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第91話 働くゴーレム


 翌朝。


 精霊工房の食堂で朝食を終えた俺は、大きく伸びをした。

 徹夜明けなのだから当然だが、眠い。ものすごく眠い。


 それなのに、不思議と気分は悪くなかった。

 むしろ妙に機嫌がいい。


 隣ではドグランが豪快にパンを齧っていた。



「がっはっはっ! 久しぶりじゃのぅ!」


「何がだ?」


「徹夜で物を作るのがじゃ!」



 元気だな、この爺さん。

 徹夜明けとは思えない。

 まあ、俺も人のことは言えないか。


 昨夜は安全設計だ何だと議論を重ねていたら、気づけば朝になっていた。

 だが、その甲斐はあったと思う。

 かなり良いものが出来た。

 新領都の開発も一気に進むだろう。



(セドリックが喜びそうだな)


『推定七十三パーセントで頭を抱えます』


(なんでだよ)


『仕事が増えるためです』


(否定できねぇ・・・)



 そんなことを考えながら食堂を出る。


 すると。

 ちょうど事務所から出てきたセレナと目が合った。

 青灰のポニーテールを揺らしながら、セレナがこちらを見る。


 そして。



「アキラさん」


「ん?」


「何か作りましたね」



 いきなりだった。



「なんで分かるんだ」


「顔です」



 即答だった。

 意味が分からない。



「そんな顔してるか?」


「しています」


「どんな顔だ」


「面白いものを作った顔です」


「説明になってないぞ」


「ですが合っていますよね?」


「・・・」



 合っている。

 悔しいが合っている。


 そこへ。



「おはよう」



 聞き慣れた声がした。

 振り返ると、エマがこちらへ歩いてくる。

 銀灰色の髪が朝日に照らされて綺麗だった。



「おう、おはよう」


「おはよう」



 そう返したあと。

 エマはじっと俺を見る。

 妙に静かだ。

 嫌な予感がする。



「・・・昨日は帰ってこなかったわね」



 あ。


 そうだった。

 昨夜はそのまま秘匿工房に泊まり込んでいた。



「連絡もせず悪い。工房にいた。作業が長引いてな」


「そう」



 エマは頷く。


 怒っているようには見えない。

 少しだけ不満そうだった。


 エマが俺の隣に来て、袖を指でつまんだ。



「・・・一人で寝るの、久しぶりだったから」



 俺は固まった。

 セレナも固まった。

 近くを通った従業員まで固まった。


 エマは少し視線を逸らす。



「少しだけ寂しかったわ」



 その瞬間。



「がっはっはっはっ!」



 ドグランが爆発した。



「嬢ちゃんすまんのぅ!」



 腹を抱えて笑っている。



「恋人を拉致してしもうた!」


「拉致された覚えはないぞ」


「同じようなもんじゃ!」



 同じじゃない。

 エマは苦笑しながら俺を見る。



「今日はちゃんと帰ってきてね?」


 ───上目遣い。


 その言い方が反則だった。


 怒っているわけではない。

 責めているわけでもない。

 ただ、帰ってきてほしいと言っているだけだ。



「・・・おう」



 反射的に目をそらした。

 自分の顔が熱を持ったのがよくわかる。



『客観的に見て、耳まで真っ赤です』


(うるさい)



 セレナが小さくため息を吐く。



「仲が良いのは結構ですが」


「お、おう」


「話を戻してもよろしいですか?」



 戻したくない。

 だが戻される。



「何か作ったんですよね?」


「いや、まあ・・・」


「作ったんですね」


「作った」



 観念した。

 どうせ隠し切れない。



「わかった。見せる」


「何をですか?」


「見せるから、とりあえず落ち着け」


「落ち着いています」


「俺が落ち着かない」



 セレナは少しだけ笑った。

 珍しい。

 だが目が商人の目だ。

 逃げられない。



「どこで見せるんですか?」


「ここはもちろん、街中でも駄目だな」



 俺は考える。


 精霊工房地下では狭い。

 新領都へ持っていくにはまだ早い。


 なら。



「よし、こないだ行った西海岸だな」


「海?」


「人目もないし、広い」



 セレナは少し考えて頷いた。



「分かりました」


「行くのか?」


「確認します」



 即答だった。

 当然だろうな。

 セレナの立場なら。


 俺が何か作った。

 その時点で確認義務がある。



「私も行くわ」



 エマも当然のように言った。



「まあ、そうなるよな」


「そうなるわ」



 そして。

 どこから聞いていたのか。



「ぐふふ・・・」



 嫌な笑い声が聞こえた。

 振り向くとリファニーだった。


 研究室の扉から顔だけ出している。



「アキラさん」


「なんだ」


「絶対面白いやつですよねぇ?」


「たぶんな」


「私も行きたいですぅ」


「駄目だ」


「なんでですかぁ!?」


「人数を増やしたくない」


「ぐふぅ・・・」



 リファニーは本気で悔しそうだった。

 だが、ここに連れて行ったら話が脱線する未来しか見えない。



「あとで見せてくださいねぇ」


「内容による」


「その返答が一番怪しいんですよぉ」



 まったくだ。

 自分でもそう思う。


 俺たちは準備を整え、西海岸へ向かうことになった。





 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼





 潮風が吹く。

 空は高く、海は青い。

 岩場の多い海岸には人影がない。

 波が砕ける音だけが静かに響いていた。



「ここなら十分だろ」



 俺はそう言って足を止めた。


 セレナは周囲を見回している。

 何を見せられるのか分からない。

 だが、嫌な予感だけはしている。

 そんな顔だった。


 ドグランはずっとニヤニヤしている。

 完全に面白がっている。



「それで?」



 セレナが言う。



「何を見せてくださるんですか?」


「それじゃ、さっそく・・・」



 俺は肩に掛けていた鞄を下ろした。


 その瞬間。

 セレナの視線が止まる。



「アキラさん」


「ん?」


「その鞄」


「鞄?」


「以前のものと違いますね」



 俺は思わず笑った。



「よく気づいたな」


「商人ですので」



 さすがだ。

 言われるまで気づかないと思っていた。



「ああ。新しいマジックバッグだ」


「新しい、ですか」


「容量は百立方メートルくらい」



 セレナが止まる。

 エマも止まる。

 俺は続ける。



「あと時間停止機能付きだな」



 沈黙。

 波音だけが響く。


 セレナはゆっくりこちらを見る。



「・・・百立方メートル?」


「ああ」


「時間停止?」


「ああ」



 何か変なことを言っただろうか。

 するとアルが出現して補足する。



『時空間術式の解析が完了したので製作が可能となりました』


「そういうことだ」



 俺が頷く。



「アキラさん」


「なんだ?」


「マジックバッグを作れるんですか?」


「ああ、その通りだ」



 ちょっと得意げに言う俺とは対照的に、セレナは額を抑えた。



「・・・頭が痛くなってきました」


「まだ何も見せてないぞ」


「今の時点で十分です」



 即答だった。

 エマが横で苦笑している。



「私も同意見だわ」


「なんでだよ」



 俺には便利なマジックバッグとしか思えない。

 だが。

 セレナの表情は本気だった。



「百立方メートルということは、小型倉庫一つ分です」


「まあ、そうだな」


「時間停止ということは、生鮮品も保存できます」


「ああ」


「薬品も」


「ああ」


「高級素材も」


「ああ」


「香料も」


「ああ」



 セレナは深く息を吐いた。



「物流が変わります」



 今度は俺が止まる番だった。


 物流。


 なるほど。

 そういう見方か。


 俺は便利な鞄だと思っていた。

 だが商人から見れば違う。

 流通そのものを変える道具なのだ。



「アキラさん」


「なんだ?」


「これ、商品化予定は?」


「今はない」



 セレナが心底ほっとした顔をした。



「絶対に勝手に売らないでください」


「売らない売らない」


「本当に?」



 エマまで乗ってくる。



「本当だ」


「約束してください」


「約束する」


「書面で契約しましょう」


「そこまで?」



 思わず声が出た。

 セレナは真顔だった。


 そして。


 俺は苦笑する。

 どうやら本命を見せる前に、すでに一発やらかしていたらしい。



(これ、本命を見せたらどうなるんだ?)


『推定九十七パーセントで頭を抱えます』


(もう抱えてるぞ)



 そして俺は、マジックバッグへ手を伸ばした。

 今度こそ、本命を見せるために。



「アキラさん」


「ん?」


「嫌な予感しかしません」


「安心しろ」


「安心できる要素がありません」



 もっともだった。


 俺は苦笑しながら、中に入れていたものを引き出す。


 最初に現れたのは金属の脚だった。

 続いて胴体。

 さらに、低く畳まれた三本の脚。


 岩場に降ろすと、重い金属音が響いた。


 ドゴン、と。


 波音の中に、明らかに異質な音が混ざる。


 セレナが言葉を失った。

 エマも目を丸くしている。

 ドグランだけが、口元を抑えながら笑いを堪えていた。



「・・・大きいわね」


「ああ」



 全高は二メートルほど。

 だが、存在感はそれ以上だった。


 四本の脚。

 低く構えた胴体。

 背部には荷台用のフレーム。

 前方には交換式の作業アーム。


 全体の形は、魔物というより大型の作業機械に近い。威圧するためではなく、踏ん張るための形だ。



「これが本命だ」



 セレナがゆっくり近づく。



「・・・停止したゴーレム、ですか?」


「半分正解だな」


「半分?」


「ゴーレム構造を利用した作業魔道具だ」



 ドグランが顎髭を撫でる。



「戦わせるためのもんじゃない。働かせるためのもんじゃ」



 セレナは機体を見つめる。

 予想していたものと違ったのだろう。

 もっと人型で、もっと魔物らしいものを想像していたはずだ。



「思ったより・・・ゴーレムらしくありませんね」


「人型にする理由がないからな」



 荷物を運ぶ。

 土を掘る。

 木材を引く。

 それだけなら、人間に似せる必要はない。むしろ安定性を考えれば、四脚の方が合理的だ。



「アル」


『起動します』



 機体の各部に淡い光が走る。

 魔石回路が起動した証だ。


 低い駆動音が響き、四脚作業機がゆっくりと立ち上がった。


 エマが思わず一歩下がる。

 セレナも緊張している。



「まずは運搬だな」



 少し離れた場所に転がる大きめの岩を指差す。



「その岩を、こっちまで運べ」


『命令を受領しました』



 四脚作業機が動いた。


 滑らかだった。


 岩場の凹凸を、脚先が探るように越えていく。砂に足を取られることもない。重心は低く、揺れも少ない。


 作業アームが岩を掴む。

 持ち上げる。

 運ぶ。

 俺が示した位置へ、静かに置く。


 それだけだ。

 それだけなのに、セレナはしばらく無言だった。



「・・・本当に運びましたね」


「命令通りだな」


「そうですね」



 だが、その声には驚きが滲んでいた。

 エマも感心したように頷く。



「力仕事はかなり楽になるわね」


「ああ」



 新領都では石も木材も足りない。

 人手も足りない。

 だからこそ必要だった。



「ただ運ぶだけじゃないぞ」



 俺は近くに木箱を置き、さらにロープで簡単な進入禁止範囲を作った。



「アル」


『準備完了』


「この岩を運べ。ただし、ロープの内側には入るな」


『了解しました』



 四脚作業機が再び動く。

 だが今度は、最短距離では進まない。


 ロープを避ける。

 木箱を避ける。

 さらに、持っている岩の大きさまで計算しながら迂回する。


 そして何事もなかったように目的地へ到達した。


 セレナの目が細くなる。



「今」


「ん?」


「岩の幅も計算しましたね?」


「そこが重要なんだ」



 俺は頷いた。



「本体だけ避けても意味がない。荷物を持った状態で人に当たったら事故だからな」



 セレナは納得したように頷く。


 商人の目ではなく、経営者の目だった。



「安全設計ですか」


「ああ。むしろ昨夜はそこに一番時間を使った」



 人を傷つけない。

 物を壊さない。

 曖昧な命令では確認する。

 無理な命令は拒否する。

 危険なら止まる。

 命令できる者も制限する。


 セレナの表情が少しだけ柔らかくなった。



「それを聞いて安心しました」



 エマも腕を組んで頷く。



「そこを考えていなかったら怒っていたわ」


「だから徹夜したんだよ」



 ドグランが笑う。



「がっはっはっ! 半分以上はそこに時間を使ったからのぅ!」



 セレナは改めて作業機を見る。

 先ほどまでの警戒が、少し薄れていた。


 これは魔物ではない。

 人を襲うための存在ではない。

 人を助けるための道具だ。


 そのことが、伝わり始めていた。



「次は掘る」



 俺は作業アームを外し、掘削爪へ交換する。


 四脚作業機は砂地へ移動し、俺が示した線に沿って爪を下ろした。


 ざくり、と砂と土が削れる。


 もう一度。


 さらにもう一度。


 掘った土を脇へ寄せ、荷台へ載せ、少し離れた場所へ運ぶ。


 簡単な溝ができていく。


 人が何人もかかって掘る作業を、作業機は淡々と進めていった。


 エマが小さく息を吐く。



「これがあれば、昨日の人たちはかなり楽になるわね」


「ああ。そのために作った」



 泥に沈んだ荷車。

 石材を抱えていた男たち。

 排水路を掘っていた作業班。


 あの光景が頭に残っている。

 俺一人が頑張ればいいわけではない。

 俺がいなくても、誰かの腕を支えられる道具が必要だった。


 四脚作業機は、掘った溝の脇で静かに待機している。

 その姿を、セレナはじっと見ていた。


 セレナの目が、数字を追うものに変わっていく。

 価格ではない。販路でもない。

 その先に集まる人間の欲と、守るために必要な力を計算している目だった。



「アキラさん」


「なんだ?」


「これは売れます。間違いなく」


「だろうな」


「ですが、今の精霊工房では売れません」


「だよな」



 俺もそこは分かる。

 これは便利すぎる。

 便利すぎるものは、それだけで人を呼ぶ。

 金も、欲も、権力も。



「作業機が危険だからではありません」



 セレナは静かに言う。



「むしろ、安全設計はかなり考えられています。問題は、この作業機そのものではありません」


「欲しがる人間の方か」


「はい」



 セレナは頷いた。



「土木、鉱山、物流、農地開拓、道路整備、港湾作業。使い道はいくらでもあります。高く売れます。ですが、その分だけ、欲しがる人間も増えます」



 そして彼女は、はっきりと言った。



「今の精霊工房には、足りないものがあります」


「足りないもの?」


「商会としての格。後ろ盾となる有力者。そして、裏社会からの圧力への抵抗力です」



 波が岩に砕ける。

 白いしぶきが風に流された。



「今の精霊工房は、まだ小さな店です。高額で、影響の大きい商品を扱うには信用も格も足りません」


「ああ」


「そして、後ろ盾も足りません。領主であるアキラさんがいるとはいえ、それだけでは不十分です。王家、ギルド、有力貴族、あるいは同格以上の商会。外から見ても手を出しにくい形が必要です」



 セレナの声は、いつものように冷静だった。

 だが、そこには熱がある。



「さらに、裏社会への備えも必要です。横流し、脅迫、買収、職人の拉致、運搬中の強奪、偽物作り。こういう商品を扱うなら、表の商売だけでは済みません」



 俺は黙って聞いていた。

 セレナの言う通りだ。


 便利だから売る。

 それだけで済む段階は、とっくに過ぎている。



「つまり、商品ではなく、こちら側の器の問題か」


「はい」



 セレナは四脚作業機を見つめる。



「だから、決めました」


「何を?」



 セレナは四脚作業機を見つめたまま、しばらく黙っていた。


 波音だけが間に落ちる。


 やがて、彼女は息を整えるように小さく吐いた。



「私たちは、Aランク商会を目指します」



 その声に迷いはなかった。

 エマが静かにセレナを見る。

 ドグランも笑うのをやめていた。



「本気か?」


「本気です」



 セレナは俺へ向き直る。



「この工房は、もう小さな店のままではいられません。アキラさんの商品は、人の生活を変えます。ですが、守れなければ奪われます」



 そして、少しだけ口元を引き締める。



「だから、守れる器になります」



 その言葉に、俺は少しだけ圧倒された。

 セレナは怖がっていない。

 むしろ、前を見ている。


 精霊工房を大きくする。

 世界を変える商品を扱えるだけの器にする。

 そのために、Aランク商会を目指す。



「・・・また話が大きくなったな」


「原因はアキラさんです」


「否定できない」



 ドグランが吹き出した。



「がっはっはっ! 小僧が何か作るたびに、嬢ちゃんの仕事が増えるのぅ!」


「笑い事ではありません」



 セレナの返しが鋭い。

 俺はそっと視線を逸らした。



「で、実はもう一つある」



 セレナの動きが止まった。



「・・・今度は何ですか」


「工房内用だ」



 俺はマジックバッグから、もう一つの作業機を取り出した。


 四脚型より小さい。身長一・五メートルほど。

 脚は太く、足裏が広い。腕は短く、箱を抱えるように作られている。顔も表情もない。


 人間そっくりではない。

 工房の通路を歩くための作業補助機械だ。


 セレナはしばらくそれを見ていたが、すぐに理解したようだった。



「工房内搬送用ですね」


「さすが」


「通路幅、棚、作業台の高さに合わせていますね」


「ああ。まだ工房内で動かす前に、お前に見せた方がいいと思ってな」


「当然です」



 即答だった。



「命令できる者を限定してください。作業区域も限定。こちらの準備が整うまでは地下に限定します。来客がいる時間帯は停止。魔石管理、点検記録、故障時の責任者、作業員への事前説明、事故時の対応規定も必要です」


「ほらな。絶対詰められると思った」



 エマが横から言う。



「詰められるようなものを作るからでしょう」


「それはそう」



 俺が素直に頷くと、エマが少しだけ表情を緩めた。



「それで?」


「ん?」


「昨日はこれを作っていたの?」


「まあ、そうだ」


「私が一人で寝ている間に?」


「まあ・・・そうだ」


「一言くらい言ってくれてもよかったんじゃない?」


「言ったら止めただろ?」


「止めたわよ」


「だから言わなかった」



 エマがじっと俺を見る。



「アキラ?」


「はい」


「今の、反省するところよ」


「はい」



 反射的に返事をした。

 ドグランが腹を抱えて笑う。



「がっはっはっ! 尻に敷かれとるのぅ、小僧!」


「否定できないのがつらい」



 エマは頬をほんの少しだけ赤くしながら、しかし何も否定しなかった。

 それがまた、妙に照れくさい。


 潮風が吹く。

 波音が続く。


 四脚作業機は溝のそばで静かに立っている。


 新しいマジックバッグ。

 四脚作業機。

 二足型作業機。

 Aランク商会。


 話が一気に大きくなりすぎた。


 そう思っていると、セレナがふと思い出したように口を開いた。



「けれど・・・」


「ん?」


「これはまた、ラムールの王様に報告が必要でしょうね」



 全員が止まった。

 俺も止まった。


 波音だけが聞こえる。



「あ・・・」



 完全に忘れていた。

 エマが呆れたように言う。



「忘れてたの?」


「忘れてた」



 ドグランがまた笑う。



「がっはっはっはっ!」



 セレナは深いため息を吐いた。


 波音の向こうで、四脚作業機が静かに立っていた。

 だが今、俺の頭の中にあるのは作業機ではない。


 ラムール国王への説明だった。



 ・・・胃が痛い。


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