第21話:傷跡と疑念
戦闘の余韻が、地下室を重く支配していた。
壁はひび割れ、床には焼け焦げた痕と血の匂い。
生き残った兵士たちは恐怖に駆られ、すでに撤退していた。
「……っ」
俺は壁に背を預け、息を吐いた。
全身が重い。
変形した腕はようやく人の形に戻りつつあるが、黒い脈動はまだ皮膚の下で蠢いていた。
「無理に動かないで」
エリスが近づき、応急処置用のキットを取り出す。
彼女の手は迷いなく包帯を巻き、消毒液を流し込む。
その冷たい感触が、妙に現実感を与えた。
「……お前……さっき本当に俺を撃つつもりだったのか」
気づけば、声が出ていた。
エリスは手を止めず、淡々と答える。
「そうよ。あなたが完全に“影”になったなら……その瞬間に」
一切のためらいもなく言い切るその声に、背筋が冷える。
「……そんな簡単に……」
「簡単じゃない。けど、選ばなければならない時が来る」
沈黙。
血の匂いが、妙に強く感じられた。
だが胸に引っかかるものがある。
なぜ管理局は、俺をこれほど執拗に追うのか?
ただ“影の宿主”だから?
それとも……。
「……エリス。お前は……本当に俺を守るためにいるのか?」
その言葉に、エリスの手が一瞬だけ止まった。
目を合わせようとしたが、彼女は視線をそらす。
「それを知るのは――まだ早い」
意味深な言葉。
信じるべきなのか、疑うべきなのか。
影が嗤う。
《ほら見ろ。裏切りはすでに始まっている》
胸の奥に、冷たい不信が広がっていく。




