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第44話 ずるい(前)


 翌朝。


 精霊工房に入ると、すでにセレナが帳簿を開いていた。


 隣ではマリアベルが、昨日作った商品札を確認している。吸水布、便利瓶、手鏡、生活雑貨。それぞれの札に汚れがないか、文字が読みにくくなっていないかを見ているらしい。


 真面目だ。


 採用して一日目で、もう店の人間の顔になり始めている。


 俺は少し感心しながら、腰の白零びゃくれいに手を添えた。


 触れただけで、昨日から続く欲求が戻ってくる。


 試したい。

 斬りたい。


 ムラムラ・・・

 いや、違うな。


 モンモン・・・

 うーん、この気持ち、なんといえばよいのか。


 

 正確に言うと、どこまで斬れて、どこから危ないのかを確認したい。


 これは遊びではない。

 そうだ、戦力確認だ。

 冒険者として当然の、大切な仕事だ。


 そう自分に言い聞かせていたところで、セレナが顔を上げた。



「本日は、アキラさんとエマさんは冒険者業務へ行ってください」


「・・・へ?」



 思わず間抜けな声が出た。


 横を見ると、エマも軽く目を見開いている。

 絶対に今日も止められると思っていた。


 少なくとも午前中は営業準備、午後から在庫整理、夕方に帳簿確認くらいの流れを覚悟していたのに。



「昨日の客数なら、店は私とマリアベルさんで対応できます。ドグランさんも工房にいますし、急な商品追加が必要になっても最低限の対応は可能です」



「いいのか?」


「はい。行きたいのでしょう?」


「・・・はい」



 また丁寧語になった。


 くそ。


 完全に管理されている。


 エマが横で小さく笑った。



「エマさんもです」


「え?」


「昨日から、ロッドを見ている時間が長いです」


「・・・そ、そんなに見ていたかしら」


「見ていました」


「・・・そう」



 エマが視線をそらす。

 珍しく、少しだけ気まずそうだ。


 セレナは帳簿を閉じた。



「ただし、条件があります」


「条件」


「一つ。閉店前には戻ること。二つ。新装備を人前で不用意に見せびらかさないこと。三つ。持ち帰った素材は勝手に売らず、まず私に見せること。四つ。怪我をしないこと」


「最後だけ妙に母親みたいだな」


「従業員管理です」


「俺、店主なんだけど」


「店主も管理対象です」


「そうですか・・・」



 何も言い返せない。


 というか、言い返す気もあまり起きなかった。


 セレナは俺たちを止めたいわけではない。

 必要なら止める。

 行かせた方がいいなら行かせる。


 ただ、それだけなのだろう。

 厳しいが、ちゃんと見ている。



「素材と資金は必要です。精霊工房は、商品を作るだけでも維持費がかかります。冒険者として稼ぎ、素材を持ち帰ることも、この店の仕事です」


「本業の冒険者をやってこい、ということか」


「はい。遊びではなく仕事として行ってください」


「了解」



 俺は頷いた。


 エマもロッドを軽く握り直す。


 その横で、マリアベルが控えめに言った。



「あの・・・お気をつけて」


「ありがとう。店、頼む」


「はい。分からないことはセレナさんに確認します」


「それが一番いい」



 俺が即答すると、セレナがこちらを見た。



「アキラさんも、分からないことは確認してください」


「はい」



 また丁寧語だ。


 もう駄目かもしれない。





 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼





 冒険者ギルドへ向かう途中、俺とエマは自然と足取りが軽くなっていた。


 店のことが気にならないわけではない。


 けれど、セレナがいる。

 マリアベルもいる。

 ドグランは工房にいる。


 昨日までなら、俺たちがいない間に何かあったらどうする、と思っていたかもしれない。

 だが今は、任せられる。


 この差は大きい。



「嬉しそうね」


「そっちこそ」


「否定はしないわ」



 エマはロッドを大事そうに持っている。

 昨日から何度も見ていたのは知っている。


 自分だけではないと思うと、少し安心した。



「今日は森に行くつもりだ」


「森?」


「ああ。戦闘もできるし、素材も取れる。マジックバッグの使い勝手も確認したい」


「そうね」



 エマは少し考えてから、俺の肩の近くに浮かぶ淡い青の光を見た。



「今日はアルも隠さず一緒に戦ってくれるのよね?」


「ああ。そのつもりだ」



 俺の肩の近くで、淡い青の光が小さく揺れた。


 アルだ。


 外向きには、俺に付き従う特殊な精霊という扱いになっている。今は薄い光の粒を集めた小さな鳥のような姿をしているが、形はかなり曖昧だ。見ようによっては羽のある妖精にも見える。


 正直、かなり便利な偽装だと思う。


 便利すぎると言ってもいい。



『外部投影安定。現在の形状であれば、周囲からは低位精霊または特殊使い魔と認識される可能性が高いです』


(了解。今日はエマにも見える形で頼む)


『肯定』



 アルの淡い青の光が、少しだけ強まった。



「なら、私もどう動けばいいか確かめたいわ。あなたの補助だけではなく、私にも何か共有できるなら、戦い方が変わるかもしれないもの」


「できるか?」


『外部投影による簡易共有は可能です』


「できるらしい」


「・・・本当に、精霊みたいになってきたわね」


「見た目だけはな」


「見た目だけ?」


「中身は、たぶん相変わらずアルだ」


『肯定。基本機能に変更はありません』


「ほら」


「何を言ったの?」


「中身は変わってないってさ」


「それはそれで安心ね」



 エマは少し笑った。





 ギルドに着くと、受付にはミーアさんがいた。

 いつものように明るい顔で手を振ってくる。

 アルは当然ホログラムを解除している。



「あ、アキラさん、エマさん。おはようございます」


「おはよう」


「おはよう、ミーアさん」


「今日は依頼ですか?」


「ああ。森で討伐と採取を兼ねられる依頼があればと思って」


「でしたら、北門外の森の浅い区域ですね。フォレストウルフの討伐依頼と、薬草採取の依頼が同時に受けられます」


「同時に?」


「はい。ただし、無理に両方こなそうとすると危ないので、持ち帰れる範囲で構いません」



 ミーアさんは依頼書を二枚出した。


 一枚はフォレストウルフの討伐。


 もう一枚は薬草、香草、樹脂、食用キノコなどの採取依頼。



「最近は、フォレストウルフの上位個体、フォレストファングも確認されています。牙と皮は高く買い取れますけど、無理はしないでくださいね」


「フォレストファング?」


「はい。フォレストウルフより体が大きくて、牙と前足が発達した個体です。単独でも厄介ですし、普通のフォレストウルフを率いていることもあります」


「なるほど」


「森は視界も悪いですし、囲まれると危ないです。お二人なら大丈夫だと思いますけど、深追いはしないでください」


「分かった」



 ミーアさんはそこで、俺の腰の白零に視線を向けた。


 布で覆ってはあるが、いつもの剣ではないことは分かるのだろう。



「新しい武器ですか?」


「まあ、試験も兼ねてな」


「分かりました。では、なおさらお気をつけて。新しい武器は、強くても慣れるまでは危ないですから」



 さすが冒険者ギルドの受付だ。

 分かっている。



「気をつける」


「はい。では、依頼受理します」



 俺たちは依頼書を受け取り、北門へ向かった。





 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼





 森に入ると、空気が変わった。


 湿った土と落ち葉、樹皮、草の青い匂いが混ざって鼻に入ってくる。


 時々、どこかで鳥が鳴く。


 道はあるが、少し奥に入れば枝葉が視界を遮る。見通しは悪い。足元も平らではない。

 普通なら索敵の難しい場所だ。



『周辺スキャン開始。微弱な魔力反応、動体反応、植物素材候補を分類します』


(頼む)



 アルの光が、俺の肩の上でふわりと揺れた。


 次の瞬間、俺の視界に淡い青の点がいくつも浮かぶ。


 木々の表皮、草むらの中、倒木の陰、右前方の斜面、そしてさらに奥にはオレンジのマーカー。



『前方六十八メートル。小型魔獣三。右斜面に薬草候補六株。左奥に樹脂採取可能な樹木群を確認。危険度は低から中』



 情報量が多い。


 俺は思わず足を止めた。



「・・・待って」



 エマが俺を見た。

 それから、肩の上のアルを見る。



「魔物だけじゃなく、素材も分かるの?」


「分かるらしい」


「・・・ずるい」



 エマが本気で呆れた声を出した。



「索敵だけでも十分助かるのに、素材まで分かるのね・・・」


「俺も今、ちょっと引いてる」


「自分の精霊でしょう」


「そうなんだが、時々俺もずるいと思う」


『採取支援は冒険効率の向上に寄与します』


「ほら、本人は真面目だ」


「そこが余計にずるいのよ」



 エマはため息をついた。

 だが、その顔には笑みがある。


 怒っているわけではない。

 むしろ、呆れながらも楽しんでいるようだった。



「アル、エマにも位置を見せられるか?」


『可能です。視覚情報を精霊光として外部投影します』


(やってくれ)



 アルの周囲に、小さな光の粒が散った。


 淡い青の光が、スーッと森の中へ飛んでいく。


 そして、木々の間に小さな印が浮かんだ。


 前方に三つ。

 右斜面に六つ。

 左奥に細い線が三本。


 俺には情報として見えていたものが、今度は外にも見える形で表示される。


 エマが目を見開いた。



「・・・今の光、私にも見えているわ」


「ああ。アルが共有してる」


「そんなこともできるの?」


『可能です』


「・・・ずるい」


「二回目だぞ」


「二回言いたくもなるわ」


「まあ、分かる」



 俺は苦笑した。


 森の中で、敵の位置と素材の場所が同時に分かる。


 普通に考えて、かなりずるいとは思う。


 だが、使えるものは使う。


 冒険者は生き残って稼ぐ仕事だ。

 ずるいからといって、使わないわけがないのだ。



「先に魔物を処理するか」


「ええ。素材採取は安全を確保してからね」


「アル、敵の動きは?」


『三体とも移動中。こちらには未接触。進路上で交戦可能です』


「了解」



 俺は白零に手をかけた。


 鞘から抜く。


 白い刀身が、森の薄暗い光を受けて静かに光った。


 美しい。

 だが、美しさよりも先に、危うさを感じる。


 昨日、ミスリルインゴットを斬った時の感覚が蘇る。



「エマ、最初は俺が前に出る。ロッドの待機術式も試してくれ」


「分かったわ。一つ目は拘束。二つ目は牽制。三つ目は・・・念のため火力」


「準備早いな」


「敵の位置が分かっているなら、迷う必要がないもの」



 エマがロッドを構える。


 先端に小さな魔法陣が浮かんだ。


 一つ。


 さらにもう一つ。


 少し遅れて、三つ目。


 淡い光がロッドの周囲に重なっていく。


 普段のエマなら、状況を見ながら術式を選び、必要に応じて発動する。だが今は、敵の位置も数も分かっている。だから、先に用意できる。


 ロッドの性能が、アルの情報支援でさらに活きている。



「それも大概ずるいな」


「ええ。これは、ずるいわ」



 エマが珍しく、少し楽しそうに言った。

 俺は笑いそうになったが、前方の茂みが揺れたので意識を切り替えた。


 三体。

 フォレストウルフだ。


 狼に似た魔獣だが、普通の狼より体が大きく、前足の爪が長い。背中には黒い棘のような毛が並んでいる。



『対象、フォレストウルフ。中型魔獣。脅威度は低から中。牙、爪、皮、魔石を回収可能』


(了解)



 一体が先に飛び出した。


 低く、速い。


 だが、位置は分かっている。


 動き出しも見えている。


 俺は半歩だけ踏み込み、白零を振った。


 刃が走る。


 フォレストウルフの肩口から胴にかけて斬り抜けた。


 抵抗はある。


 肉を斬る感触。


 硬い骨に触れる感触。


 しかし、そのすべてが遅れて来た。


 手応えを感じた時には、もう刃は抜けている。



「・・・マジか」



 フォレストウルフが崩れ落ちた。


 だが次の瞬間、背後で嫌な音がした。


 ミシリ。



「え?」

「あ・・・」



 フォレストウルフの後ろにあった木が、斜めにずれた。


 太い木ではない。

 だが、人の胴ほどはある。


 それが切断面を見せながら、ゆっくりと傾いた。



「アキラ!」


「やばっ」



 木は俺の方に倒れてくる。


 俺が動くより早く、エマのロッドが光った。



「風よ」



 待機していた術式の一つが発動する。


 倒れかけた木の横から風が叩きつけ、倒れる方向がわずかに逸れた。


 木は俺たちから外れた場所に、重い音を立てて倒れた。


 ドン、と地面が揺れる。


 森の鳥が一斉に飛び立った。



「・・・」

「・・・」



 俺は白零を見た。


 斬ったのはフォレストウルフだ。


 だが、その後ろの木まで斬れていた。


 斬るつもりはなかった。


 なのに斬れてしまった。



「これは・・・切れすぎるな」


「分かったなら、スキルはもっと繊細に使いなさい」


「はい」



 スキルなんて使ったつもりはないのだが。

 そもそもスキルって何だろう?


 エマは呆れたように息を吐いた。


 白零は強い。

 間違いなく強い。


 だが、強すぎる武器は、雑に振るものではない。


 敵だけを斬る。

 必要な深さだけを斬る。

 斬った先に何があるかまで考える。


 それができなければ、周囲まで壊す。


 この森でそれを実感できたのは、むしろ良かったのかもしれない。


 そして、スキルというものも学ばないといけないのかもしれない。



『白零の切断性能は現行の筋力出力に対して過剰です。さらに、斬撃距離も伸びていました。更なる観察を推奨します。とりあえずは振幅の制限、刃筋角度の最適化、斬撃後周囲確認を徹底しましょう』


(分かった。要するに、もっと丁寧に振れってことだな)


『肯定』



 残り二体が左右に分かれた。


 その動きが、青い光点で示される。


 右の一体は、俺の横を抜けてエマへ向かおうとしている。


 だが、そこにはすでにエマの術式が置かれていた。



「そこね」



 エマがロッドを軽く振る。


 地面に光の輪が走った。


 フォレストウルフの足元から蔦のような光が伸び、前足を絡め取る。魔獣が体勢を崩した瞬間、エマの二つ目の術式が発動した。

 小さな氷の槍が、魔獣の胴を貫く。


 無駄がない。


 位置が分かっているから、魔法を置ける。

 置いた魔法に、俺が敵を流せる。


 今までの戦い方と違う。


 俺が前に出て、エマが合わせてくれる。


 それが今までだった。


 だが、今は俺もエマも、アルが示す同じ戦場を見ている。


 敵の位置。

 動く方向。

 魔法の範囲。

 斬っていい角度。


 情報が揃うだけで、戦い方が変わる。



『左個体、茂みから背後へ回り込みます』


「エマ、左のやつを右へ流す」


「見えているわ」



 俺は左へ踏み込んだ。


 白零を構えるが、今度は深く斬らない。


 刃を見せて逃げ道を塞ぎ、追い込む角度を作る。


 フォレストウルフは俺を避け、右へ跳んだ。


 その先に、エマの三つ目の術式が待っていた。



「捕まえた」



 光の帯が、魔獣の胴を縛る。


 動きが止まる。


 俺は踏み込み、白零を振った。

 今度は浅く。

 首を狙う。

 後ろに木はない。


 刃は必要な部分だけを通り、魔獣は崩れ落ちた。

 さっきよりずっと手応えがまともだった。


 いや、白零の切れ味は変わっていない。

 変えたのは俺の振り方だ。



「・・・今のは?」


「悪くないわ」


「採点が厳しいな」


「さっき木を斬った人には、これくらいでちょうどいいでしょう」


「はい」



 エマが少し笑った。


 アルの光が、倒れた魔獣の位置を示す。



『戦闘終了。周辺に新規魔物反応なし。回収可能素材を表示します』



 淡い青の光が、魔石、牙、爪、皮に浮かんだ。

 さらに、倒してしまった木にも光がつく。



『樹脂採取可能。加工試験用の小材も回収候補です』


「やらかしが素材になった」


「反省はしなさい」


「はい」


「でも、使えるなら持ち帰りましょう。無駄にするよりいいわ」


「だな」



 倒してしまった木からは、樹脂の出ている部分と、加工試験に使えそうな枝をいくつか切り出した。


 丸ごと持ち帰るほどの余裕はない。


 というより、そこまですると今日の目的が変わってしまう。


 俺はマジックバッグを開いた。

 容量は二立方メートル。


 低性能品ではあるが、普通なら諦める素材を持ち帰るには十分すぎる。


 ただし、何でも詰め込めばいいわけではない。かさばるだけで値がつきにくいものを入れれば、それだけ他の素材を諦めることになる。


 だから、アルが示す優先順位はありがたかった。



『マジックバッグ残容量、推定九十一パーセント。優先回収対象を表示します』


「回収まで指示してくれるのか」


「・・・ずるい」


「三回目」


「これは言うでしょう」



 エマは本気で言っていた。


 俺も同意だった。


 戦闘が終わった後まで、アルの支援は続く。


 魔石の位置も、価値のある部位も、採取できる樹脂も、近くの薬草も、すべてが青い光で示されている。


 普通の冒険者なら、経験と知識と時間を使って探すものだ。

 それをアルは、一瞬で分類している。


 ずるいとは思う。それでも、ありがたいものはありがたい。


 俺たちは魔石を取り出し、牙と爪を回収し、皮を必要な範囲で剥いだ。


 このあたりはエマの方が現地冒険者としての知識がある。

 アルが示す位置と、エマの経験が合わさると、作業がかなり早い。



「これは傷が少ないから高く売れるわ」


「白零で斬ったのに?」


「斬り方が良ければ、素材は傷みにくいの。さっき木ごと斬った一体は少し雑だけれど」


「そこは本当に反省してる」


「ならいいわ」



 薬草も採取した。


 アルの光がなければ、俺にはただの草に見えるものが多い。エマはある程度分かるようだが、それでも光で示されると圧倒的に早い。



「これも薬草なのか?」


「ええ。ただ、若い株ね。普通なら見落とすわ」


『成熟株のみ採取を推奨。若株を残すことで再生効率が維持されます』


「そこまで考えるのか」


「・・・ずるい」


「四回目」


「何回でも言うわ」



 エマは若株を残し、成熟した株だけを採った。


 樹脂は左奥の木から取る。


 アルが示した樹木に小さく傷をつけると、琥珀色に近い樹液がじわりと滲んだ。



「これは香料にも薬にも使えるわ」


「セレナが喜びそうだな」


「ええ。売る前に、まず見せろと言われるでしょうね」


「もう言われてる」


「なら、ちゃんと持ち帰らないと」



 マジックバッグに素材を収めていく。


 容量は少しずつ減るが、まだ余裕はある。


 普通ならこの時点で荷物が重くなり、動きが鈍る。


 だが、マジックバッグがあると移動速度が落ちない。


 これも大きい。



「これ、戦闘よりむしろ稼ぎが変わるな」


「ええ。今まで捨てていたものを持ち帰れるもの」


『推定収益、通常装備時と比較して二・五倍から三・八倍』


(マジックバッグ、思ったより金の匂いがするな)


『低性能品ですが、現在の冒険者活動においては十分な効果があります』



 低性能。


 そう言われても、俺たちからすれば十分すぎる。


 高性能なマジックバッグならもっと入るのだろうが、今はこれでいい。


 むしろ、このくらいの制限があった方が、無茶をしなくて済む。



 気づけば、以前なら半日かけても集まらない量の素材が、マジックバッグの中に収まっていた。



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