第33話:帰還
眩しい光に包まれ、意識が浮上していく。
重たい瞼をゆっくり開けると、そこは崩壊しかけた石造りの部屋だった。
瓦礫が積み重なり、空気には焦げた匂いが漂っている。
「……っ!」
すぐそばで、誰かが息を呑んだ。
顔を向けると、涙で濡れたエリスが俺を覗き込んでいた。
「目が……覚めたのね……!」
彼女の声は震えていたが、確かな安堵が滲んでいた。
「……エリス……」
声が掠れ、身体は鉛のように重い。
それでも、その存在が胸の奥に温かさを広げる。
少し離れた場所には、監視者が立っていた。
無表情のまま、だがその目は冷静に俺を見据えている。
「……どうやら、持ち堪えたようだな」
淡々とした声。
「人間としての自我を保ち、影を押し返した。
だが――それが永遠に続く保証はない」
「そんな言い方……!」
エリスが怒りを込めて睨む。
「彼は……彼はちゃんと自分で選んで、帰ってきたのよ!」
監視者は目を細め、ほんの僅かに肩をすくめた。
「……そうかもしれん。だが我々にとって、お前は依然として“危険因子”だ」
重苦しい沈黙が落ちる。
俺はうつむき、震える手を見つめた。
確かに影の気配はまだ残っている。
だが同時に、心の奥に確かな声があった。
――俺は俺だ。
「……それでも」
弱々しいが、言葉を吐き出した。
「もう……逃げない。人間として……この力と向き合う」
エリスが俺の手を握り、強く頷いた。
監視者はしばし沈黙し、やがて踵を返す。
「……見届けさせてもらうとしよう」
そう言い残し、静かにその場を去っていった。
残されたのは俺とエリス。
互いに言葉はなくても、その手の温もりがすべてを語っていた。




