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聖女の力は安眠のために。〜ブラック企業帰りの私は、現代知識で冷徹公爵を寝かしつけます〜  作者: サバ味噌饅頭
第3章:安眠サロンへようこそ(※公爵専用……のはずが?)

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第三話 最初の嵐(後編):令嬢攻略とチョロすぎる「美容」

だが、詰め寄られた紬は全く動じなかった。むしろ、目の前の令嬢の顔色を冷静に分析し、溜息をついた。


「知識がないのはあんたの方よ。……それよりあんた、人の心配してる場合? その厚化粧でも隠せてないわよ。肌は荒れてるし、口角も下がってる。相当疲れてるわね。胃腸が弱ってるし、肩も鉄板みたいにガチガチ。これじゃ夜中に何度も目が覚めるでしょ」


「な、ななな……何故それを!? ま、まさか本当に魔女……っ」


「魔女じゃなくて観察眼(プロ意識)よ。毎日パーティーだの、アルベルト様への追っかけだので、あんたの自律神経はもうボロボロ。……いいから、大人しく試しにこのハーブティーを飲みなさい。不機嫌と寝不足は、どんな高価な化粧水よりも美容を壊す敵よ」


「美容の……敵……?」


そのキーワードは、エレノアにとって何よりも致命的な一撃だった。 紬は呆然とするエレノアを半ば強引にソファへ座らせると、路銀で買い揃えた自家製ブレンドの「デトックス・ティー」を差し出した。紬にとって、無理難題を押し通す高圧的なクライアントを懐柔するのはお手の物だ。相手が一番大切にしている「バリュー(価値観)」を見抜き、そこを突く。広告業界の最前線で磨かれたそのスキルは、異世界の令嬢相手にも遺憾なく発揮された。


「……っ、少しだけ。本当に少しだけ、毒見として飲んで差し上げますわよ! 粗末な味でしたら即刻打ち首ですからね!」


そう宣言してカップを口に運んだエレノアだったが、数秒後にはその瞳から険しさが消え、代わりにうっとりとした光が灯り始めた。


「……あら。……美味しい。……なんだか、胃のあたりからポカポカして、心が洗われるようですわ……。黄金バラの香油よりも、ずっと、穏やかで……」


「それは胃腸の緊張を解くハーブよ。あんた、本当は無理して高貴に振る舞いすぎて、毎日お腹が張ってたでしょ」


「……ううっ、そうなのですわ……。淑女たるもの、いつでも背筋を伸ばしていなければならなくて……でも、最近は食欲もなくて……」


数分後。 「エレノア様、そろそろお帰りの時間に……」と声をかけた侍女に対し、「あと少し! あと少しだけここにいさせてちょうだい!」と、ソファで完全に毒気を抜かれ、クッションを抱きしめてうっとりしているエレノアの姿があった。 紬は、自分のお気に入りハーブを勝手にムシャムシャ食べている令嬢を見ながら、そっと心の中で毒づいた。


(この子、プライドは高いけど、圧倒的にチョロいわね……。公爵の次は、わがままお嬢様のケア担当にされるわけ?)


安眠のための「隠居生活」は、理想とは程遠い方向に加速し始めていた。


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