商売にはつきもの?
「あっはっは! 人工ダンジョンってのは楽でいいなぁ! お前らちゃんと休憩とっとけよぉ。休める時に休んどけ!」
ダンジョンの簡易セーフティゾーン、そこで豪快に笑うオッサンの声が響く。
それを監視カメラで観察する――どーも私です。
ふむふむ、人数は六人の男……。
今回のカモですなぁ〜。
「いや、部長の剣さばきは凄まじいですね」
「馬鹿野郎〜そんなの…………聞き慣れてるよぉ!」
「「「あっはっは!」」」
う〜ん、声の大きなオッサンが上司で、五人の太鼓持ち部下といったところ……あれだね。休日に上司とゴルフにやってきた会社員って感じかな?
ゴルフの代わりにダンジョンなのが異世界ならでは。この世界のダンジョンの立ち位置って、レジャー感覚なのかね……。
素人でも浅い所なら登れる山ってイメージ。
「この間うちの娘によぉ〜、『お父さんの冒険者姿見てみたい!』なんて言われてよぉ。困っちまったよぉ〜。お父さん今はただの中年だっての」
「いやいや、まだ現役で行けますって」
「そうかぁ〜? 娘といえばよぉ、ピアノの発表会を見に行ったら」
「はいはい、部長は娘さんの話を始めたら止まらないんで、やめてくださいね」
「冷てぇ〜!」
「「「あっはっは」」」
アンタら楽しそうね……。怪我とかしてない?
「怪我してるヤツいるか〜?」
「あ、俺足やられましたね」
あ、してるね〜。良かった! 助かる!
「おわ、結構ふけぇな……ポーションは?」
「部長が使ったんでしょう!」
「ありゃ? そうだったか? わりぃわりぃ、経費で落とすから勘弁な」
おっと、良い情報。ポーションないのか。
つまり、売れる可能性があるね。
食料は〜、見たところ余裕ありそうだし、売れそうなのはポーションくらいかな?
「幼女ちゃん、開店するよ」
「……ぬ、客か」
ソファーに寝転がっていた幼女ちゃんが立ち上がり、壁をポンと叩く。カタカタと壁がブロック状に動き出して、奥が見えないほどの穴とトロッコが現れた。
よしよし、あらかじめ作っておいたから準備はバンタン!
「ゴー!」
もたもたしてると冒険者が帰る判断しちゃうかもしれないからね。急がなきゃ!
シュゴーと洞窟を滑走して、冒険者のいる休憩室までデリバリー!
――――――――――――――――――――――
「はい到着!」
えーっと、七番カメラだったからここだよな?
幼女ちゃんが行き止まりに手を付けて穴を開ける。ロッカーの内部に貫通した穴を閉じて飛び出した。
「はい、どーもー幼女ショップです!」
「……まいど」
「「「おわ!」」」
急にロッカーから飛び出した私達にビックリしたようしたようだけど、子供と分かるや安心したように私達の動きを黙って見ている六人の冒険者。
「はいはい、ちょっとまってね〜、今準備するから」
ロッカーの中にスキマを繋げて、テーブルを取り出す。そしてドン、ポーションを置いてニコリと笑いかけた。
「そこ行く冒険者様方……ポーションはいかがです?」
「「「「……」」」」
冒険者達は目を合わせて不思議な顔をしていたが、やがて部下っぽい人が、声のデカい部長さんとやらに耳打ちすると、納得いったように頷いた。
「あ〜なるほど、嬢ちゃん達ポーションを買わねぇかって言ってるのか!」
「お話しが早くて助かりますねぇ〜。どーです一本? いいの揃えてますよ〜。回転転車で帰る判断、早くないですか〜?」
「はは、逞しい嬢ちゃんだな! 偉いぞ」
ズンズンとやってきた声のデカい部長は、私達の頭をグリングリンと撫で回す。
あで、あででで、人の頭をアーケードゲームのジョイスティックみたいに操作すんのはやめろ!
帽子がズレる。オッサンのガサツな態度はガキに嫌われるからな。
「……さわんなハゲ」
ほら! 微妙なお年頃の白髪幼女が顔をしかめてんだろ。いや、ほんと、聞こえないようにしてね……。ハゲはやめようよ。
幼女ちゃんはズレそうなフードを被り直す。
「それで、どーです? 今回はちょっとお高めのポーションも用意してありますよ」
そう、なんと奮発したポーション買ってきたんだ〜。その値段なんと定価3000ネルスのポーションよ。約三万円のポーションだね。これと1000ネルスのポーション二本立てが商品だ!
このポーションは、いつものポーションと違って小さく、缶コーヒーのショート缶くらいの大きさ。
それでいて回復量は上なんだから、そりゃ上等よ。
……あ、もちろん売るなら三倍よ。在庫になったら悲しいぜ!
「どうですぅ〜? オススメはコッチの小さいポーションですね」
「ほぉ〜、セラ工房の『エネルゲイアV2』か。俺が若い頃使ってたポーションと同じだな!」
お、反応良さげ? ポーションにも消費期限みたいなのがあるらしいんだけど、割と長いみたいよ。
このオッサンはちゃんと期限も確認してるね。
どっすか? 買いません?
「部長〜、さすがに怪しいですって……こんなダンジョンの奥に子供がいるなんておかしいですよ……」
おっと部下さんが余計なこと耳打ちしてやがる。
そんな部下の言葉を、声デカ部長は笑い飛ばす。
「あっはっは、今の若け〜ヤツらには分からんかもしれんがな。昔は子供がダンジョンで商売するなんて当たり前だったんだぞ」
「いや、昔のことは知りませんけど限度がありますって……」
う〜ん、これはどうかな〜……。
部長は乗り気だけど、部下は怪しんでるって感じ?
まぁたぶん、コイツらって本職の冒険者ってよりは、休日に山登りに来た会社員って感じだもんなぁ。
厳しいか? いや、部長は押せば買うかもしれん。
「なぁに、俺がガキの頃は当たり前当たり前! ……と言いたいところなんだけどなぁ」
そう言って声デカ部長は、野太い眉毛をハの字に変えて申し訳なさそうにする。
おや?
「嬢ちゃんたち……悪いけど、ダンジョンでの商売は禁止されてんだよなぁ〜」
「いたたた、オジサマ痛いとこつくねー」
私はわざとらしく頭を押さえて、首を振る。
あ〜あ〜、そういうタイプかぁ〜。
決まりをしっかり守るタイプのお人でしたね。そりゃあ客にならねぇわ。それに部下の目もあるしね。
しょうがないしょうがない。
「わり〜な〜嬢ちゃんたち……」
「いえいえ、お気になさらず」
まぁせっかく出向いて何も売れないなんて良くあることだよ。むしろ売れたらラッキーくらいの確率だからね。
私は営業スマイルで、テーブルのポーションを片付けようとする。
その手を、部長さんのイカつい手が万力のように握りしめてきた……。
「そう、嬢ちゃんたちがやったのは『違法行為』なんだな〜これがぁ。つまり犯罪なんだよ」
おやぁ……?
正義感にあふれた御仁だったりします?
「分かるかな? 俺も心苦しんだけど、嬢ちゃんたちを警察に突き出さなきゃいけねえ……」
あ、ヤバいかこれ?
後ろの幼女ちゃんが、僅かに腰を落としたのが感じ取れる。
「でもよぉ、俺にも娘がいるんだよ。それを思うとなぁ、小さい子供が必死に頑張ってるの見るとオジサン見逃したくなるわな……」
「……」
声デカオジサンは私の手を握りしめている手と反対の手で指を立てて不細工なウインクをしてきた。
「よし、分かった! 可哀想だから警察に突き出すのはやめておくな!」
「……そりゃ助かるッスね」
「だから、そんなポーションはオジサンに任せとけ!」
「…………」
休憩室の温度が数度下がった気がした……。
「証拠残しちゃいけねぇもんな。俺が責任持って処分しておくわ!」
「「………………あ“ぁ“?」」
……んだぁこのハゲ。
ハゲたこと言ってんじゃねぇぞハゲ。
ハゲさせんぞハゲ。




