襲撃
屋敷に戻る。腕はもう治ったみたいだ。動かしても痛くないし、血も出ていない。皮膚も再生されてる。恐ろしい力だな。ベッドに腰掛け、足を組み、考える。
なんでこの世界だと能力を持っていたら迫害されるんだ?日本にも出る杭は打たれるって言葉があるからそれか?どこまでいっても人の本質は嫉妬だと思うと些か気が滅入るし、うっかり自殺しそうになる。おっと、これは俺が言っちゃダメなタイプのジョークだな。
「し、失礼します」
ドアが開けられ、また違うメイドが入ってきた。なんか幼くね?
「は、はじゃま、っ、えっと、初めまして、カンタービレです」
「ふふっ、初めまして。風祓蓮です」
「ば、バラ科さんですね。よろしくお願いします」
「カバラね」
「バカラさんでしたか。ご、ごめんなさいっ」
「カバラね」
「えっと、カバラさんですね。何度もごめんなさい」
「いいよ」
ガチガチやんけ。
「何しにきたのかな?」
「えっと、汚部屋の片付けに参りました」
お部屋を噛んだだけよね?汚部屋って言ってないよね。
「じゃあ、頼んでいいかな。俺は煙草吸いに行ってくるよ」
「は、はい。任せてください。ものひとつ残しません!」
塵でしょ。言わんけど。部屋を出て喫煙所に向かおうと思ったが、よく考えたらちゃんとこの屋敷を知らないことを今更思い出した。少し探検しよっと。とりあえず隣の部屋をノックしてみる。
「どうぞ」
ん、ベレッタがいるみたいだな。
「入るぜー」
「れ、レンさん!」
ドアを開けるとベレッタが慌てたように椅子から立ち上がった。どうやらデスクに座って何か書いていたみたいだ。
「ど、どうされましたか?」
「いや、少し屋敷を探索しようと」
「あ、私も案内していませんでしたね。ご案内いたしますよ」
「いや、なにか作業してたんでしょ。大丈夫だよ」
「いえ、雑誌を読んでいただけです」
「あ、雑誌なんてあるんだ。どんな雑誌?見せてよ」
渡された雑誌はファッション誌みたいな感じだ。写真ではなくあくまでイラストだ。まだグラビアは発達していなさそうだ。
「なにか欲しい服とかあるの?」
「いえ、少しオシャレしたいだけです。私は基本公務用の服ですから」
「なんでオシャレしたいの?」
「えっと・・・その、言わせないでください」
「なんで言わんのよ」
「とにかくなんだっていいてすから!さぁ!行きましょう!」
強引に部屋から追い出された。俺が何をしたって言うんだ。
「じゃあ、えっとここが私の私室です。寝室は別にありますが別に紹介はしません」
「なんてよ」
「なんでって・・・とにかく見せません。私室に基本いますから私に用があったらここに来てくださいね」
「はいはい」
「そして、この隣が貴方の部屋ですね。キチンと掃除してますか?」
「さっきカンタービレさんかな?可愛いメイドちゃんが来て掃除してたよ」
「そうですか」
俺はなんとなくドアを開ける。カンタービレさんは背伸びした上で椅子に立って棚の上を雑巾で拭いていた。
「ご苦労様です、カンタービレ」
「ベレッタさん!お疲れ様です!」
振り返った。そしてカンタービレさんは驚いたようにその場で固まった。
「俺に緊張しすぎでしょ」
「カンタービレは男の人とあまり関わったことがないんです。あまり怒らないでください」
「カンタービレさん」
「ひゃい!」
「俺が怖い?」
「ま、マガラさんのことは怖くない!です!」
「ほんとは?」
「怖いでふ!」
噛みすぎだし。なにがマガラだよ。渾沌に呻いたろか。
「じゃあ、案内を続けますね」
暫くは空き部屋が続き、他と違うドアの部屋についた。
「ここがアレグロの私室です。本当は客間なのですが、アレグロが私物を大量に置いたり壁紙を変えたり、挙句の果てには部屋の真ん中にミラーボールを置いて武器を大量に置いてたりともうどうしようもなくなったのでアレグロの私室になりました」
「えぇ」
「入りますよ」
部屋ん中は確かにミラーボールがあった。なんで床置きなのよ。普通吊り下げるやろ。でも上にはシャンデリアが飾られてる。和洋折衷すぎる。どっちも洋だけど。てかあんな穏やかさで陽キャすぎる。本当に掴みどころがないな。
「カバラさん」
「なんや」
「どうですか?オシャレでしょ」
「生憎そんな感性は持ち合わせてないな」
「え」
アレグロは固まった。なんで理解されると思ったんだよ。俺割と一般人やからな。
「カバラさん」
「なに?」
「不服です」
「なんでよ」
「気に入ってください」
「棄却や」
「というか、さっきカンタービレに掃除してもらったはずですよね。なんでもう汚いんですか?」
机の上はごちゃっと色んな機材がおいてある。確かに汚い。
「カンタービレが汚しました」
「掃除したの間違いです」
「いえ、私的な美的センスに適してません」
「自分がマイノリティであることを自覚してください」
置いてあったモーニングスターを手に取る。
「それはアレグロが勝手に買った武器です」
「メメントモです」
りまで言えよ。
「これは?」
大量のナイフだ。結構コンパクトだ。同じナイフが10本以上ある。
「フワリングナイトです」
「なんか小さくね?」
「投げナイフです」
「へえー」
その隣の大きすぎる楯を取る。
「ライオットです」
「イディオットの間違いだろ」
アレグロはミラーボールを点灯させた。なぜか青色にしか光らない。
「というか、アレグロはベッドはどうしたんですか?」
「置き場所が無くなったので隣の部屋に起きました」
「ベッドをか?」
「はい」
「普通逆じゃね?」
1度出て、隣の部屋を開ける。ベッドが真ん中に置かれてた。ベレッタはそれを見て頭を抱えた。
暫く屋敷を案内してもらった。厨房は流石にIHはなかったが水道もあるし、結構綺麗だ。
「どうですか?」
「なにがだ?」
「この屋敷です」
「いいと思うぜ」
「そうではなくて、その、えっと、ここに住む気になりましたか?」
「え、追い出されるの俺」
「いえっ、違います。レンさんさてよければここに住みませんか?」
「是非お願いしたいね」
「っ、わかりました。では、着替えなどの用意をしますね。少し私は買いに行ってきます」
ベレッタは小走りで行ってしまった。俺はアレグロの部屋にまた行く。
「ちゃお」
「カバラさん」
「なんや」
「ノックは4回です。2回はトイレです」
「そりゃ失礼」
「なにか用ですか?」
「いや、なんとなく」
「そうですか」
俺は適当に椅子に・・・椅子すらないのか。
「どこ座ればいい?」
「ミラーボールの上で構いません」
「馬鹿言え」
俺は壁にもたれかかった。
「何してるんだ?」
「私ですか?」
「他に人がいるのか?」
「いえ、そこの藁人形に話しかけてるのかと」
「そんな趣味はないな」
藁人形と言うか、案山子だな。
「これはなんだ?」
「剣とかで切る用の人形です」
「名前は?」
「ベレッタです」
「怒られろマジで」
「冗談です。サムライエッジです」
「それもそれで怒られるぞ」
「それで今私がしてることですか?」
「ああ」
「クロスボウの改良です」
「ほう」
机の上にはクロスボウが分解されたと思わしき部品がおいてある。
「私は非力ですからリロードが手間取るんですよ。だから少しでも軽くできるにはと考えてます」
「へぇー」
クロスボウねぇ。
「滑車とかは?」
「滑車ですか?」
「ああ。確か動滑車は質量を半分にするんだろ?」
「・・・少し考えてみます」
「そうかい」
「カバラさん」
「なんや」
「作業しますから出てってください」
・・・言い方があるやろ。自室にとぼとぼ戻る。もう自室だもんな。
「あ、か、プラダさん!」
「それはもうワザとでしょ」
「い、いえっ、あのっ、掃除終わりました。を確認お願いします」
古文みたいになっとるぞ。部屋は確かに綺麗になってた。戸棚には花瓶まで飾られてる。
「あの花は?」
「あっあわっ、お、お邪魔でしたか?」
「いや、オシャレと思うよ。花の名前は?」
「えっと、雪月花です」
「ヒヤシンスだっけ?」
「いえ、違います。あの、えっと、その、あぅっ、私もわかりません」
・・・雪月花って確か花じゃなくて慣用句なんだっけ。じゃあヒヤシンスは?
「余計なことしてごめんなさい」
「いいよいいよ。ありがとね」
カンタービレの頭を撫でてみたい気持ちになったが、流石に通報されうるからやめた。部屋の整えられたベッドに腰掛ける。ふぅ。さて、何しようか。てか、風呂に入りたい。昨日から入ってないからなぁ。勝手に入っていいのかな。誰かに聞いてみるか。アレグロさ?は作業中だし、カンタービレちゃんに聞くのは可哀想だし、ベレッタは外出中だし。あ、確かアレグレットさんがまだいるはずだよね。まだ会ったことないけど。ちょっと探してみよう。
暫く歩き回ったがいない。仕方ないからアレグロに聞いてみよう。ノック3回してみよ。
「カバラさん」
「なんや」
「滑車をお持ちですか?」
「ないな」
「買ってきてください」
「自分で行けよ。今オフだろ」
「いえ、私はアースチャイルドがあります」
「それが?」
「今の時間に町に出たら酔って吐きます」
「なるほど」
不便さもあるのか。
「あれ?じゃあ武器はどこで手に入れたんだ?」
「私お抱えの武器商人からです。毎月末に家まで来てもらってます」
「なんで使用人の立場でお抱えがあるんだよ」
滑車ねぇ。どこ売ってんだろ。
「少なくとも今は無理だな。ベレッタいないし」
「そうですか。使えませんね」
「おい」
「カバラさん」
「なに?」
「なにかご用があって来たのですか?」
「あ、そうだった。アレグレットさんは?」
「姉さんなら今は城でベネリのお世話中です。夜には帰ってきます」
「ベネリ?どちら様だ?」
「ベレッタの実の兄です」
「あ、ベレッタって兄いるんだ」
「はい。既婚者ですから手を出してはいけませんよ」
「もしかして俺に言ってるのか?」
「サムライエッジとお喋りする趣味はありません。ベレッタと一緒にしないでください」
「お前の中でベレッタはどんなキャラなんだ」
「それで、姉さんになんの用ですか?カバラさんを私は好きなので教えますが、姉さんの性感帯は腋と首と臍です」
「知りたくなかったし、なんで知ってるのかは知りたいし、多いし、エロ目的じゃないし、あぁツッコミが追いつかねーよ」
「じゃあ何目的ですか?」
「えっと、風呂に入りたい。てかこの世界の人は毎日風呂に入るのか?」
「どこの世界の人が毎日風呂に入らないのですか?」
「いや、風呂キャン界隈という恐ろしい人々がうちの世界にはおってな、じゃなくって、風呂に入っていいんだな?」
「はい、案内します。私も入りたいですし」
「なんで一緒に入るんよ」
「効率的です」
風呂場に連れてかれた。ベレッタには案内されてなかったな。どうやら玄関の目の前らしい。不思議な間取りだな。
「シャンプーとかは?」
「これで全部洗います」
石鹸を渡された。
「じゃあお前が持ってる小瓶はなんだよ」
「シャンプーです」
「舐めやがって」
俺も臭いシャツを脱ぐ。
「服はどこに置けばいいんだ?」
「適当に脱ぎ捨てればベレッタがため息混じりに拾います」
「わかってんならやめたれよ」
適当な籠に入れる。
「てかなんでいるんだよ。なんでもう脱いでんだよ」
慌てた顔を背ける。
「カバラさん」
「なんや」
「一緒に入らないのですか?」
「入るかよ」
「ではリディファーストです」
「レディな」
ったく。脱衣所から出る。
「カバラさん」
「なんや」
「少し入ってください」
「なにがだ?」
分からんが脱衣所に入る。流石に服は着てるよな?
「先に風呂に入っていてください。少し野暮用があります」
「野暮用?」
「はい。乙女の秘密です」
「・・・あ、悪い」
「いえ。では」
俺は気まずくて顔を見れなくなった。逃げるように風呂場に入る。結構広めの木の風呂で、シャワーもある。蛇口を捻ると水が出てきた。お湯は出ないのか?まぁガスはまだ発達してねーんだろうな。俺はほぼプールの水風呂に入る。あれ?冷たいってより温い。なんつーか追い炊きしてない風呂みたいな温度だ。そもそも蛇口から出る水がぬるいのかな。
「あ、シャンプー」
結局石鹸で洗った。人の皮のシャンプーとか言わないよな。どっかで見たことあるけど。
風呂から出て、適当なタオルで体を拭く。あれ?柔軟剤ほど露骨ではないがいい花の匂いがする。着替えて・・・着替え・・・あ、服。今ベレッタが買いに行ってるよな。俺は腰にタオルを巻く。初対面のベレッタに全裸を見られてるしそんなに恥じらいはない。かといってブツをぶらぶらさせながら歩いたら流石に追い出されるからタオルは使おう。
部屋にはもう畳まれた服がある。パンツもある。肌着もある。いたせりつくせりや。さっさと服を着て喫煙所に向かう。
喫煙所にはカンタービレちゃんがいた。
「ら、えっと、カバラさん!」
「お、ちゃんと言えたね。偉い!」
俺はベンチに座る。カンタービレちゃんは雑草をプチプチ抜いてた。
「あ、あれ?吸いませんか?」
「ん?今は吸わないかな」
「えっと、カバラさん」
「なに?」
「えっと、ベレッタさんとなんで仲良くなったんですか?」
「んー、俺もわかんないんだよね。なんか良くしてもらってる」
「そ、そうなんですね」
「なんでカンタービレちゃんはここで働いてるの?」
「わ、私ですか?私はえっと、社会勉強でお母様からここで働くように言われています」
「あ、メイドさんってみんな親戚なの?」
「いえ、ダカーポさんは違います」
「あ、そうなんだ」
「えっと、ダカーポさんは、その、とある事件の加害者のひとり娘です」
「・・・ほう」
「両親が処刑されて行き場のないダカーポさんに名前をあげて、ここで働かせてると仰ってました」
「ふーん」
「その、これ私が教えたこと内緒にしてくださいね」
「勿論」
カンタービレが屋敷に戻ったのを見て、煙草に火をつけた。気が付けばもう夕方だ。やはりこっちの世界は時間が短いのか、それとも楽しいから早く感じるのか。確か大人にとっての1日は子供にとっての半日だとかそういった法則だか定理だとかを聞いたことがある気がする。まあ、調べるすべも確かめる方法もないけど。
物音がして、そっちを見ると男女のペアが庭を歩いている。あれがアレグレットさんか?ってことは男の人はベネリさんか?俺が声をかけようとした時、玄関のドアが勢いよく開いた。
「カバラさん!」
「なんや」
「屋敷に戻ってください!」
見てわかるほど焦っているアレグロが怒鳴ってきた。手にはライオットとロングソードが握られている。
「ど、どういうことだ?」
「いいから!」
入ってきた男はおもむろにクロスボウを取り出し、俺に向けた。俺はホルスターからヴィルヘルムを出し、向ける。
「どちら様だ?」
「ふん」
矢が放たれた。らしい。音が聞こえた瞬間、俺はその場から飛び退いた。飛び退くと言っても座ってたから無様に転がっただけだが。俺はどうにか体勢正し、引き金を引く。が、何も起きない。撃鉄とかは動いてるから故障じゃねぇ。あ、装弾してない。俺は灰皿を掴み、ぶん投げた。女と男が気を取られてるうちに素早くアレグロの後ろに回る。アレグロは俺にナイフを渡し、ドアを閉めた。あの、俺らまだ屋敷ん中には居ないですよ。
「アレグロ」
「中にはカンタービレがいます。入れる訳にはいきません」
「わかった」
俺はホルスターから弾も取り出し、装填する。そして、発砲。耳を劈く音と共に弾が当たらなかった。難しいな。
「な、なぁ、話し合おうぜ。人間なんだからさ喋ろうよ。せっかく人に生まれたのに犬死なんてお互いいやでしょ。まず話し合って正当な理由を持ってから殺し会お。まず自己紹介!俺はビートまりお。そこの胸元が大胆なお姉さんは?」
喋りながら素早く弾を装弾する。これで10発撃てる。1回でも当てさえすればどうとでもなる。2人は俺の健気な自己紹介に応じず、再びクロスボウを発射してきた。ライオットに弾かれる。いい楯だよちくしょう。
「なあ、殺しにきたのってよ、ジャガーノードと関係があるか?」
男が固まった。その隙に発砲する。腹あたりに命中したらしく、呻きながら倒れた。女は男を一瞥するとこちらに飛びかかってきた。
「アレグロ!」
「お任せを」
アレグロの動きは素早かった。相手のダガーを握っていた手を腕から切り落とした。その後、体勢を崩し倒れてきた女の首にロングソードを突き立てた。
「がはっ」
俺は持っていたナイフでアッパーの要領で顎の下から突き刺した。豆腐より固く、梨よりは柔らかい気味の悪い感触が伝わってくる。俺はそのままナイフを抜いた。恐らく、死んだ。というか俺が殺してしまった。
「アレグロ」
「即死です。次は男です」
「ああ」
俺は銃口を向け、ゆっくり近づく。
「・・・かはっ」
「自己紹介しておけばよかったな。それが遺言になったんだから」
万一自爆したら怖いので、もう1度引き金を引く。銃は大きな音を立てたが、男は音を立てられなくなった。
「・・・こんなことがよくあるのか?」
「いえ、初めてです」
「・・・なぁ」
「カバラさん」
「・・・」
「貴方は悪くありません。正当防衛です」
「・・・」
だとしても、俺が、俺は人殺しになってしまった。
「カバラさん」
「・・・」
「カバラさん」
「・・・」
「カバラさん」
「・・・俺が返事をしないと話さないのかおめーは」
「まだいます」
「っ」
「・・・門の向こうに立ったままです。戦闘の最中に現れたみたいで動いていません」
「敵か?」
「判断はできません。しかし警戒はできます」
「素晴らしい!」
門の向こうから声がした。木の門が開けられ男がひとり入ってきた。俺は銃を構える。
「いやぁ、まさか2人がやられるとはね」
俺は発砲した。しかし弾は持っていた金属の楯で防がれた。どんな反射神経してやがる。
「おいおい、イキナリ攻撃とは
俺は続けざまにスライドを引き、発砲する。腕が取れそうだ。しかし、やはり楯に防がれる。
「おいおい、男だろ?ステゴロでやろうぜ」
「カバラさん」
「いいぜ。先に名乗れよ。男ならな」
「ふっ、いいだろう」
俺は持っていたピストルをホルスターにしまう。しかしスライドは引いて直ぐに抜いて撃てるように。
「いいだろう。我が名はマイセンの一番槍、マッチロックだ!」
「へぇ、陛下に黒いところあるんだな」
「へ、陛下?何の話だ!貴様!決闘に不要な言葉を出すな!」
「へぇ。やろうか。拳だけか?」
「どんな勝負だ!武器をもて!楯を持て!」
「・・・俺の地元にはよ、武器も鎧も捨てて殴り合うって決闘がメジャーだぜ」
「・・・ふむ、面白い」
「やろ?」
俺は持っていた抜き身の剣を前方に投げ捨てた。
「ほら、やろうぜ」
「いいだろう。その心意気、感心する」
楯と帯刀していた刀?を置いた。
「マヌケ」
俺はすぐさま銃を抜き、発砲。外したらお終いだったが、幸運にも外れた。ハードラックだよちくしょう!
「な、き、貴様!」
俺はすぐさま駆け出し、剣を途中で拾い上げ斬りかかる。男はすぐさま納刀されたままの刀で防がれた。腕が痺れる。
「き、貴様!男の風上にも置けぬ!」
「知らねーな」
俺は持ったままのピストルを向ける。
「・・・なんの、真似だ」
「これはな、工房試作品マーク3、ヴィルヘルムってピストルだ。当たったら死ぬ」
・・・スライドを引いてないからまだ発砲できない。だからとにかく時間を稼ぐ。アレグロをチラリと見ると男の真後ろに移動していた。
「・・・くっ、負けた。殺せよ」
「いや、聞きたいことがある」
「・・・」
「誰の指示だ?」
男が身動ぎをした俺は剣をいっそう押し付ける。
「動くな!答えろ!」
「・・・ふふっ、おっかしいねぇ」
男は足を放った。俺はモロにくらい転がる。蹴られた左足が痺れるように痛い。
立ち上がった俺の目に入ったのは、宙を舞う細い左腕と、首を刎ねられた男の姿だった。
「あっアレグロ!」
慌てて上着を脱ぎ、痛い足を無理矢理動かし駆け寄る。左腕をキツく縛りあげる。アレグロの顔がみるみる青白くなっていく。
「・・・カバラさん」
「どうした!気をしっかり持って!目を開けろ!」
「・・・死にたくない、です」
「わかってる!アレグロ!目を開けろ!ベレッタ!ダカーポ!誰か!誰かぁ!」




