まだ深夜二時じゃない」


不審に思って窓の隙間から外を覗いた紬は、絶句した。 漆黒であるはずの北の夜空が、毒々しいほど鮮やかな極彩色のオーロラに埋め尽くされていたのだ。それは幻想的な自然現象などではなく、持ち主の情緒不安定に呼応して漏れ出した、アルベルトの膨大な魔力の残滓ざんしだった。


「(……あのバカ公爵。寂しいからって、空をディスコの照明みたいに光らせてんじゃないわよ……!)」


さらに、外からは不気味な物音が聞こえてくる。 ガシャガシャと鎧を鳴らし、一糸乱れぬ動きで家の周囲を徘徊する騎士たちの足音だ。彼らは「紬不足」による極限の過覚醒状態に陥り、眠れないストレスを「無意味な超広域哨戒」にぶつけていた。


「報告! 南方3キロ地点、小石が跳ねる音を確認! 紬様の安眠を妨げるノイズの可能性あり、排除する!」


「こちらも異常なし! 呼吸を止めろ、我らの心音が紬様の鼓動を乱すかもしれん!」


もはや警備という名の集団ヒステリーである。 さらに、エレノアにいたっては、紬に会えないストレスを「自分磨き」という名の執念に変え、深夜に私兵を動員して「森の枯葉を一枚残らず掃除して無音化する」という、狂気の清掃事業を開始していた。


「眩しいし、外はガサガサうるさいし……。これじゃ前世の『深夜のビルメンテナンス』の日と同じじゃないの!」


紬の堪忍袋が、ついに限界を超えて爆発した。


彼女は備蓄していた乾燥ハーブを大鍋にぶち込み、浄化の魔力を限界まで注ぎ込んで煮立たせた。完成したのは、吸い込んだ瞬間に象ですら昏倒するであろう、超濃縮・広域拡散型アロマ『強制終了のスリープ・ボム』である。


「いいわ、そこまでして構ってほしいなら、全員まとめて地獄の果てまで寝かしつけてやるわよ!!」


紬は屋根に登ると、魔力を込めたアロマの煙を、暴走するオーロラの空へと一気に放出した。


「あんたたち……いい加減にして寝なさい!!」


紬の叫びと共に、白い煙がフェルゼン領の夜空を覆い尽くしていく。


次の瞬間、オーロラが霧散し、徘徊していた騎士たちが、枯葉を掃いていたエレノアの私兵たちが、そして領主館の窓辺で黄昏れていたアルベルトが――。


ドォォォォン……! という、地響きのような同時多発的「沈没音」が、北の地に響き渡った。


「……ふぅ。これでやっと、静かになったわね」


紬は満足げに鼻を鳴らすと、ようやく訪れた本当の暗闇の中、自分のベッドへと潜り込んだ。

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