才能の鱗片
さっきおいしくご飯を食べた部屋の椅子に半ば強制的に座らされた。
「・・・まず、聞きたいことがあります」
「はい」
「なぜ、屋敷に戻らなかったんですか?」
「屋敷に戻る前に軽く散歩したかったんです」
「軽く散歩だとしたら、なんで門を越えるって発想に至るんですか?そもそもどうやって門を越えたんですか?」
「・・・衛兵にナイフを見せてみたら紋章見てあっさり通されて、急にやっぱいいって言うのもおかしな話だって考えて出てみた」
「・・・っ、衛兵については後程指導しに行きます。カバラさん」
「はい」
「街の外は危ないって陛下がおっしゃったのを聞いていませんでしか?」
「いや、聞いていない気がするけど」
「無駄口を慎んでください」
「・・・」
「あなたに戦闘経験はありますか?」
「全く。銭湯は結構好きだけど」
「・・・銭湯なら傷が治ったら案内して差し上げます。戦闘経験なしにどうして自ら危険に近づくんですか?」
「そんな街を出てすぐに危険が危ないとは思わなかった」
「・・・危険が重なっています。言葉としても、無知で非力なのに危機察知能力も乏しいとすれば、ニッポンという国は随分平和なんですね」
「まぁ、そうだね」
「・・・何に腕をやられたんですか?」
「バウマッド」
「・・・どうして名称を知っているんですか?」
「いや、お医者さんが言ってた」
「・・・歯形だけでバウマッドかどうか判断はできません。誰かに助けて貰いましたね」
「はい」
「どちら様に助けていただいたのですか?」
「えっと、ミストリエスさんに」
「・・・ああ、草原の自警団の快活なあの女性ですよね。ダガー持っていらっしゃる」
「あ、そうそう」
「彼女には後々お礼をしに行きます。カバラさん」
「はい」
「2度と勝手な行動をしないでください」
「・・・わかった」
「・・・それと、すみませんでした」
「なにが?」
「名に懸けて守ると言ったのに、守れずに申し訳ございません」
「ま、待て俺の勝手な行動で勝手な怪我なんだから責任を負わないでくれ」
「いえ、護衛対象が石に躓いても、店で買ったピザが熱くて口を火傷したとしても、私の落ち度になります」
「・・・ベレッタ」
「はっ、はい」
「この怪我は授業料だから気にしないで。心配かけさせてごめんなさい」
「・・・わかりました。夕食の前に傷を見せてください」
「この傷見て食欲失せない?」
「いえ、カバラさんは大丈夫ですか?」
「俺もエロサイトからグロ画像に飛ばされるトラップに引っ掛かっても何食わぬ顔でエロサイトに戻れるから大丈夫」
「・・・よくわかりませんが低俗な例えだということだけはきちんと伝わりました」
「ならなによりだ」
「褒めておりません」
その後、包帯を替えられたり薬を飲まされたりした。母親かおめーは。夜中ながら痛くて眠れない。泣き叫ぶほどは痛くないけど、骨折並に痛い。喫煙所のベンチに腰掛け、また煙草を吸う。
「こんばんは」
「ええ、こんばんは」
ダカーポさんじゃたないメイドさんだ。えっと名前は・・・
「えっと、アレグロさんだよね」
「ええ」
「煙草いる?」
「結構です」
「じゃあなんでここにいるの?」
「ここは静かですし、1番星が綺麗に見えるんですよ」
釣られて上を見る。星は確かによく見える。別にそれを美しいと思う価値観は持っていないけど。
「カバラさん」
「はい」
「腕は痛みますか?」
「かなり」
「では、いりますか?」
葉巻を渡された。
「吸わないんじゃあないの?」
「煙草ではありません。麻薬です」
「・・・麻薬?」
「ええ」
「いや、結構だ」
「そうですか。では失礼して」
アレグロさんは麻薬に火をつけて吸い出した。麻薬なんて初めて見たよ。火付けるんだな。焦がした砂糖に似た匂いが漂う。
「アレグロさんは能力者?」
「いえ。私は無能力です」
「へぇ」
「カバラさん」
「はい」
「街の東の方に傷を癒せる私の友人がいます」
「え」
「明日、向かって見てはいかがでしょうか」
「ありがとう。行ってみるよ」
「カバラさん」
「はい」
「ベレッタが近づいてきてます」
振り向くと寝巻きっぽい服に着替えたベレッタがいた。
「まだ寝ませんか?もしかして寝具とかが気に入りませんか?」
「いや、借りた身で文句は言わないよ。痛くて眠れない」
「では、ぬいぐるみをお貸ししましょうか?」
「・・・や、大丈夫」
「では、絵本を読みましょうか?」
「・・・」
「ベレッタ」
「はい」
聞いてるのか聞いてないのかわからなかったアレグロさんが口を開いた。
「18になってぬいぐるみがないと寝れないのはあなたくらいです。絵本も同様です」
「え」
「ち、違います。ぬいぐるみは好きなだけです。絵本は・・・その、本を読んだら眠くなりますし・・・」
「カバラさん」
「はい」
「星が綺麗ですね」
「そうだな」
「つ、月の方が綺麗です!」
「そうかもね」
なぜかベレッタも張り合ってきた。夜中なのに元気だな。
「カバラさん」
「はい」
「なぜ煙草を吸いますか?」
「んー、元カノと別れてから先輩に唆されてね」
「カバラさん」
「はい」
「煙草は体に悪いです」
「麻薬吸う人に言われてもねぇ」
「カバラさん」
「はい」
「麻薬ではありません」
「あれ、麻薬って言わなかった?」
「違います。医療用の煙草です。アレグロ、適当なことを言ってはいけません」
「ベレッタ」
「はい」
「星が綺麗です」
「それ言えばいいって訳じゃあないです」
満足したように再び空を見上げてしまった。マイペースすぎる。
「ベレッタさん」
「呼び捨て」
「ベレッタ」
「はい」
「星が綺麗だな」
「・・・もう知りません。早く寝てください」
ぷんぷんしながら帰ってしまった。
「カバラさん」
「はい」
「あまりからかわないであげてください」
「よく言うよ」
俺はまた煙草に火を付けた。
「カバラさん」
「はい」
「あそこにひとりぼっちで佇む星が大七星です」
「へぇ」
佇むって割には煌々と光ってらっしゃるがな。
「その星から真下にある星雲が烈空座です」
「へぇ」
レックウザ・・・いや、何も言うまい。
「その斜め左下が印降縁座です」
何も言うまい。なーにがスペイン風邪だ。
「カバラさん」
「はい」
「明日の夜は雨です」
「へぇ」
「今のうちに星を目に焼きつけることをおすすめします」
「考えとくよ」
「カバラさん」
「はい」
「私は今、とても居心地がいいです」
「・・・そうかい」
「カバラさん」
「なんだい?」
「アースチャイルドです」
「・・・それは、あなたの能力ですか?」
「はい」
「さっき無能力って」
「さっきのは嘘です」
「えぇ・・・」
「カバラさん」
「はい」
「ベレッタが窓からこっちを見ています。屋敷に戻った方がいいです」
「・・・そうするよ。おやすみなさい」
「ええ」
吸殻を捨てる。
「カバラさん」
「はい」
「少し待っててください」
「え、はい」
「わ!」
後ろから驚かされた。
「・・・びっくりした」
「1本ちょうだいよ」
ダカーポさんだ。
「あれ?口調」
「あはは、休憩休憩」
煙草の箱を渡す。2本抜き、片方を渡してきた。
「ん」
咥え煙草の先を向けてきた。付けてあげる。
「意外と驚かないね」
「驚いたよ」
「嘘つけ」
あははとダカーポさんは笑った。
「ダカーポ」
「ん?」
「星と月、どっちが好き?」
「え?月かな」
「星が綺麗です」
「?そうだね」
ダカーポはまた空を見始めた。
「えっと、あれが茣蓙だから・・・あれが腐庵座だよね」
何も言うまい。だれだ星にクソみたいな名前を付けたんは。レックウザもファンザもこっちの世界にあるのか?
「レックウザって以外にあります?」
「あるの?」
「私は知りません」
舐めやがって。
「カバラ君っていくつ?」
「ハタチ」
「え、若いね」
「ダカーポさんは?」
「いくつに見える?」
「んー、タメかなーって思ってたけど」
「あはは、嬉しいね。私今26なんだよ」
「そうなんですか」
「アレグロは15歳」
「15!?」
確かにそんなに背は高くないけど、ゴリゴリ歳下だった。
「カバラさん」
「なんや」
「年齢で舐めないでくださいね」
「いやいや」
ふっと立ち上がった。
「どうしたの?」
「気にしないでください。ダカーポ」
「ん。何人?」
「ひとりぼっちです」
「ちょっと行ってきますね。アレグロ」
「任せて」
ダカーポさんはそのまま煙草を捨て、行ってしまった。
「なんなんだ?ベレッタさんに呼ばれたとか?」
「だといいんですが」
「?」
「カバラさん」
「はい」
「屋敷に戻ってください」
「わかった」
言われるままに戻る。
「・・・随分長かったですね」
「せやね」
「せやね、ではなく。怪我人なんですから体に労わってください」
「いやぁ、割と笑えないくらい痛いんだよね」
「そうには見えません。カバラさんは常々飄々としてるんですか?」
「飄々?してないよ。これが素だよ」
「・・・まぁ、深堀りはしません。私はもう寝ます」
「ああ、おやすみ。絵本読みましょうか?」
「う、うるさいです」
自室として貸された部屋に戻る。初対面なのによく部屋貸してくれるよな。ノブリスオフコースだとか何とかだっけ。部屋には勉強机的なデスクと本棚、大きめのベッド。棚がいくつか。10人くらい部屋にいても多分狭くないだろうってくらい広い。ホントに客間か?これ。デスクに座る。左腕を机に置き、包帯を解く。圧迫感から開放されたが、外気に晒されて痛みは然程変わらない。クソいてぇ。処方された塗り薬を塗り込む。痛い!どうにかならんのかこれ。どうにか塗り終わり、包帯を・・・包帯ないじゃん。また同じ包帯巻いていいのか?でも血で割と汚いしなぁ。はぁ。ベレッタさんに貰うか。立ちたくねー。歩くのも中々しんどいからなぁ。はぁ。でも感染症とかで腕なくなるんは困るし。はぁ。覚悟しねーと。
立ち上がり、腕を動かさないようにして部屋を出る。一旦、リビングに行ってみる。
「あら、カバラ君」
「ども」
「包帯は?あ、今替えてるのか」
「あります?包帯」
「あるよ。巻いたげるからこっち来な」
腕を差し出す。手慣れたように包帯を巻いてくれる。
「カバラ君はさ、元カノと別れてから煙草吸いだしたんだよね」
「はい」
「彼女できたら煙草やめるの?」
「まあ無理でしょうね」
「そうなんだ。なんで紙巻なの?」
「んー、故郷じゃあ紙巻が主流でしたから」
「へぇー、変わったとこだね」
「いてっ」
「あ、ごめん。カバラ君も元貴族なの?」
「え、違うけど」
「あれ?でもレンってファミリーネームあるし」
「ん?ファミリーネームは風祓ですよ」
「え、どういうこと?」
「やから風祓が苗字で蓮が名前です」
「あ、そうなの?私ずっとファミリーネームで呼んでたんだ」
「実はね」
「なんで指摘しないの?」
「地元じゃあ苗字呼びは割と普通にあるんです」
「変わったとこだね。はい、お待ちどうさま」
包帯は綺麗に巻き直された。
「助かりました」
「はいはい。夜更かしせず寝るんだよ」
部屋に戻る。風呂入りてーな。日本人やから風呂前に寝るってなるとむずむずする。まぁ、怪我人だからわがまま言えん。寝るか。
目を覚ました。窓の外はまだまだ薄暗い。てかこの世界にも時計ってあるのかな。柱時計とかも見てないし、日付も分からん。なんなら渡された紙幣だってどれくらいの価値があるのかわからず使ってる。俺はこの世界を知らなさすぎる。体を起こす。
「っ・・・いてぇ」
忘れてた。そうなんだよなぁ。俺怪我人なんだよなぁ。昨日より痛みが増してる気がする。なんつーか、昨日の痛みは包帯の圧迫感だとかで外側っぽい痛みだったけど、包帯に慣れたらこんどは内側の痛みが襲ってきてる。とりあえず煙草吸お。枕元に置いておいた煙草を咥え・・・あ、俺んちじゃねーわ。箱に戻し、喫煙所に向かう。俺はずっとソフトのラッキーストライク吸ってたからボックスだとちょっと落ち着かない。多分、ソフトって概念がないのかもな。この世界じゃあ紙巻は女性が吸うみたいな風潮になってるし。
「あれ?寝てないの?」
「あ、ダカーポさん」
「なに?やっぱ痛いの?」
「いや、寝ましたよ」
「・・・いや、全然時間経ってないよ。まだ陽が昇ってないし」
「時計ってあります?」
「時計?何それ」
やっぱ時計みたいな正確な時間はこっちの世界にはないのかも。
「変なこと聞いていいですか?」
「うん」
「誰かと待ち合わせするってなったら、どうやって時刻をしていするんですか?」
「なぁに?デートでも企んでるの?」
「いやいや、ただの疑問です」
「うーん、ベイカーストリートの真ん中に覗き穴があるオブジェクトがあるの。そこから覗いて陽の光が何度くらいのタイミングで集合って感じだね」
へぇ。日時計みたいな感じなのか。え、でも時期によって変わるくね?
「この国って四季ってあります?」
「季節は繁殖期、寒冷期、中間期の3つだね」
「わーおアバウト」
「ちなみに今は繁殖期だね」
「なるほど」
「さて、私はそろそろ寝るよ」
「不健康」
「違うわ。シフト交代だよ」
「あ、まだメイドさんいるんですか?」
「うん。全員で5人だね。メイド長は今不在だけど」
「今日来る2人はどんな人?」
「1人目がカンタービレ。この子は無能力の11歳、もう1人がアレグレット。この子は能力者。気になったら聞いてみてね。年齢は22歳」
「わっか」
「あはは。あ、煙草行く?」
「はい」
「いこいこ。今金欠でさ」
「えぇ」
火を付ける。ダカーポさんも自前のライターで火を付けた。
「ふぅ。レン君ってベレッタのことをどう思う?」
「んー、面倒見がいいと思いますよ。初対面なのに困ってる俺に部屋とか金とか貸してくれましたし」
「他には?」
「他には?・・・ん-、呼び捨てに妙にこだわりますね。立場に関係のない友達が欲しいんですかね」
「・・・レン君って鈍い?」
「鈍い?いや、言われたことなかったです」
「なるほど。なんで元カノと別れたの?」
「え?就職するし別れよって言われて了承した感じです」
「・・・あっさり受け入れた?」
「はい」
「え、嫌じゃなかったの?」
「まぁ嫌でしたけど、その人が決めたなら異議を唱えようとは思いませんでしたね」
元カノの話なんてむず痒くなってくるな。灰を落とす。ダカーポさんは呆れたと言わんばかりに煙を吐き出した。
「何年くらい付き合ってたの?」
「んー、4年半です」
「え」
「はい。13ん時に付き合いだして17で別れました」
「・・・引き留めて欲しかったのかもよ」
「まさか」
「・・・はぁ。だってもう結婚できるんでしょ?そんなときにそんな話してまさかその人も了承されるとは思わなかったでしょうね」
「いや、地元だと結婚は18からです」
「あ、そうなんだ。だとしてもだけどね」
「どういうことです?」
「だから鈍いって言われるんだよ」
「言われたことなかったですけど」
「あはは。じゃ、私は帰るよ」
「あ、ここに住んでるわけじゃあないんですね」
「近くにメイド用の宿舎があるの。毎日ずっと一緒に暮らすと疲れちゃうからベレッタの兄さんが建ててくれたの」
「あ、そうなんですね」
「まぁ、アレグロは割とこっちで生活してるよ。人通り少ないし」
「へぇ」
「じゃ、おやすみ。勝手に家でちゃダメだからね」
「はいはい。おやすみなさい」
手をひらひらさせながら行ってしまった。結局、何が聞きたかったんだ?まぁいいや。まだ薄暗いと思っていたがいつのまにか明るくなっていた。もしかしたら1日がこっちの方が短いのかもな。わからんけど。自室に戻る。自室じゃあない気もするけど。着替えたいけどタンスの中は空っぽ・・・なんか酒瓶が2つある。ウィスキーか?これ。わからん。まぁ飲む気はない。
「カバラさん、起きていますか?」
「ああ、おはよう」
「おはようございます。朝食は食べます?」
「ん-、正直いらないかな」
「・・・あなたの故郷では朝食を食べないのが普通ですか?」
「いや、朝食は勿論推奨されとる」
「じゃあ食べましょう」
「はぁ」
「広間まで来てください。用意はできてます」
・・・食べますって聞いた割にだな。まぁ食欲はないけど食べれるだけ食べよう。リビングにはびっくりする量の朝食が並んでた。
「おはよ」
「ええ、おはようございます。準備はできております。食べましょう」
「これも自分で作ったの?」
「ええ。えっと・・・きゃ、客人への食事ですから私自ら振舞うのは当然と言えます」
「そう。ありがとね」
んなこと言われたら残さず食べねーとな。スープに口を付ける。
「ど、どうです?」
「おいしいね」
「そ、そうですか。カバラさんはどんな味付けがお好みですか?」
「んーちょっと苦い味が好き」
「に、苦い味?なんでそんなものを好むんですか?」
「え?好きだから」
「理解ができません。焦げたパンがお好きなんですか?」
「うん。結構好き」
「えぇ・・・じゃ、じゃあ辛い食べ物もお好きですか?」
「よくわかったね」
「・・・全く理解できません。確かに寒い地方では辛い食べ物が好まれるとは聞きますけど」
・・・だってよ、このスープはコンポタより甘いぜ。パンにもバターと砂糖かかってるし。甘味料は安価なんかな。
「今日のご予定は?」
「この世界に来たばっかだぜ。用事があるように見える?」
「確かに」
「やからちょっと外に散歩
「ダメに決まっています」
「言い切ってないぜ」
「ダメなものはダメです。せめて腕の傷が完治してなおかつ私がいる場合は許可します」
「なんでベレッタさんがいるといいんだ?」
「それは・・・その、私は戦い慣れていますので」
「ミストリエスさんじゃあダメか?」
「ダメです」
「・・・そうかい」
あ、そういえば
「傷で思い出したんだけどさ、町の東に怪我の治療ができる人がいるって聞いたんだけどさ」
「ああ・・・本当に行きたいんですか?」
「というと?」
「街の東はいわば、貧民街です。治安もお世辞にも良いとは言えません」
「ん?別にベレッタが名前にかけて守ってくれるんだろ?」
「・・・っ、わかりました」
ご飯を食べ終わった。血糖値スパイクからかだいぶ眠たい。喫煙所のベンチに腰掛け、一服。買った赤い方の箱はもう空っぽだ。ベレッタは着替えてくるとか言ってどこかに行ってしまった。俺も着替えたい。なんならシャワー浴びたい。早く気が治ってくれよ。
「あれ?アレグロさん」
「どうも」
アレグロさんがやってきた。
「カバラさん」
「なに?」
「今日の体調は?」
「腕がすこぶる痛くて眠たい」
「健康そうでなによりです」
「話聞いてねーな」
ベンチの隣に座られた。
「カバラさん」
「はい」
「私も眠たいです」
「眠らないのか?」
「寝る前に少しお喋りをしようと」
「なるほど」
と言ったものの話題ねぇ。
「アレグロさんは能力を持ってるんだよね」
「はい」
「どうやって気が付いた?」
「・・・私の能力の詳細は言いませんが、私は能力を授かった時点で常に発動し続けています。だから気が付くも何もです」
「そんなタイプもいるのか」
「カバラさんの能力は?」
「や、俺もよくわかってねーんだよね」
空箱をお手玉する。片手だとジャグリングになるのか?まぁいいや。バスケットケース、ねぇ。
「・・・あれ?」
投げてた空箱が消えた。アレグロさんも持っているわけではない。
「あれ?俺の空箱は?」
「さぁ。見ていません」
「えぇ・・・」
どこ行ったんだよ。はぁ。見当たらねーな。まぁゴミだし別に無くても困んないけど。
「カバラさん」
「なに?」
「カバラさんは本名ですか?」
「ああ。変わってるだろ?風祓蓮って名前」
「アレグロは本名じゃあありません」
「え、そうなの?」
「はい。メイドですから名前は別です」
「じゃあ本名はなに?」
って言うわけないか。
「内緒です。けっしてイノセンスではありません」
「え」
「はい。私の名前はイノセンスではありません」
・・・どっちだ?
「アレグロさん」
「はい」
「・・・えっと、能力について教えて」
「言えません」
「えっとじゃあ、名前について教えて」
「イノセンスではありません」
「・・・」
「・・・」
「イノセンス」
「はい・・・あ」
「・・・」
「・・・」
「・・・アホって言われたりしない?」
「いえ、言われたことは100回より少ないはずです」
「結構多いね」
「いえ、私はアホではないです」
「ホントに?」
「はい」
「イノセンスさんは賢いの?」
「はい。私は賢いです」
「そうなんだね。イノセンスさん」
「はい。私は賢いのです」
「アレグロさんはなんで名前を隠すの?」
「ベレッタの命令です」
「なんでか知ってる?」
「防犯上の理由でしょうか」
「へぇ。名前を教えるのは無防備なの?」
「あなたのようにあっさりフルネームを教える人は少ないです。話を聞きましたがミストリエスさんもファミリーネームは語っていないようにフルネームは普通名乗りません」
「イノセンスさんのフルネームは?」
「当ててみます?」
「・・・イノセンスが名前なのはもう誤魔化さないのね」
「え?・・・あ」
「やっぱアホじゃん」
「いえ、アホじゃないです」
「アレグロさんの苗字は?」
「当ててみてくださいよ」
「無理やろ。ヒント」
「じゃあ質問には答えますよ」
「えっと、ベレッタの親戚?」
「まぁ、遠縁ではありますが親戚ではあります」
んー、ベレッタ・ウィンストンだよなあ。国王がメビウスで確かオチキスさんの苗字がパーラメント。
「マルボーロとか?」
「違います」
「そもそも苗字に言葉の意味があるの?」
「私はそこまで詳しくは知りません」
「アホじゃん」
「アホじゃないです」
「キャスターとか?」
「っ・・・ち、違います」
「え、イノセンス・キャスター?」
「・・・どうやってわかったんですか?おかしいですよ」
「まぁ、そうだね。世界の創造主に文句を言いなよ」
「何の話ですか」
煙草の煙を吐き出す。あれ?マールボロだっけ。マルボーロだっけ。普段マルボロ呼びだしわかんねーや。
「お、お待たせしました」
ベレッタが着替えてやって来た。なんつーか、パリッとした服だが、腰に3本剣を携えてる。左腕には小ぶりな楯までついてる。
「うん。じゃあ行こうか」
「カバラさん」
「はい」
「またお話しましょう」
「もちろん」
屋敷を出て、小道に入る。
「そーいやさ、俺の煙草の空箱知らない?」
「なんの話ですか?ゴミならポイ捨てしないできちんとゴミ箱に入れてください」
「いやぁ、投げたら消えたんだよね」
「風に飛ばされたのでしょう。アレグロに探させて捨てさせます」
「かわいそーに」
「あなたが捨てたからでしょうに」
「いやぁ、ほんとにどこいったんやろ」
ため息をつかれた。
「カバラさんは元の世界では何をしていたんですか?」
「学生だよ」
「学生?」
「うん。勉強してた」
「へえ、そうは見えませんが」
「や、俺頭いいんだぜ」
「頭がいい人は街の外にふらっと出ていきません」
「ほなアホか」
「はい。アホです」
「いや、アレグロさんの方がアホでしょ。普通に名前漏らしてたし」
「え、本名をですか?」
「ああ、イノセンス・キャスターさんだろ?」
「・・・あの子ったら。くれぐれも内密にお願いします」
「別に構わないけど。なんで隠すの?」
「昔、本名を知った相手に接触するだけで即死させられる能力を持った忌み子がいまして、それの対策としてフルネームを隠すようになったのです。かくいう私もベレッタ・ウィンストンの間にあるミドルネームを隠しています」
「当ててみていい?」
「当たるはずがないでしょうし、万一当たったら本当にマズいので許可しません」
「けっ」
多方キャスターかな。言うなって言うなら言わんとこ。
「カバラさんの地元では名前は普通に言うものですか?」
「そうだね。隠す理由ないし」
「どう呼ばれていたんですか?」
「普通に風祓だったり仲良かったら蓮って呼ぶ人もいたし」
「仲がよかったらファミリーネームで呼ぶんですか?不思議な国ですね」
「ん?ファミリーネームって、ベレッタ的にはウィンストンだよね?」
「はい」
「あ、じゃあさベレッタは風祓がファーストネームと思ってたのか」
「どういうことですか?」
「俺の地元は逆でファミリーネームが先でファーストネームが後なんよ」
「え、じゃかレンって名前がファーストネームなんですか?」
「そうだよ」
「なんでもっと早く言わないんですか?」
「や、風祓って呼ばれること多かったし」
「ん、んんっ。じゃあ改めて蓮さん」
「なに?」
「その、申し上げにくいのですが股間のファスナーが開いてます」
「もっと早く言え!」




