インベーダー
「……」
「……」
牢屋の置物と化している元ダン長を、困ったような……そして面倒くさそうな目で見てます。どーも私です。
早く出て行ってくんねぇかなコイツら……いやまぁ、本人達も自分の意思でいるんじゃないんだから無茶なこと言ってんのは分かってんだけどね。
「どうしたもんかねぇ……」
と言っても、私達もなんでこうなってんのかは正確には分かってねぇのよ。だってアルバイトが終わって牢屋に帰還したらこうなってたからね。
コイツらが精神崩壊したみたいにボソボソ呟いてたから、分かったって感じだし……朧げにね。
「んでぇ……お二人様はこれからどーするつもりで?」
「……」
「……」
ソファーに座って壁際で体育座りする元ダン長に言葉を投げかけるが、反応は返ってこない。
なに? 寝てんの?
「はは、もしかして寝てたからダンジョンを奪われたんスかね」
「……うるさい」
おっと高飛車女から短いお便りが届きましたわ。
続いてキツネ顔が口を開く。
「これから……どうするも……ありませんよ。ここから出られないんですから……」
顔を上げたキツネ顔は、遠い目で自嘲するように天井へと顔を上げた。ふむ、高飛車女に比べてキツネ顔の方はまだ会話になりそうやね。
出られない……ね。そりゃそうだ。
ここは牢屋だよ? 罪人が逃げないように作った檻なんだから当たり前だね。
ま……私達、出歩いてるんだけどね!
そもそもお前らが入れられた時もちょうど出てたんだけど気づいてなかった? それどころじゃねぇかぁ!
「てかウケる。自分たちが作った牢屋に入れられるとか……皮肉効いてるわ」
私がソファーに寝転がって口に出すけど、二人は無反応だ。
悪いねぇ〜酷なこと言うけど、私ぶっちゃけエンタメくらいの感覚で見てるわ。
だって関係ねぇもん。下世話な週刊誌を見てるような気分で鑑賞するしかねぇじゃん。
いやまぁ完全に関係ないと言われたらそうじゃないんだけどさ。
第一に、実際私達の牢屋に入れられたんだから、なんかイヤじゃん? これを関係ないってみなすにはデメリットデカ過ぎ。
第二に、なんか巻き込まれそう……。推定罪人のコイツらと同じ空間にいるとか、高い確率で厄介な事に巻き込まれそうよね。てか何で同じ牢屋に入れられたんだよ!
ま、言っても仕方ないね。本当に巻き込まれるのかも分かんないし、巻き込まれそうなら出ていけばいい。
コイツらの縄張り争いだとか戦争だとか他人事だし。
とりあえずメシが出なさそうなら出ていくって方向でいいかな?
それならばこの牢屋の役に立たなさそうな置物二個には、私達のエンタメテレビとしての役割を与えてやろう。精々私達を楽しませな。
「んで、お二人様はなんでこんな事になったんスかね? 家賃代わりに教えてくれると楽しいッスね」
「………………………………もともとアンタ達の家じゃないわよ」
高飛車女が膝に顔を埋めながら返してきた。
おっと、返す言葉がねぇ……その通りだね!
「分かっているでしょう。私達は負けたんですよ……」
キツネ顔が魂の抜けたようなツラで、天井に吐き捨てた。
お前ら高飛車な喋り方とか、胡散臭い面とか忘れてんぞ……まぁ不安を誤魔化すキャラ付けだったから仕方ねぇか!
「……初めは……ウルペースダンジョンとベアリングダンジョンの南方に『小さな人工ダンジョン』が出来たのが始まりでした」
ポツポツと現状を整理するような……そんな喋り方でキツネ顔は語りだす。それはまるで、理不尽な出来事を誰かに聞いてもらいたかったかのようだ。
語るだけなら幼女相手でもいいんだろうね。
「発生したばかりと言っても小さ過ぎた。意味不明なくらいに小さいダンジョンでしたよ。そんな発生したばかりの、ダンジョンになす術もなく侵食され、あっという間にダンジョンは塗り替えられて、我々は敗北しました……不自然なほどね。それだけです」
「ふ〜ん」
それだけって言ってるわりには……納得いってなさそうだね。実力不足で負けたんなら不自然にって言葉使わないもんね。
……なにかあんだろうなぁ。面倒くさそうな事情が。
「これは忠告です……誰か来たらキミ達は見つからないように隠れていなさい。相手は理屈が通じません」
「……」
そう? まぁいざとなったら出ていくよ。
「……なんで……こんな事になるのよ……」
高飛車女の湿った涙声が牢屋の床に重く染み込む。
「なんでワタクシなのよ……教えてよ……ダン長ぉ」
…………ダン長? ダン長はお前だろ。
私と幼女ちゃんの疑問顔に、キツネ顔が深くため息を吐いて口を開く。
「……白髪の子の言っていた通りですよ……。我々は元々一つのダンジョンでした。そして私達は二人ともそこでダン長ではなく『幹部』をしていたのです。……今はお亡くなりになった先代の元で……」
あ〜……そう言う事かぁ……。
少し分かったわ。恐らく前任者が急死しちゃったんじゃね?
コイツらが内心自信がなかったり、自分はダン長の器じゃないってコンプレックス。そのせいか。
引き継ぎがうまく出来なかったんだ。
「……実は今回の件は……二度目です。先代が亡くなったあの事件も同じでした。突如現れた不自然な人工ダンジョンに侵食され……瞬く間に塗り替えられた。今なら何が起きたのか朧げながら理解できます」
二度目? この『ダンジョン乗っ取られ事件』て前にもあったんだ。
「馬鹿みたいに単純で……非常に効果的な手段ですよ。……膨大なエネルギーを使用して『キーポイント』に登録してある先代の管理者権限を直接書き換えた」
う〜ん、よく分からんけど、採算度外視で持ち主を自分にしちゃったってことか。本来ならダンジョンの戦争ってそんな直接的なやり方じゃないんだろうね。
「そんなもの誰にも防げませんよ」
「……じゃあなんでお前らはダン長やってた」
幼女ちゃんが眉間に皺を寄せて呟く。
あぁ、いわれてみれば確かに! 前にも同じ事が此処で起きたんなら、コイツらがダン長やってるのおかしくね。乗っ取られたんだろ?
言われたキツネ顔は、難しそうに顔を歪める。それは辛い過去を思い出しているように見える。
「さっき言った通り、先代の管理者権限を書き換えていたのが敵の方法……先代はそれにいち早く気づいて、キーポイントが書き換えられる前に。私と……ベアリングさんに書き換えたんですよ。そして自分の管理者権限をダミーで残した……」
ほ〜う、先代とやらはユーザーアカウントを増やしたワケね。
「そして先代は書き換えを行いながら移動し、追い詰められ……そして最後の力を振り絞って一気に管理者権限を我々に移した。ダン長は言っていました。侵略者はダンジョンの素人だと……だからエネルギー効率を無視した力技を行った。だからこそ有効な手段だったのです。そのあと侵略してきたダンジョンは、忽然と姿を消しました。恐らく無理矢理な運用でエネルギーが枯渇したのでしょう。そして……先代は帰らぬ人となりました」
そう語るキツネ顔の表情は、どこか誇らしげで悲しそうだ。先代とやらを尊敬してたのが伝わってくる。
「……じゃあなんでお前らは今回、それをしなかった」
「キミは無茶いいますね……」
幼女ちゃんの疑問に肩を落とす。
「先代は……センスがありダンジョンの天才でした。私のような凡人ではマネ出来ませんよ……。キーポイント一つの書き換えですら数時間を要します。私はダン長の器ではないのです……」
なるほどね。エンタメとしては中々面白い話だったよ。
何個か気になる点はあるけど……。
まず、前回の侵略者と今回の侵略者は同じ存在なのか? まぁ、侵略方法がわりと特殊っぽいから同じな可能性が高いのかな?
二つ目、なんで先代は殺されて、お前らは牢屋に入れられたのか? しかもこの牢屋に……。
「なんで、なんでここなのよ。こんな無理矢理な侵略あっていいはずない。縄張りの奪い合いどころか……ダン長まで……」
無言だったけど高飛車女は、会話は聞いていたらしい。ぐずるように呟く。
ん〜〜ん…………ん?
「縄張りの奪い合い? アンタらみたいにダン長が追い落とされるのは……もしかして稀だったりする?」
「ない事ではありませんけどね。先代の代わりにダン長となった我々では力不足だったと言うことでしょう……」
普段は領土の奪い合いが主で、ダン長が変わるまで続けるのは稀なのか。コイツらは事情があって合併したかっただけで……。
あ〜っと……もしかしてさ……
先代ってマミィ〜じゃね?
あの人ダンジョンで敗北したから追手から逃げたんじゃなかったか?
「先代のダンジョンを構築するセンス……発想。我々では何も持ち合わせていない」
キツネ顔の言葉に、高飛車女が僅かに顔を上げて自嘲した笑みを浮かべる。
「ええ、あの人は憧れだったわ……いつだって落ち着いた口調で相談に乗ってくれた」
マミィ〜じゃね?
「ええ、亡くなったあの人の為に、ダンジョンを二人で守ろうとしましたが……ダメでしたね。あの人はもう何処にも居ない……」
死んだならマミィ〜じゃねぇかぁ……。
「気さくな方でしたね。たまに幹部を集めて料理を振る舞ったり……」
「料理はいつも一緒だったけどね……」
マミィ〜じゃねぇかッ!!
もう確定だよ!
「みんな……ダン長のことを信頼していたわ。部下一人一人に気を配ってくれて……花畑みたいに笑うあの人がみんな好きだった……」
「ええ、惜しい人を亡くしました……彼女は私たちの支えだった。みんなの精神的支柱だったんですよ……」
その人たぶん今でも精神的シチューだと思うよ。精神をシチューで支配されてたよ。
私と幼女ちゃんは顔を見合わせて肩をすくめる。
あ、キミも気づいた?
ん〜まぁ、コイツらに教えてやる義理はねぇなぁ。
説明面倒くせえし……。
「……」
「……」
静かになったからしばらく放っておいたら、会議室の扉が開いた。おん? メシの時間かい?
そういやダンジョン乗っ取られたけど、メシはちゃんと出るのかねぇ……。
「……と、若造兄ちゃんじゃん」
入ってきたのはいつもの見知った顔だ。
キツネ顔がガバリと顔を上げ、這うようにして牢屋の鉄格子を掴む。
そして、泣きそうな声で若造を見上げた……。
「……クイック君……なんで……なんでキミは裏切ったんだい?」
若造兄ちゃんは酷く冷たい目で見下しながら、静かに口を開いた。
「私は……ダンジョンの長の器に相応しくない者の下に着く気はないんですよ……」
その言葉にキツネ顔が絶望の表情を浮かべる。
お〜お〜若造兄ちゃん。それはキツネ顔にクリティカルヒットだよ。
もしかして、若造兄ちゃん下剋上した? これってもしかしてマミィ〜の時も含めて全部内部抗争だったりすんのかね。
そして、若造兄ちゃんの後ろから別の人間が現れる。
その人間に若造は軽く頭を下げた。
「よ、二人とも! 気分はどうだい?」
日に焼けた自信のありそうな渋めの男。
ピンク色のコートに帽子を被ったオッサンはニッカリと笑って友達のように元ダン長に片手を上げる。
あ〜、こいつ空港の時の趣味悪いピンク船長じゃん。
「改めて自己紹介しておこうか」
ちょっと若めの軍艦の艦長っぽい男は、敬礼をするように頭に手を当てる。
「造船所勢力の空帝候補」
あぁ、そうか……これは部下の下剋上とか内部抗争とかそんな難しい問題じゃねぇな。
「並びに……新しくこのダンジョンの長に就任した……」
非常に分かりやすくてシンプルな話だったんだよ。
「キャプテン……ブリガンドだ」
これはただの『侵略』だ。




