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家なし少女はあやかし執行官の執愛に囚われる  作者: あさじなぎ


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24/25

24 記憶

 藤の花を見て、神社に参拝して。ご飯も一緒に食べて。

 特別なことは何もないんだけど、伊織さんとのお出かけはすごく楽しかった。

 翌日から私は伊織さんの探偵事務所で働き始めた。

 仕事を教えてくれたのは祐飛さんだった。

 このなかでパソコンが一番得意らしい。

 畳のところに用意されたノートパソコン。

 窓際で煙草を吸う伊織さんを横目に、私は祐飛さんからお仕事を教えてもらった。


「パソコン、使える?」


「ネットとかは家で使ってたから一応は」


「これ、このエクセルファイル開いて」


「は、はい」


 仕事、といっても大したことはしなくって、お茶とかお菓子の買い物や経費の入力が中心だった。

 事務所には週四日通い、伊織さんと過ごしながら私はお仕事をさせてもらった。

 基本、他の三人は調査とかで色んなところに行っていていないらしい。

 でも、時々みんな集まって私の話し相手になってくれたり、桔梗さんとはカフェに行ったりと充実した時間を過ごせていた。

 


 

 それから一ヶ月ほどが過ぎた、五月二十一日水曜日。

 私の両親の手がかりはまだないし、奈美とも連絡が取れない。

 返してもらった携帯は、いつの間にか解約されてしまったみたいで使えなくなっていた。

 だから新しい方の携帯で、友だちに連絡を取ってみたけど、奈美だけが電話もメールも通じなくって、誰も新しい連絡先を知らなかった。

 古い携帯に残る、たくさんの奈美とのやりとり。それを見ると胸が苦しく感じてしまう。


「なにかあったのかな……」


 そう呟いてため息をつく日も多かった。

 しかも、時間が経ってからわかってきたけど、私の記憶からいくつかの物事が完全に抜け落ちてしまっていた。

 家族のに関することもそうだけど、奈美がどこの大学にいったのか、何の勉強をすると言っていたのか全然思い出せない。

 特に今年に入ってからオークションにかけられるまでの記憶、ぼやけていることが多かった。

 伊織さんが呼んでくれたあやかしのお医者さんは、


「大きな事件があったことによる一時的な記憶障害だろう」


 と言った。


「一時的な……」


 私の呟きに、白衣を着た黒髪の綺麗なお姉さんは大きく頷く。


「えぇ。珍しいことではないし、いつか思い出すかもしれない。思い出さないかもしれない。気に病まないことだ」


 と言われたけど、私の胸には大きな不安が広がった。

 お医者さんを見送ったあと、玄関先に立ったまま伊織さんがそっと私の頭に触れる。


「大丈夫」


 って。たった一言だけど。

 頭に置かれた手がすごく温かく感じた。

 私は伊織さんを見上げて、何とか笑顔を作る。


「そう、ですね。あの、私、お茶用意しますね!」


 時間は三時前。

 家にいる時、私と伊織さんはいっしょにお茶の時間を過ごすようになっていた。

 ちょうどその時間だから、私は台所に向かおうと歩き出す。

 その背中に、伊織さんの真面目な声がかかった。


「あぁ、葉月さん」


「はい」


 返事をして振り返ると、伊織さんはくちもとに畳まれた白い紙を当てて言った。


「頼まれていたこと、進展あったんだ」


「頼んでいたこと……」


 私はぴたり、と止まって着物姿の伊織さんを見つめる。

 指先が震えだして、足がすごく重く感じた。


「例の友だちの事」


 その言葉を聞いたとき、私の心臓が大きく跳ねたような気がした。

 私は伊織さんの前に立って、痛いほど鼓動を繰り返す心臓に、羽織の上から手を当てて尋ねた。


「ほんとう、ですか?」


「あぁ、ちょっと時間かかったけどな」


 伊織さんの顔、なんだか怖い気がする。

 なんだろう。これ、聞いていいのかな。伊織さんの表情を見ているとなんだか不安になってくる。

 どうしよう。

 そんな私の想いを察してか、伊織さんが心配げに顔を歪ませて言った。


「どうする。今聞くか、また後日にするか」


「う……」


 そう言われると悩んでしまう。だって伊織さんの顔みてると、あまりいい話ではなさそうだから。

 大丈夫かな、私。奈美のことを聞いて、堪えられるのかな。

 どうしよう、奈美、事件に巻き込まれたりとかしていたら。だって私がこんな目に合っているくらいだし。連絡取れなくなったって事は、そう言う可能性、あるよね。

 どうしよう、怖くなってきた。

 身体が震えてきて、私は思わず自分の身体を抱き締めた。

 やだ、歯もガチガチって鳴っている。

 すると、ふわっと伊織さんの匂いが私の身体を包み込んだ。


「あ……」 


 伊織さんは私の耳元に唇を寄せて、囁くように言った。


「葉月さん、さっきの診察の前に祐飛たちから報せが来て。だから早く知らせた方がいいのかなと思ったんだけど」


 そうだったんだ。そういえば、お医者様がいらした時、伊織さん、すぐに玄関に来なかったっけ。

 報せを受けていたからだったのね。

 あぁ、私どうしよう。

 聞くのが怖い。私、あんなに奈美のこと知りたかったのにな。なんで、こんなに怖いんだろう。

 私は大きく息を吸う。

 すると伊織さんがまとう、お香と煙草の匂いが肺に入ってきた。

 お香の匂いはいい匂いなのに、煙草でけっこう台無しになっていると思う。

 そう思ったらちょっとおかしく感じた。

 私はそっと伊織さんの背中に手を回して、彼に答える。


「大丈夫です、私。だからあの、教えてください。今、わかっていること」


 すると伊織さんは私の顔を目を細めて見つめて、


「わかった。じゃあ一緒にお茶、用意しようか」


 と言った。

 


 


 

 


 

 

 

 

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