012 宵闇
影が伸びていく夕暮れの街。
賑わっていた石造りの噴水広場からも人が減っていく。
噴水の縁に腰かけた幼い少女は、足を投げ出して空を見る。
青の瞳に映るのは迫る宵闇。
次第に家路を急ぐ人々も消えた。
「はぁ……」
酒場が賑わい始めている。もう暗い。
獅子架は獣耳を伏せたまま、石畳を眺め続けた。並んでいる石の形は思ったよりもばらばらで、なんとなく動物に見えたりもする。組み合わせ次第では変なポーズをする人にも見えたりもした。
靴音が聞こえる度に獣耳が動く。
「…………」
通りすぎる年配の女性と目があった。
白い少女は口を結んだまま見続ける。女性は不思議そうにしたまま去っていく。
不満をぶつける小石も見つからない。
「遅い」
誰かが隣にいたとしても聞き取れないくらいの小声で呟いた。
待ち人が来る気配がない。
決めた時間はとっくにすぎていた。
何回も音声通信をコールしたが出てくれない。履歴を酷いことにしてやると繰り返して遊んだが、四十回ほどで面倒になってやめた。そしてイライラをぶつけるように通信を拒否設定に。
相手がやって来たらどうやってなじるかばかりを考える。
とりあえず、ケーキを奢ってもらうのは確定だけど――そう考えて、どのケーキを食べようか想像を膨らませている間に時間はすぎた。
不意に大声が聞こえて、獅子架は慌てて顔を上げる。
酔っ払いだった。
三人組の中年男が酒場から出てきていた。
出入り口からもれる逆光は、男たちを薄気味悪く見せるのに充分だった。
「ひっ……」
獅子架は慌てて噴水の反対側へ移動する。
石畳に座り込み、噴水の縁に背を預け、音が遠ざかるのを小さくなって待った。
「べ、別に勝てないわけじゃないし……?」
白剣を抱きながら呟く。震えた言い訳は獅子架自身にしか届かない。
――はずだった。
「なにやってんだ、お前は」
振ってきた声音は聞き慣れたもので。
涙目で見上げてみれば、そこには見知った黒仮面。
知らない子供が見れば泣き喚きそうな格好だったが、その黒衣姿を獅子架はよく知っている。怖がる理由もない。
「……べ、別になんでもないし?」
目を擦りながら立ち上がる。
「それより遅いんですけど?」
「悪い、色々あった」
「許されるとでも?」
「これでどうにかなりませんかね、獅子架さん」
手渡されたのはラッピングされたクッキーの袋だった。リボン付き。
「ゆ、許されるとでも?」
「他にもあるんでどうにかなりませんかね、獅子架さん」
少女は青年に手を引かれて歩き出す。
どんなお菓子を買ったのかを教えてくる影飢に獅子架は言った。
「だ、だまされないんだからね!」




