第16話:揺れる心
エリスの言葉が頭の中で反響し続けていた。
――敵を選べ。
――影を受け入れろ。
目の前の書類に描かれた図は、まるで俺自身の未来を示すようだった。
黒い斑点が全身に広がり、人の形を失っていく。
そうなれば、俺はもう“俺”じゃなくなる。
「……くそっ……」
机を叩いた音が、地下室に乾いた反響を残した。
選べと言われても――どちらを選んでも地獄だ。
拒めば、影に喰われて死ぬ。
受け入れれば、人をまた殺すかもしれない。
「俺に……選べるわけが……」
そのとき、胸の奥で囁く声がした。
影の声。
俺の心の底に染み込むような響き。
《選べるさ。お前にはもう血の匂いが染み付いている》
「やめろ……黙れ!」
《生きたいだろう? なら俺を受け入れろ。
お前が恐れているのは力じゃない。“責任”だ》
呼吸が乱れる。
その言葉が、図星だったからだ。
エリスの視線が突き刺さる。
「あなたの時間は、もう残されていない。
影の進行は止まらない。……選ぶのなら、今しかない」
心臓が痛いほどに脈打つ。
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
――生きたい。
――でも、人をまた傷つけたくない。
――けれど、殺されるのは嫌だ。
「……俺は……」
言葉が喉から漏れかけた瞬間、地下室全体が震えた。
モニターが乱れ、警告音が鳴り響く。
《警報。管理局部隊、接近》
エリスの瞳が鋭く光った。
「決断は後回しよ。生き延びたければ――戦うしかない!」
そして、俺は再び選択を迫られる。




