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第26話:揺らぐ忠誠



監視者の言葉が突き刺さったまま、部屋の空気は重く張りつめていた。

俺は鎖に縛られたまま、エリスを見た。


「……お前は知っていたのか」


問いかけに、彼女は唇を噛んで答えなかった。

その沈黙が何より雄弁だった。


「エリス。任務を忘れるな」

監視者が冷たく告げる。

「対象を監視し、必要なら処分する――それがお前の役目だ」


「……わかってる」

彼女はかすかに返したが、その声には迷いが滲んでいた。


「ならば撃て」

監視者の目が光る。

「いまこの場で引き金を引けばいい。怪物になる前にな」


沈黙。

エリスの手がホルスターに伸び、銃を抜く。

黒光りする銃口が俺に向けられた。


《ほう……面白い。撃つのか? それとも甘さを選ぶのか》

影が愉快そうに囁く。


「エリス……」

声を絞り出す。

「もし撃つなら……はっきり言え。俺を守るためじゃなく、命令だからだって」


銃口がわずかに震えた。

彼女の瞳の奥で、怒りと悲しみがせめぎ合う。


「……私は……」

小さな声が漏れる。


監視者は一歩近づき、低く命じた。

「撃て。迷うな。怪物に情けをかけるな」


その瞬間、エリスは銃を振り返りざまに監視者へ向けた。


乾いた銃声。

火花が散り、壁が抉れる。

監視者の外套が裂け、だがその肉体に傷はなかった。


「……やはり甘いな」

監視者は無表情のまま、ゆっくりと銃口を逸らしたエリスを見下ろす。


エリスは荒い呼吸を繰り返しながら、俺の方へと視線を向けた。

「……ごめん。私は……あなたを撃てない」


その告白は、鎖よりも強く胸を締めつけた。


《フフ……いいぞ。人間らしい醜さだ。だが代償は大きい》


監視者の瞳に、今度こそ殺意の光が宿った。





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