甘い蜜
俺は新箱を開ける。緑色だしメンソールかもな。紙を取り、咥え着火。
「レンさんは何があったら煙草をやめますか?」
「え?死んだら」
んーメンソじゃあなかったけど、前より甘くない。セブンスターに近いかな。
「冗談ではなく、煙草は体に悪いですよ」
「知ってるよ」
「元交際相手と別れた時に煙草を始めたんですよね?新しく交際を始めたらやめます?」
んー、どうだろうな。無理な気もするけどその交際相手が本気で嫌がったらやめるまでいかなくても本数は減らすかも。まぁ、どうせやめないけど。
「か、仮定の話ですから気にしなくていいです。そ、そんなことより今日のお昼ご飯どうしますか?」
「任せるよ」
「それが1番困るですけど」
大通りを挟んだ道の向こうでチンピラが小競り合いをしている。日本じゃあまり見れないかもな見物しよ。
「急に立ち止まってどうなさいました?」
「や、チンピラが喧嘩しそうだから見よーって」
「あれはチンピラじゃあないですね」
「ん?」
「護衛の練習です。街で暴徒に絡まれた時の対処の練習です。チンピラの腕に赤色の布が巻かれていますからね」
「へぇ、そんな訓練あるんだ」
「護衛たるものどんな不足の状況にも応じなければいけません」
俺は立ち止まったまま煙草に火をつけた。
「でもさ、腕の赤い布だけで判別できるならさ、それ知ったチンピラが人を襲う時に布をつける事ね?一般人からしたら練習と思ってスルーするし」
「・・・確かに」
「現に襲われている人、練習じゃあないくらい焦ってるよ」
「・・・少し行ってきます。この短刀は渡しておきますから絶対に、くれぐれも絶対にその場から動かないでくださいね」
ベレッタは行ってしまった。俺はその場で煙草を吸い続けることにした。
「お兄さん、暇そうだね」
「ああ」
「名前は?」
「風祓蓮」
「そう。暇ならトランプでもしない?」
「構わないけど、あなたの名前は?」
「ベラドンナ」
その場にテーブルと椅子が用意された。俺はベレッタが見える方に座る。ベレッタはチンピラと仲良く話してる。なんだ、杞憂かも。
「何を知ってるかい?」
「んー、有名どころなら大体。ポーカーとかブラックジャックとか」
「じゃあブラックジャックにしよう」
デッキをカットした後、2枚渡された。5と9。反応に困るね。
「もう1枚」
「はいよ」
渡されたのは3。17か。十分やな。
「スタンド」
「ふーん。あ、掛け金を決めてなかったね。いくら持ってる?」
金の価値わかんねーんだよね。ポケットに入れっぱなしの紙幣と小銭をテーブルに置く。
「へぇ。結構持ってるね」
「まぁ、これで」
持ってた小銭で1番大きい銅貨を置いた。多分10円かな。
「そんなに手に自信があるのかい?」
「まあね」
あ、結構価値あるんだ。
「私はスタンドするよ。さ、見せて」
出したのは17。相手は2枚で19だった。
「ありがとさん。まだやるかい?」
「や、結構だ。アイツも用が済んだみたいだし」
「へぇ、負けっぱなしでいいのかい?」
「構わないよ。じゃあね」
「ああ、また縁があったら勝負しよう」
小道に消えていった。ベレッタは普通に戻ってきた。
「お待たせしました」
「結局、どうだった?」
「いえ、本当にただの練習でした。被害者役の方も加害者役の方も身分証持ってましたし」
「なるほど」
「あと、待てて偉かったですね」
「舐めやがって」
また少し歩くと薄暗い道になった。
「この辺りは暗いな」
「ええ。建物が多い分陽が差しにくいのです」
「アレグロさんが言ってたのはどの辺?」
「この近くです」
赤色の壁の家のドアをノックした。
「あい」
「ベレッタです」
「貴族サマが何の用だい?」
「傷の治癒をお願いしに来ました」
ドアが開けられ不健康そうなおっさんが出てきた。
「入りな」
部屋の中は結構綺麗だ。薄暗いけど。
「そこの兄ちゃんの怪我かい?」
「ええ」
「おら、見せな」
包帯を取る。傷は少し黒っぽくなってる。
「深々とやられてるね。高いよ」
「構いません」
「じゃあ、銀貨と銅貨2枚で」
「それは高いのか?」
「はぁ。銅貨1枚で3食くらい食べれます。銀貨はその10倍です」
「わーお」
銅貨が千円くらいか。え、じゃあ紙幣って凄い高い?まぁいいや。
「来な、兄ちゃん。お嬢ちゃんは待ってろ」
別室に連れてかれた。
「兄ちゃんは能力持ってる」
「ああ。多分な」
「なんだい多分って。じゃあ、ちょっと血を貰うよ」
「かまわんよ」
注射器で血を2本分抜かれた。んー、別にそんなにフラフラしないけど。
「さて、痛いけどすぐ治るのと、何回か通うけど痛くないの、どっちがいい?」
「通う度に金は取る?」
「もちろん」
「じゃあ、さっさと終わらせてくれ」
「1回でいいのか?」
「ああ」
「じゃあ、失礼」
ナイフを傷に突き立てられた。
「って!なっ、いてぇ!何しよる!」
「暴れんな。傷開かんと治るのも治らん」
「いって!ま、痛え!麻酔とかないんか?」
「んなもん高価すぎてウチにはねぇ」
「いっでぇ!今度はなんだよ!」
「傷に薬入れてんだよ。暴れんな!」
クソ痛かった。
「おら、そっから1時間微動だにするなよ」
「痛いよぉ」
「あたりめーだ。俺も久しぶりにワンパンで治せっていう頭の悪い奴相手にしたぜ。コーヒー飲むか?」
「いただく。いてぇ。あ、砂糖とミルク入れんな!」
「は?誰がそんな苦い汁啜りたがるんだよ」
茶色く濁ったコーヒーが出された。
「ったく、医師ってのは国家資格ん中に話を聞かないですかって設問があるのかよ。あと右に置いてくれよ。左手動かねーんだから」
「それくらい頑張れ」
「お前が動かすな言うたやろ」
体を捩り、どうにかコーヒーを手に取る。そして飲む。甘ぇ。
「んで、どれくらいで治るんだ?」
「まぁ1時間動かさんかったら痛みは取れるぞ。んで半日もすれば治るな」
「んな治療法あるならなんで紹介してくれねーんだよ」
「ああ、国の医者に診てもらったのか?」
「ああ」
「あはは、アイツらは能力者嫌いだからな」
「?どういうことだ?」
「知らねーのか?能力者ってだけであまりいい目はされねーぞ。皆隠してたりするけどな」
「・・・へぇ」
「兄ちゃんの能力はなんなんだい?」
「まだ分かってねーんだよな。バスケットケース」
すると手元に空箱が落ちてきた。朝捨てた?赤色の空箱だ。
「・・・それがアンタの能力?煙草を出せるだけ?」
「や、俺もよくわからん。これ朝無くしたと思ったんだが」
開けてみてもやっぱり空箱だ。うーむ、よくわからん。
「俺の能力はノーダウト。凶器を伴わない怪我を怪我した時の数倍の痛みで直せる」
「それ、強くね?」
「まあ、怪我してから24時間以内限定だし凶器を伴わない怪我、まあ擦り傷とか骨折を無理に治したいってのも少ないから使い道はあまりないぞ」
「まぁ、それでも助かった。ありがとよ」
「礼ならベレッタさんに言いな」
痛すぎて目を閉じる。億千の星は見えてこない。
目を開ける。手癖で目を擦ろうと左腕を動かす。あれ、痛くないや。
「おう、起きたか」
「おはやうごぜえやす」
「どこの方弁だ?ベレッタさん待っとるからはよ帰り」
「ありがとうございました」
手術室を出る。ベレッタは机の上で剣を研いでた。
「ごめん、お待たせ」
「腕は治りました?」
「すごいな。もう痛くもなんともない」
「よかったです。でしたら昼ご飯でも食べましょうか。外食します?それとも私が作りましょうか?」
「まあ、適当な店はいろーぜ。お腹すいたし」
「・・・そうですか。じゃあ、行きましょうか」
薄暗い道から出て、目の前の飯屋に入る。メニューとか看板とか見て思ったが、書いてある言語は日本語だ。しかし、本当に日本語なのだろうか。本当はその国の言葉で書いてあるが、俺の脳みそが勝手に日本語として読み直しているのか。話しているのは日本語のつもりでも、いつの間にか現地語に変わっているのか。胡蝶の夢みたいだな。誇張かもしれんが。
「なに食べます?」
「ベレッタは良くここにくる?」
「いえ、初めてです」
「俺、初めての店ではメニューの先頭と最後を1つづつ買うって決めてる」
「どうしてです?」
「え?考えたくないから」
「それじゃあ楽しみじゃあないじゃないですか」
「いや、店で提供する以上、不味いとは思わないし、知らない味知れるかもしれんし」
「確かに、私もそうしてみます」
数分後、ボトルのワインとクランベリーとかが乗ったパンケーキがそれぞれ届いた。
「・・・」
「なにか言いたいことはあります?」
「いや、初手が季節のデザートから始まるなんて普通ないよ」
「はぁ。まあ食べましょうか」
ボトルワインをグラスに移す。乾杯して飲む。やっぱ美味くねーよ。
「なるほど、ちょっと酸味が強いタイプですね。カバラさんでも飲みやすいかと・・・」
「ごめんなさい、お冷っていただけます?」
店員に水をいただく。ただらしい。嬉しいね。
「なんでワイン頼んだんですか?」
「メニューの最後って確かにドリンク多いしな」
「理由になってません」
パンケーキをナイフで切り、ひと口。ぐぬぬ甘すぎ。胸焼けするかも。小さい頃金平糖鼻に詰めて遊んでたら色々あって手術したからそれ以来甘いの苦手なんよね。
「あれ?カバラレン」
ミストリエスさんだ。当たり前の用に座席を引き、隣に座った。
「ちょっと席ないから相席させてよ」
「・・・えっと、どちら様?」
「あ、初めまして。この馬鹿の命の恩人のミストリエスです」
「初めまして、ベレッタ・ウィンストンと申します」
「え!ウィンストンってあの?」
「先日はありがとうございました」
「ああ、全然いいよ。でも、ちゃんとリードは持ってなよ」
「俺は犬かよ」
「ええ、十分握ります」
「飼い主かよ」
「んで、怪我の調子は?」
「さっきそこで治して貰ったよ。ノーダウトに」
「ああ、あのおっさんね」
「よければ、奢りましょうか?」
「いいよ。人助けにお金取らないし」
俺は空いてないワインボトルを渡した。
「んじゃ、あげる」
「え、やったね」
早速コルクを抜き、ラッパ飲みし始めた。豪胆すぎる。ベレッタを見るとなんとも言えない顔で固まってた。
「さーて、ステーキでも食べようかな」
「今日は非番か?」
「外での自警団ってボランティアだからね。まあ魔獣とかの素材を他の人より高く買って貰えてるけど」
「じゃあ、バイトとかしてるの?」
「うん。普段はお花屋さんでバイト」
「へぇ」
俺は煙草を吸おうと立ち上がった。
「どこに行くんですか?」
「煙草吸いに。ミストリエスさんにこのパンケーキあげる」
「え、ゴチ!」
そとのベンチに腰掛け、ゆったり火を付ける。うむ、腕の痛みはなくなったな。不思議な力だ。本人は強いと思っていないらしいが十全過ぎるほど強力だ。
それにしても、俺の能力は何なんだろうな。煙草の空箱が消えて、またバスケットケースと言ったら出てきた。移動させる能力とかか?
「バスケットケース」
・・・なんにも起きないし。はぁ。残りを捨て、店の戻る。
「ただいま」
「おかー」
「おかえりなさい」
パンケーキはもう無くなってた。ベレッタの方は半分ほど食べてある。
「ミストリエスさんってさ」
「ミストでいいよ」
「・・・リエスって能力をどうやって知ったんだ?」
「なんでそっちなのよ」
「いいだろ別に」
「どんな能力がわかる程度の能力を持った人がいて、教えてくれた」
「どちら様だ?どこにいるんだ?」
「えーっと、この店出て割とすぐ。名前はジャガーノードさん。能力名は童祭」
「ベレッタ、そこ行こ」
「はいはい」
「じゃあ案内するよ」
「頼む」
ベレッタとミストリエスは立ち上がった。
「あれ?行かないの?」
「食べ終わってないだろ」
「あ、ほんとだ」
「いえ、もう行ってしまうのかと」
「食べ終わるまで待つよ」
ベレッタは嬉しそうに座り、また食べだした。まぁ俺にとっちゃ甘すぎるけど、この世界の人々からしたら普通のタダのデザートなのかもな。あ、俺昼飯食えてないや。
「お待たせしました。行きましょうか」
店を出る。そのまま暗い方に進む。
「ミストリエスさんはこの辺りに住んでいるのですか?」
「ん?私?全然。この辺りじゃなくて、グリーンドルフィンストリートの端の花屋さんの3階に住んでるよ」
「ああ、あそこですか」
「そうそう。良かったら来てね」
「家族が経営してるのか?」
「いや、全然」
「へぇ」
「興味無さそうな反応しないでよ」
「いや、無いわけじゃあないけど」
「どれくらいあるのよ。ありよりのありとか言わないよね」
「ありをりのはべりだな」
「なにそれ」
「俺もよく分からん」
「れ、レンさんはそういうところありますから」
「ふーん。こっちだよ」
連れていかれた家はお世辞にも綺麗とは言えなかった。なんつーか生臭いっつーか、嗅いだことないような、あるような不思議な匂い。臭え。ベレッタも少し顔を顰めた。
「ちょっと待っててね」
ミストリエスは玄関をノックする。
「どーもー、ミストリエスだよー、開けてー」
へんじはない。ただのしかばねのようだ。
「あれ?不在かな」
ノブを捻ると、鍵はかかってないみたいだ。
「入ってみる?」
「そうしよっかな。おじゃましまーす」
ミストリエスがまず入り、俺も追随する。中からは生臭い匂いがずっと漂っている。掃除しろよ。
「あれ、前来た時こんなに汚かったっけ」
「普段から汚い訳じゃないんですね」
「うん。綺麗好きって訳じゃあないけど、こんなに汚い訳ないしな」
俺はなんとなくドアを開ける。トイレだ。和式だ。
「なんか、臭くない?」
「それな。なんでやろな」
「・・・この匂いは、腐臭です」
「フシュウ?」
「物が腐った匂いって事だ。おバカちゃん」
「だれがおバカちゃんだ!」
「・・・静かに。血痕らしきものがあります」
「血痕?」
「じゃあハネムーン中かもよ」
「言ってる場合ですか。旅立ってるのはこの世かもしれないんですよ」
「あ、その返し上手い!」
「100点!ブラボー!」
「お願いですから静かにしてください」
ベレッタは短剣を抜いた。それを見たミストリエスもダガーを抜いた。俺はその辺に落ちてた燭台を握る。
「おしゃれな剣だね」
「でしょ。拾いもんなんよ」
「馬鹿言わないでください」
ベレッタがまた剣を渡してくれた。燭台と二刀流にする。俺の名はグレンモルト!
ベレッタか正面のドアを勢いよく開けた。中には誰も居ない。
「腐臭、ねぇ」
「確かに、魔獣の遺体を放置してたらこんな匂いになるよね」
「魔獣のペットが死んだとか?」
「魔獣は如何なる支配を受けない性質を持っています」
「へー」
俺は近くのドアを開ける。トイレではない。書斎かな?本棚あるし。本棚に本は一切ないけど。
「カバラレン!ベレッタさん!」
ミストリエスの慌てた声。そちらに向かうと人が倒れていた。勿論、ミストリエスでもベレッタでもない人だ。
「・・・死んでる?」
「・・・はい。左胸にナイフが突き刺さっています。恐らく食事用のナイフでしょうが、そこまで深々のと突き刺されていたらまず助からないでしょう」
「・・・おえっ、ちょっとごめん、吐いてくる」
「俺着いてく」
「わかりました。もう少し調べておきます」
屋敷から足早に出た。途端にミストリエスはその場で嘔吐した。さっき食べたパンケーキがゲロになった。余計に甘いもん嫌いになりそうだ。
「おえっ、げほっ、ごめん」
「水買って来ようか?」
「げほっ、いい。背中さすって」
俺は頼まれた通りにする。ミストリエスは再び同じ場所に吐いた。
「はぁ、はぁ、気持ち悪い」
「そりゃ遺体見たらな」
ミストリエスは少し落ち着いたみたいで、フラフラしながらも嘔吐した場所から少し離れた場所に座った。
「ふぅ・・・ごめん、水買ってきて貰っていいかな」
「あいよ」
目の前にあった古びた家をノックする。
「はい」
「すまないけど、水を少しくれないか?」
「なんで?」
「いや、同行人が嘔吐して」
「断る」
ドアを閉められた。ひでーな。傷ついちゃう。仕方ないからそのお隣の家をノックする。留守の様だ。仕方ない、少し歩いて店まで行くか。とりあえず、死体のあった部屋に戻る。
「ベレッタ」
「はい」
「ミストリエスがゲロった。隣にいてやって。俺水買ってくる」
「わかりました」
さっきパンケーキを食べた店の目の前にあった店で竹筒に入った水を買う。飲料用だよなこれ。現代っ子の俺からしたら未開封のペットボトルじゃあないと信用しないからな。
「はい」
「ありがと」
ミストリエスはその水でうがいした後、ゆっくりの飲んだ。
「落ち着きました?」
「うん、ありがとね」
「どうするんだ?遺体」
「ひとまず、葬儀屋を呼び焼いて貰います」
「え、身元の確認とかは?」
「葬儀屋がします」
「・・・あの人が、ジャガーノードさん」
「へえ」
「別に、恨まれるような人じゃなかったと思うってたんだけど」
「他殺?」
「ええ、恐らくは。自殺だとしたらもう少し楽な方法で死ぬはずですし」
かもな。練炭とかどうだ?おすすめだべ。
「したら、どうする?」
「ごめん、私はもう帰るよ。体調悪くなっちゃったし」
「ああ。送ろうか?」
「大丈夫。結構近いし」
ミストリエスはゆっくりとした足取りで帰って行った。
「どうする?屋敷戻る?」
「そうしましょうか」
歩き出す。
「この街じゃあ殺人が割とあるのか?」
「この貧民街では珍しくないです」
「犯人は?」
「・・・レンさんは能力者についてどう思いますか?」
「え?来たばっかで能力もそれほど知らないし、そういうものなのかって受け入れたよ」
「それは、貴方が能力を持っているからですか?それても、貴方の暮らしていた世界では能力を持ってる人がマジョリティだったんですか?」
「なんの話?」
「じゃあ、ノーダウトで治療して貰っている時、怖くなかったですか?」
「いや?別に」
「私のように能力がない人は、能力者を怖がります。私だったら、レンさんと同じ怪我したとして、立場がなかったら、ノーダウトを頼りませんでした」
「・・・」
「要は、能力を持っているだけで少し、いえ、人として下に見る人は少なくないです」
「じゃあ、お茶を飲んだら能力が発現するんだろ?なんで飲むんだ?」
「それが成人の儀式だからです」
「断っても成人自体はできるだろ」
「あと、貴方が想像しているよりこの国は安全ではありません」
「?」
「今は魔獣と少し小競り合いをしていますが、いつ、ゴーレムやドラゴン、ワイバーンが襲撃してくるかわかりませんし、隣のボヘミアン帝国が襲ってくる可能性もあります。だからこの国も武力を持たない訳にはいきません。だからこそ、戦える能力者は欲しいからお茶を飲ませるんです」
「・・・へぇ」
日本じゃあ赤紙は名誉って感じだったのに、こっちじゃあ能力を発現しないのを願って飲むのか。タイの徴兵もそんな感じだったよな。
「それで、質問の答えにはなってないぞ」
「そうですね。言葉を選ばないならば、能力者が殺された。じゃあ能力を使って殺されないように抵抗しなかった方が悪いよね。むしろ、殺してくれて、私たちの生活に安寧をくれてありがとう。と考える人も少なくないです」
「つまり、犯人探しをしないってことか?」
ベレッタは頷いた。やってられなくなって煙草に火をつけた。
屋敷に戻る。俺は真っ直ぐ喫煙所に向かった。なぜかまたアレグロがいた。
「やあ」
「こんにちは」
「寝るんじゃなかったのかい?」
「カンタービレが私の部屋を掃除すると言い出して起こされました」
「可哀想に」
「はい、私は可哀想で可愛いです」
「はいはい」
俺は煙草の箱を持った状態でバスケットケースと呟いてみる。何も起きない。
「カバラさん」
「はい」
「能力名はバスケットケースですか?」
「多分ね」
「どんな能力ですか?」
「いや、検証中」
「そうですか」
「どうもどんな能力かわかんないんだよね」
「そうですか」
今度はベンチに煙草を置き、バスケットケースと呟いてみる。何も起きない。やっぱ俺能力ないのかも。
「カバラさん」
「なんや」
「少し、落ち込んでいますか?」
「ははっ、かもな」
「そうですか」
「能力でわかったのか?」
「私の能力はそんなに便利じゃあないです」
「どんな能力なんだ?」
「・・・私はカバラさんを信用してます」
「へぇ」
「だから、教えます。他言無用でお願いします」
「ああ」
「私のアースチャイルドの能力は、半径20メートルの内側にいる人の数と向きを把握できます」
「・・・」
「例えば、今、キッチンに誰かが鍋がある方向を向いています。恐らくベレッタでしょう。他に、人が1人私の部屋のドアの近くにいます。恐らくカンタービレでしょう」
「誰かはわからないのか?」
「はい。どこにいて、どっちを向いているかしかわかりません」
「十分便利だろ」
「いえ、20人以上いると酔います。吐きます」
「へぇ」
「カバラさんの能力は?」
「まだわからない。物を消したり出したり出来るかもしれない」
「そうですか」
アレグロは立ち上がり、俺の隣に座った。
「カバラさん」
「なんだ?」
「渡しておきます」
渡されたのは革のホルスターみたいなものだ。
「なにこれ」
「それと、これを」
・・・あの、日本じゃあ所持を禁じられてる危ない武器渡されたんだけど。
「工房の技術の結晶です。自衛用に常に持っていてください」
見たことない形状のピストルだ。シリンダーもなければマガジンも見当たらない。
「こっちが弾丸です」
木箱に入った弾を渡された。
「えぇ」
「このクリップにこっち向きで差し込んだあと、ピストルのここに流し込むように装弾してください」
言われた通りに装弾する。あ、レッドナインってこんな感じのピストルだったよな。俺ブラックテイル大好きだったからあんまり使ったことなかったんだよね。
「後は引き金を引くだけです。私に向けないでくださいね」
俺は見真似で構え、誰も居ないのを確認してから大きめの木に発砲した。轟音と共に腕が飛んでいくかってくらいの衝撃。
「撃つなら言ってください」
「悪かった」
まじまじと銃を眺める。握るグリップの部分にはなんのタクティカルアドバンテージにもならなそうなエンブレムが彫ってある。ト音記号みたいなマークだ。やっぱり家紋がこれなのかもな。
「このピストルの名前は?」
「工房試作品、マーク3です」
「もうちょっとカッコイイ名前ないの?グロックとかブローニングハイパワーとか」
「いえ、マーク3という名前はカッコイイです」
「あ、アレグロさんが名付けたの?」
「いや、適当に言いました」
「この野郎」
「名前なら自分で付ければいいじゃないですか」
「そうだな。じゃあこのピストルの名前は21GUNsだ」
「なんですかその名前」
「さあね」
「私ならそのピストルの名前はベレッタにします」
「色々怒られそうだから駄目」
「そうですか」
「じゃあ、ヴィルヘルムにするよ」
「わかりました。そのピストルの名前はヴィルヘルムですね。しまうなら排莢してください」
「あいよ」
チャンバーを引く。弾ではなく薬莢が飛び出てきた。
「あれ?」
「どうかしましたか?」
「これってオートマじゃないの?」
「どういうことですか?」
「引き金を引いたら発射と同時に排莢もしてくれないの?」
「そんな便利な仕組みはないです。発砲したらチャンバーを引いて排莢してください」
「ふーん」
装弾した分の9回チャンバーを引き、弾を全て抜く。一応薬室も見て弾が残ってないのも確認した。
「この世界にはピストルが沢山流通しているのか?」
「いえ、少し前に開発されたばかりで、実用化が成功したのが今日です」
「えっ」
「この世界に存在している銃器は、これ以外には4つしかありません」
「えっ」
「この弾はひとつひとつ手作りです。大量生産には時間がかかりそうです」
「えっ」
「しかし、クロスボウなどより強力です。貴方に持っていてほしいです」
「あの、いくらくらいした?」
「私の給料の3ヶ月分です」
「えっ」
「私は貴方に安全に生きて欲しいです。だから、持っていてください」
「・・・ベレッタは知ってるの?」
「いや、無断です」
「君はアホだよ。間違いなく」
「私は賢いです」
「そうだよね。イノセンスさん」
「やめてください。あればミスです」
アレグロは立ち上がった。
「私は貴方を気に入っているのです。長生きできないと言うなら、私が殺します」
「えっ」
行ってしまった。俺はホルスターにピストルをしまう。少し笑えてきた。
「大馬鹿だよ」
馬鹿ではないです。とどこからか聞こえた気がした。




