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聖女の力は安眠のために。〜ブラック企業帰りの私は、現代知識で冷徹公爵を寝かしつけます〜  作者: サバ味噌饅頭
第3章:安眠サロンへようこそ(※公爵専用……のはずが?)

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第四話 隠密騎士の再来と、望まぬ「業務委託」

エレノアがソファで「このクッション、なんて心地よいの……わたくし、もうこのまま根を張ってしまいたい……」と、とろけきっていた、その時。玄関の隙間から、音もなく一人の男が滑り込んできた。


「失礼します。……ほう、先客ですか。それも随分と『毒気』を抜かれたご様子で」

「あ、隈男くん。……じゃなくてカイルね。あんた、玄関は扉を開けて入りなさいよ。防犯意識が仕事しすぎて心臓に悪いのよ。不意打ちは交感神経が跳ね上がるから、私の安眠の敵なの」


現れたのは、かつて街道で紬に強制終了(爆睡)させられた隠密騎士、カイルだった。彼はエレノアを一瞥すると、紬の前で深々と頭を下げた。カイルにとって、今の紬はもはや警戒対象ではなく、信仰に近い敬意を払うべき「安らぎの主」となっていた。


「紬様、突然の訪問をお許しください。ですが、事態は一刻を争います。閣下の『三日ぶりの健やかな目覚め』を目の当たりにした騎士団上層部が、少々パニックになっておりまして。……特に我が団長が、あなたに直々に話があると聞きません」


「団長? 騎士団のトップが私に何の用よ。私はただ、静かに12時間寝たいだけの無職なのよ」


「話は馬車の中で。さあ、こちらへ」


「ちょっと、拉致!? 拉致なの!?」


抵抗する間もなく、紬はカイルに促され(半分くらい担がれ)、屋敷の前に用意されていた漆黒の豪華な馬車へと押し込まれた。エレノアの「紬様ぁ! わたくしを置いていかないでぇ!」という叫びが遠ざかる中、馬車は騎士団本部へと猛スピードで駆け出した。


馬車に揺られること三十分。辿り着いたのは、フェルゼン領の要塞とも呼べる巨大な石造りの建物。 案内された最深部の執務室で待っていたのは、熊のような体格に鋭い眼光を持つ男、フェルゼン騎士団長・グスタフだった。


「……お前が、閣下の呪いを指一本で鎮めたという小娘か」


グスタフは腕を組み、威圧感の塊のようなオーラを放っていた。並の人間なら震え上がる場面だが、紬は「あ、この人、典型的な『現場主義の厳しい部長』タイプだわ」と事務的に分析した。かつて、無理難題を吹っかけてくる上層部と現場の板挟みになり、常に苛立っていたかつての上司の顔が、グスタフの険しい表情と重なる。


「小娘じゃなくて紬です。……それで、お忙しい団長様がわざわざ私を呼び出したのは、昨夜の不法侵入と器物損壊(玄関)の謝罪広告の件でしょうか?」


「ふん、物怖じせん奴だ。……いいだろう、単刀直入に言う。閣下を救ったその『技』、我が騎士団にも提供してもらいたい。閣下の不眠に付き合わされ、神経をすり減らした精鋭たちが次々と倒れている。これは国防の危機だ」


「……はぁ? 私は隠居しに来たの。なんで騎士団の福利厚生まで担当しなきゃいけないのよ。業務過多、もとい、あからさまな職権乱用でしょ!」


「もちろん、無償とは言わん。報酬は望むまま。金か、名誉か?」


紬は鼻で笑った。金や名誉のために身を削った結果が、あのエナジードリンクにまみれた前世だ。そんなものに興味はない。


「金も名誉も、安眠の前ではゴミ同然よ。……いい? 私が欲しいのは『完璧な睡眠リソース』だけ。最高級の羽毛布団一式、寝室への遮音魔法の常時展開、それから、私が寝ている時は王族だろうと死神だろうと絶対に近づかせないという『不逮捕特権』。……これを条件に、週三日、残業なしの短時間勤務なら考えてあげてもいいわ」


グスタフは呆気に取られた。公爵を「死神」と呼び、騎士団長に「定時退社」を突きつける女。 だが、その瞳に宿るプロの自信に押され、彼は不敵に笑いながら手を差し出した。


「面白い。……その条件、呑もう。ただし、結果が出せねば布団は没収だぞ」

「……契約成立ね。一応、書面でハンコ……じゃなくてサインちょうだい。言った言わないのトラブルは嫌いなのよ」


こうして、安眠を求めたはずの元社畜は、異世界の地で図らずも「国家騎士団・専属リラクゼーション・コンサルタント」という謎のポストに就任することとなった。



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