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014 お祭り

「影飢えいきエイキー。お祭りだよだよ。お祭り!」

「祭り?」


 喫茶焔艶灯火の一席で、突然獅子架が声を上げた。

 空中投影した画面をひっくり返し、可視化モードで見せてくる。


「なになに、『幻想奇術団がやって来る』『魔法の祭典』『おとなからこどもまでどなたでも!』だと?」

「うん! お祭り!」


 キラキラした瞳は普段より何倍も澄んだ青に見えた。


「行ってくればいいじゃないか。えーっと開催日は――今日か」

「どうしてそんなことゆーの? 一緒に行こうよ。お祭りだよ」

「俺は一般の方々が多い場所は苦手なんだよ。この格好を見ろ」


 影飢は座りながら手を広げ、黒仮面と黒装束を眺めさせる。


「そりゃあ不審者にしか見えないけど、偽装アプリ使えばいいでしょ」

「まさか獅子架に言いくるめられるとは思わなかった」

「えっへん」

「馬鹿にされてるって気づこうな。な?」


 よく分からないといった顔で疑問符を浮かべる少女に、青年はため息をつく。


「察しろ。俺はコミュ障だ」

「そりゃあ影飢は知らない人とお話するの苦手だけど、別にお祭りに行ってもひとりでいるだけなんだから大丈夫でしょ」

「獅子架はえげつないな。心が折れそうだ」

「お祭りに行けば楽しくなるよ! 私は楽しそうにしてる影飢が見たい」


 終始笑顔で獅子架は言った。


「そうか」


 影飢はため息。今度はあきらめの意味で。


「じゃあしかたないな」





 丘陵に設営された舞台の周囲には、いくつもの露店が広がっていた。

 到着した昼間からずっと獅子架に手を引かれながら見て回る。メインである幻想奇術団の劇が始まるのは日が暮れてからなので、それまでに露店を制覇するのだと少女は宣言していた。


「お前の元気はどこからくるのか問い詰めたい」

「いいの? 説明するよ? 感想文いっぱい書けるよ?」

「ごめんなさい許してください獅子架さん」


 夕暮れ。

 さらに増えだした人のなか、見つけた長椅子の空きに座り込んでしばらく。獅子架がおつかいしてくれたアイスも食べ終えた。


「そろそろ行こうよ始まっちゃうよ」


 気が付けば宵闇で、移動時間を考えれば開演時間になりそうだった。

 薄闇になり始めた空の下、少女の手を取って青年は立ち上がる。





「どこもいっぱい……。ねーねー影飢。座れる場所がないよ」

「あー、そうだな。いっぱいだな」


 丘陵の落ち窪んだ中心に舞台はあり、それを囲むような形で席は設営されていた。立ち見客も多い。席を探して移動するのも一苦労だった。


「まあ、遠くからでも見れなくはないだろ」

「えええーっ。近くがいい」

「そう言うと思いましたよお姫様」


 はぐれないように手をしっかり繋いだまま、影飢は舞台に近付くように進む。


「あれ、なんか空いてる」

「予約席だからなぁ」

「私、予約とかしてない……」

「それは残念だったなぁ」


 混雑の解消された道を歩いていた足を止めた。目の前には席が二つ空いている。ためらうことなく座った影飢を見て、獅子架が不安顔を見せた。


「だだダメだよ影飢。勝手に座っちゃ。怒られちゃうよ」

「なんでだ?」

「だって予約してない。遠くてもいいから怒られないところに――」

「してるぞ、予約」

「ふえ?」


 挙動不審だった少女が硬直した。

 隣の椅子を叩いて座るように促す。ぎくしゃくした動きで従う獅子架。


「どどど、どういうこと?」

「人が多い場所が苦手だって言っただろ」

「い、言ってる意味がわからないとき、どういう顔をしたらいいの?」

「おとなしく劇を見ろ。もう始まるみたいだぞ」


 青年はそう言って、少女の顔を舞台のほうに向けてやる。

 無数の光が舞台を演出していた。

 色彩豊かな光を使った「魔法」が幻想奇術団のやり口らしい。

 誰でも楽しめるという謳い文句に偽りはないなと感じながら、影飢はそのアプリ利用の手腕に舌を巻く。すべてを理解できないまでも、結果として劇へと使われる技術に、発想の飛躍を垣間見て驚きを繰り返した。


「わぁー……」


 花火のような光が舞台で散ったとき、隣で嬉しそうな声があがる。

 見れば、舞台から視線を外さない少女の横顔がそこにあった。


「……――――」


 青年は姿勢を崩して視線を劇へと戻す。


「お祭り、か」


 小さく転がした言葉は、わいた歓声のなかに消えた。

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