episode130 長い旅路へ
宇宙船カラートに残っていた船の状態を調べ、ついでにエンジン周りも見ていった。
が、やはり臨界運転でぶん回していたようで再起不能の状態だった。
あの時のユリアの咽び泣く姿を俺達は忘れない。
さて、一通りの調査を終えてノアセダル王国へ帰ってきた俺達に待ち受けていたのは――
「ありがとー!!」
「英雄達の凱旋だー!!」
第三艦橋から降りた俺達に感謝の言葉と称賛の声が轟く。
今手を上げたらどうなるかな?
そう思って手を上げてみたら一層沸いた。
「……そういえばガルガンチュア倒したんだったな。俺達」
「……えっ!? 忘れてたんですか!?」
隣に立っていたレン君からツッコミが入った。
いやぁ、カラートでのことがあまりにも大きかったからそっちに気を取られていたわ。
とかなんとか思っていたら遠くの人垣が割れていく様子が見えた。
その割れ目は徐々に俺達の方へと伸びていき、最後にその割れ目を作っていた人物が姿を現した。
「おかえり! レオン君!! レン君も大義であった!!」
ノアセダル王国国王マティアス陛下だった。
その後ろには各国首脳陣が勢揃いしていて、もちろんロズウィータ教皇猊下も参列していた。
「お疲れ様、そしてありがとう。あなた方のおかげで世界は救われました」
「いえ、猊下の呼びかけがなければエシクンは起動しませんでした。こちらこそ、お礼を言わせてください。ありがとうございました」
握手の為に手を差し出すとロズウィータ教皇猊下は迷わずその手を取ってくれた。
それを皮切りに、各国首脳の方々から握手を求められて一通り挨拶を終えると、マティアス陛下から声をかけられた。
「それで、レオン君。西側へ行ったようだが何か見つかったのかね?」
「ええ、色々と収穫がありました」
――
――
――
ここではなんだからと、レイディアントガーデンセントラルビルの大会議室へ移動して説明を始めた。
カラート様が乗ってきた船を見つけたこと。
その船の中に宇宙船が残されていて、それを再利用しようと思っていることを伝えていく。
「そんなものが西側に……ところで、ガルガンチュアのような生物は居たのですか?」
ロズウィータ教皇猊下は驚きつつも、怪獣が他に存在していたかどうかが一番気になるようだった。
そりゃそうだよな。宇宙船になんて普通の人は興味ないもの。
「結論を言うと、わかりません。存在していたとしても、ガルガンチュアのように敵対的ではない可能性もあるのでなんとも……」
ガルガンチュアが子供を産んでいたような痕跡もなく、仮にいたとしてもどこかへ行った形跡もなかった。
ガルガンチュアが突然変異種であった可能性は捨て切れないけれど、今後も出てこないとは言い切れないから警戒はしておくべきだろう。
「そうですか……一先ず、脅威は取り除かれたということを喜びましょう。西側へもアクセスできるようになったわけですし」
「迷いの森の活動範囲が広がったのは幸いだな。魔物素材などもこれまで以上に獲れるだろう」
ロズウィータ教皇猊下が安堵のため息を吐き、アケルリース王国国王ヴォルフガング陛下は迷いの森の探索範囲が広がったことを喜んでいた。
今まで行けなかった区域も、ガルガンチュアがカラート様の魔法を破壊したおかげで行けるようになり、もしかしたら新種の魔物が存在して新たな素材とできるかもしれない。
「まぁ、そのあたりは魔物ハンター達に調査を依頼するということで。レオン君、さっき言っていた宇宙船のことだが、君のことだ。再利用しようとしているんじゃないかい?」
さすがマティアス陛下、俺のことをよくわかってらっしゃる。
「もちろん。カラート計画もエシクンが起動できたおかげで日程を前倒しできますし、宇宙船を整備できましたらすぐに発とうと思います」
「ほう……それは大体どれくらいかかりそうなんだい?」
「一年ですね」
俺がそう言うと皆さんキョトンとしていた。
◆
一年とは言ったものの、125万光年という道のりは未知数だ。
その為色々準備などが必要になる。
いくら超光速航法が実現できる状況であっても、一度に跳べる距離はカタログスペックでは千光年だが、そこまで性能を引き出せるかわからない。
ようは往復何年かかるか全くわからない。
しかし、宇宙船カラートを調べたところ、良いことがわかった。
「ワープ航跡ですか?」
「そう。カラートの通った道を利用しようと思う」
カラートの通った道である次元境界面が未だに残っていることがわかったのだ。
それをアイリスとクラリス、クリスにユリアと食事をしている席で話をした。
「でもなんでそんなもんが未だに残ってんだ? 何百年も前のもんだろ?」
クリスからそんな疑問が飛んできた。
俺は口に含まれていたものを飲み込んで、それに答える。
「俺もそれは思ったんだけどな。他にも地球からエクセルにたどり着いた宇宙船があるだろ?」
「そんなもんあったか?」
「ボイジャーだよ」
ここエクセルの属するアレケー恒星系があるアンドロメダ銀河はボイジャー1号やボイジャー2号の飛んでいった方向にはない。
スイングバイを受けたとしてもアンドロメダ銀河へは辿り着けないのだ。
しかし、ここに実際にあるのだから何某らの影響を受けていることは明らかだった。
よって、量子コンピュータで軌道計算を行ったが、どんだけシミュレーションしてもここに辿り着けないことから出た結論が――
「やっぱりカラート様がボイジャーを持ってきてたんだよ。カラート様が高次元から干渉して作ったワームホール。それを利用する」
「結構残ってるもんなんだな」
「ああ。コルネリアさんに頼んで月面電波望遠鏡なんかを使ってボイジャーが来たであろう方向を観測したら光が屈折しているところがあったよ。全く何もない空間にな」
普通光が屈折する場合、銀河などの高重力天体が手前にあるはずだが、それが見当たらなかった。
前世ならこれがダークエネルギーの影響だとかで話題になっただろうけど、今世ではワームホールの影響と見て間違いないだろう。
「それでそのワームホールにエシクンや今修理中の宇宙船は入れますの?」
「それは見てみないとわからないけど……ボイジャーはともかく、カラートが抜けてきたワームホールだからなぁ」
ユリアの言うことももっともだが、山脈に見えるほどの巨大宇宙船が通った穴なんだ。
小さくなっているとしてもエシクンぐらいなら抜けられるんじゃないか? とは思う。
「まぁ、お陰でかなり時短はできると思う」
「……少し思ったのですが、複数隻で航宙するのは何か意味があるんですの?」
「ん?」
航路のことを説明し終えたら今度はユリアから質問がきた。
「エシクンには船内工場もございますから故障機器の修理などは自己完結できます。でなければ先の故障の際に修理などできませんでした」
「そうだな」
先の……というのは小惑星を破壊した際に動けなくなった時のことを言っているんだろう。
確かに自己完結機能が無ければ長期航宙なんて無理だ。
そしてそれはエシクンには備えられている。
「ようは、複数隻もいらないのでは? というのが私の意見ですわ」
「まぁ、ぶっちゃけ言えばユリアの言う通りだよ。複数隻あると連携も取らなきゃいけないし、とても手間だ。単船の方がよっぽど楽だろう」
「そうですわよ。なのに何故?」
「理由としては至極単純。娯楽の為だ」
「娯楽……ですか?」
今回の計画は本当に未知の部分が多い。
が、確定していることが一つある。
それは航宙期間が長いということだ。
往復250万光年の航宙……恐らく何年も宇宙船の中にいることになるだろう。
洋上の船も、宇宙船も基本勤務体系は同じで三ヶ月、六ヶ月区切りで、六ヶ月を最大上限としている。
これは閉鎖空間で過ごす人のストレスを鑑みて設定した期間だ。
閉鎖空間では人は一年持たない。
身体的には問題はないだろうが、問題は精神面だ。
ずっと同じ空間、ずっと同じ景色、ずっと同じ設備……息が詰まるのは想像に難くない。
そこで、複数隻用意し、船と船を行き来する定期便を運行させ、休みの日には別の船に行ってそこにしかない娯楽設備などを使う……といったことでストレスを少しでも緩和させようと思ったのだ。
「――ということで複数隻用意しようと思ったわけだ」
「なるほど理由はわかりました。ですがそれでも一巡してしまえば同じではなくて?」
「故に船務科があるんだよ」
船務科は通信などを行う部署だが、船内の運用……船内シフトや食事、イベント事なども担っている。
各船に武装はあるものの、戦闘に行くわけじゃないから、船内には娯楽施設を多めに設置しようとは考えている。
「だから船務科には娯楽施設のリニューアルとかもしてもらうことになるかな」
「複数の船で街を形成するわけですわね。合点がいきましたわ」
納得したという表情でグラスを傾けるユリア。
皆も、気になる質問はもうなくなったんだろうことが表情から伺えたが、俺には一つ、気がかりなことがあった。
「なぁ、皆に聞きたいことがあるんだけど……いいか?」
◆
数日後、俺はカラート計画に参画するメンバーを会社敷地内にある講堂へ集めた。
理由は前にアイリス達に聞いたことをクルー達全員に聞く為だった。
そのアイリス、クラリス、クリス、ユリアは俺の隣に立ってくれている。
「今日は忙しい中、集まってくれてありがとう。さて、皆に集まってもらったのは他でもない……カラート計画に関することで皆に聞きたいことがあるからだ」
俺の雰囲気を察してか、皆の緊張が伝わってくる。
俺がこれから話す内容は極めて重要だ。
俺自身も、見落としていた可能性。
そしてそれは皆の今後にも関わってくる。
「カラート計画は125万光年先の銀河へ渡る計画であるということは皆も知っている通りだ。だがここである問題が浮上してくる……時間だ」
この場合の時間というのは航宙期間のことではない。
時間というものは伸び縮みするもの……というところだ。
時間というものは重力の影響で簡単にその長さは縮んでしまう。
加速によって生じる重力でも同様だ。
速度を上げて光の速さに近づけば近づくほど、自身の時間の流れは遅くなる。
もし光速の99.5%の速度で飛べば、時間は十倍遅くなる。
航宙期間五年が、エクセル時間では五十年経っていることになる計算だ。
超光速航法は場所と場所を空間を歪めて近づけて穴を穿ち、その穴を通って事実上光速を超える移動法だ。
だから加速に重力は発生しないし、時間の遅れもない。
が、宇宙のことについて俺達がわかっていることなんてほんのちょっとだけだ。
まぁ、ようするに――
「今俺達が過ごしている「一秒」は、宇宙共通の「一秒」なのかがわからない……即ち、地球に辿り着き、エクセルへと帰ってきたその時、航宙期間以上にエクセルでは時間が経っている可能性がある。或いはその逆もかもしれない」
そう、時間の流れが一定なのかどうかがわからないのだ。
時間というものの正体は未だにわかっていない。
時間も一つの次元であるならば、何故一方向にしか動けないのか?
そもそも時間は本当に一次元なのか?
わからないことだらけなのが時間というものなのだ。
もしかしたら別の銀河や別の恒星、星が一切ないボイド空間には未知の物質が漂っていて、時間を遅らせている或いは進ませている可能性だってある。
「帰ってきたら家族友人が亡くなっていた……などという状況になる可能性がある。要するに、このエクセルを旅立つ時が今生の別れになるかもしれない」
カラート様が研究していた時間の因果律。
それを見て考えついたものだった。
時間は一定ではないとはわかっていたのにも関わらず、計画は時間が一定で進むことを前提に組んでしまっていた。
一緒かもしれない……でも違うかもしれない。
行ってみなければわからないのだ。
「道中、どんな危険があるかもわからない。ましてや家族、友人、恋人と今生の別れになるかもしれないミッションになる。本来であればカラート計画の面接時に問う部類の質問を今になって聞く私の無能を許してほしい……すまなかった」
俺は壇上で頭を下げた。
そして顔を上げずにそのまま話を続ける。
「残留を希望する者はこの集会の後、名乗り出てくれ。理由は一切聞かない」
もしかしたら、最悪幼馴染四人だけで挑むことになるかもしれない。
四人は了承してくれたから付いてきてくれることになっているが、他の皆はわからない。
最初は辞退する者は講堂から退出するよう言う予定だったが、それだと最初の一人は出づらいだろうしな。
……ていうか俺、顔上げるタイミング逃してない?
いつ上げよう?
なんかがさがさ動く音もする。
「……おい、もう顔上げろよ」
痺れを切らしたのか、クリスに顔を上げるよう促された。
確かにこのままじゃこの集会を閉めることもできない。
いい加減顔を上げよう。
そう思い、閉会を宣言しようと顔を上げた。
「……えっ?」
顔を上げた時、目の前に広がる光景を目にした俺は一瞬、何が起きているのか理解できなかった。
皆、席から降りて膝を突き、頭を下げていた。
ロイヤルカーテシー……所謂、最敬礼を取っていたのだ。
「な……えっ?」
俺は何が起きているのか理解できず首を傾げた。
「もう私達はレオンさんに付いていく覚悟はできているんです。今更何があっても変わりませんよ」
アイリスからそう言われてポカンとする俺の横にクラリスが歩み寄ってきて、マイクを取って叫んだ。
「みんなー!! 宇宙の彼方に行きたいー?」
クラリスがそう言うと、皆カーテシーを解き、割れんばかりの歓声が講堂に響く。
「いろんな惑星にも行ってみたいよなー!!」
クリスにもマイクが渡り、その声にも歓声が上がる。
「宇宙に広がる未知の物質やエネルギーを!!」
「時間というものを突き止めてみせようという気概の持ち主はおりまして?!」
アイリスとユリアにもマイクは渡り、その声にも皆、変わることなく割れんばかりの歓声で答えた。
俺はただ一人、皆のテンションに付いていけず、ただただポカンとするばかりだった。
そんな俺に、クリスがマイクを渡そうと手を伸ばしてきた。
――なんか言え。
そう表情で語りかけてくるクリスから戸惑いながらもマイクを受け取る。
改めて講堂を見渡す。
そこにいた皆の瞳には、不安は一切なかった。
あるのはただ……興奮と好奇心だけ。
俺の心配は杞憂だったようだ。
心配していた自分がバカみたいだと内心笑い、マイクに向かって叫んだ。
「全員で原初の惑星へ……地球へ行くぞ!!」
この日一番の大歓声で、この集会は終わった。
俺の中にはもう、心配は一切ない。
あとはただ、邁進するだけだ!!
次回、最終回




