25 友だちの行方
私と伊織さんは、縁側に隣り合って座る。
綺麗に手入れされた日本庭園が、私たちの前にひろがっていた。
松の木に、苔の生えた石。それに紫陽花の花が見える。あんまり外に出ないけど、お庭は私に季節の移り変わりを教えてくれた。
私たちを挟むように置いた、カフェオレが入ったマグカップと、チョコレートがのったお皿。
私は伊織さんから渡された紙を、ゆっくりと開いた。
どこにでもある、コピー用紙の一枚の白い紙。
そこに書かれていたのは奈美の情報だった。
『菊間奈美。十八歳。私立音羽大学経済学部一年在籍』
奈美の大学名、絶対聞いたはずなのに全然しっくりこない。
それに住所が書いてある。あ、これマンションだよね。アラハバキって……これ、キチジョウジから近いのかな。あとで携帯で調べてみよう。
でも書いてあるのはそれだけだ。
他に変わった様子はない。とりあえず、無事でいるんだ。その事に心底ほっとして、私は大きく息をついた。
「よかった……」
でも、ならなんで連絡、くれないんだろう。
なんで今、連絡取れないんだろう。奈美、大学にいって変わっちゃったのかな。
そんな不安を抱える私に、伊織さんが言った。
「葉月さん、これがその子の写真」
そう言いながら、彼は私に写真を見せてくれる。
それを見て私は思わず息をのんだ。
だってそこに写っていた奈美は私の知っている奈美とは全然違う見た目だったから。
もともと茶色みがかった髪は明るい茶髪になっているし、化粧も派手。それにこれブランド物の鞄かな。私、くわしくないけど。それになんていうか、露出度が高いっていうか……ギャルっていうのかな。あれ、私がしっている奈美と違う気がする。
私は慌てて元の携帯を取り出して、奈美と写っている写真のデータを探す。
卒業旅行に行った時に撮った写真と、伊織さんに渡された写真を見比べると、目とか顔の形とかは同じだけどメイクが全然違うから別人にしか見えなかった。
「葉月さん?」
伊織さんの心配げな声に、私はばっと顔を上げて震える声で言った。
「あの……これ本当に奈美、ですか?」
戸惑う私に伊織さんは頷いてチョコレートを手に取った。
「あぁ、間違いねえよ。大学の子に、『菊間さん』『奈美』と呼ばれていたし」
そう、淡々と答える。
卒業が三月で、えーと……今五月でしょ。この二ヶ月でいったい何があったのよ。
「こんなに見た目、変わるものなのかな」
そう、私は呟くように言って、その写真を撫でた。
写真は複数枚あって、今の奈美と同じ感じの女の子と一緒に写っている写真もある。
これってどういう意味なんだろうなぁ。
友だちって思っていたのは私だけなのかな。
写真をめくると、明らかに夜の町、と言った感じの場所で写したらしい写真があった。
夜だからか、他の写真に比べるとちょっと不鮮明に見える。
それは奈美がちょっと年上っぽい男の人と腕を組んでいる写真だった。
相手の男の人、アイドルっぽくって奈美が好きそうな顔だった。
これ、なんだろう。そういえば奈美、好きな人がいるって言っていたっけ。写真は見せてもらったっけ。
そこが思い出せなくって、私は顔をしかめて首を傾げた。
「その写真の男、知ってる?」
おもむろに聞かれて私は首を横に振る。
「いいえ、知らないです。私たちよりずっと年上ですよね、この人」
「そいつホスト」
伊織さんがさらりと言い、私は何を言われたのか理解するのにすごく時間がかかった。
ホスト、ってなんだっけ。
ホストってドラマとか漫画とかで見かけるやつだよね。女の人といっしょにお酒飲んだり、はしゃいだりするやつ。
私の知識はそこで限界だった。
私はその写真を伊織さんの方に見せながら、彼に尋ねた。
「あの、ホストってどういうことですか?」
「あぁ、あんたはそういうのとかかわったことねえか。女の子に気持ちよく過ごしてもらうお店。店によっちゃあ、女に金貢がせてむしりとるようなやつもいるし、借金背負わせてウリやらせるようなのもいる」
そう語る伊織さんの声はなんだかとげがあるっていうか、怖かった。
私にはよくわからない世界だけど、偽の借金で売られかけた身としてはなんだか他人ごとには感じなかった。
でもつまりどういうことなのかがわかんないけど。
「あの、奈美はホストと付き合ってるんですか?」
そんな私の問に、伊織さんは苦笑いを浮かべる。
「付き合ってる……女の方はそう思ってるかもな。ホストってそういう生き物だから」
そう答えて伊織さんはまたチョコレートを口に放り込んだ。
ごみは全部、お皿の上に載ってる。よかった、その辺に散らかさなくって。
私はそんな伊織さんから目を離して、奈美とホストの写真を見つめた。
腕くんでるし、私には付き合ってる風にしか見えないけど……どういう事なんだろう。
私はない知識をフル活動させる。
「それってつまり……奈美は付き合ってるって思いこんでいるけど、ホストさんの方はあくまで客として接してるだけって事、ですか?」
そんな私の自信がない言葉に、伊織さんは神妙な顔で頷く。
「その通り。デートってやつもその女の方が金を払ってると思うぜ」
「そういうものなんですか……」
だめだ、私には理解できない世界だ。
でもなんで奈美はそんな男と付き合ってるんだろう。
なんだか胸騒ぎがして落ち着かなかった。




