初めまして異世界
ふと死のうと思った。理由はいくつもある。必須単位をかなりの数落としたとか、元カノが結婚しただとか、幼馴染みが自殺しただとか。俺は手に持ってた明日食べる用のカップ麺を戻し、財布に入っていたお金で買えるだけの男梅サワーとラッキーストライクを買った。
家に戻り、バイト先にやめると連絡。ついでに大学にも退学を申請。遺書も書こうか迷ったけど、別に遺産も借金もないしいいや。誰も入らなくなった実家の物置で首吊り用の縄だとかを探していたらちょうどいいものを見つけた。キャンプに使ってた備長炭だ。ライターオイルを炭に全部垂らし、火をつける。中々燃えない。まぁ、気長に待てばいいさ。予定はさっき全部なくなったわけだし。男梅サワーを流し込む。
目が覚めた。随分寝心地が悪いな。俺は横向きで寝転んでた体を起こす。きょろきょろと周りを見渡すと結構な人数が俺を囲むように立っている。
「うむ、目覚めたか」
「・・・1つ聞いていいですか?」
「勿論」
「ここは死後の世界ですか?それとも病院?」
「・・・ここに来るものは決まってそれを聞くな。違う。服を持ってきてやれ」
・・・全裸だった。白い布ぐらい被せてくれよ。顔じゃあなくて股間に。
女の人に案内され、別室に通された。
「これが服です。サイズは合わなかったらお声がけください」
「あの、パンツ」
「?あっ、下着ですよね。ごめんなさい。こちらでよかったですか」
渡されたボクサーパンツに足を通し、服を着る。うーん、マジでただの布の服だな。ズボンもジーパン。女の人は着替えてる間ずっと俺を見てた。じっと見られると照れちゃう。
「あの、着替え終わりました」
「・・・」
「あの?」
「え?あ、ああ、わかりました。えっと、じゃあ付いてきてください」
さっき俺が寝てた部屋に戻ってきた。
「陛下、只今戻りました」
え、陛下って言った?このおじさん、王様なの?
「ああ。少年、名前は?」
「風祓蓮です」
「ふむ。カバラ・レン、君は元々どこに住んでいたんだ?」
「住んでいた?普通に横浜です」
「ヨコハマ?」
「はい」
「あ、出身は愛知です」
「アイチ?」
「・・・日本ですよ」
「ニッポン・・・ふむ。例のアレじゃな」
「?」
「まぁ、説明は後でしよう。ひとまず、付いてきてくれ」
仰せのままについていく。
通されたのはわかりやすく王様の部屋って場所だ。裁判官が使うような木のデスクの上には大量の紙と封筒、羽ペンが置いてある。
「座りたまえ」
「はい」
指さされたソファに腰掛ける。わーお、革製だぁ。隣にさっき俺に服を渡してきた女の人が座った。王様は俺の正面に座り、そのお隣には痩身の・・・男性?どっちだろ。まぁいい、とにかく人が座った。
「ベレッタとオチキス以外は下がりなさい」
部屋に4人。麻雀でもするのかい?生憎点数計算は苦手なんだよね。
「では、改めて初めまして。私がこのサラセニア王国の国王のガイアール・メビウスだ」
「・・・初めまして、風祓蓮です」
「私はベレッタです。ベレッタ・ウィンストンです。よろしくお願いします」
隣に座った人はベレッタさんらしい。
「私がオチキス・パーラメント。呼び捨てで大丈夫だよ」
「わっ、私も呼び捨てで呼んでください」
斜め前に座ってる人がオチキスさんか。おっけぃ、覚えた。
「さて、カバラ。なぜここにいるのかわかるか?」
「・・・いや、全くわかりません」
「まぁ、そうだろうな。以前来ていた連中も口をそろえてそう言う」
「来ていた連中?」
「この国には毎年不思議なことが起こってな、ニッポンという場所から来たと言う人が城のどこかに倒れているんだ。まさか玉座の目の前に倒れているとは思わなかったがな」
「それは・・・えっとごめんなさい」
「ふふっ、気にするな。まずは乾杯をしよう」
ベレッタさんが戸棚からいそいそと硝子のコップを持ってきて、琥珀色のお酒を4人分注いだ。
「乾杯」
一息に流し込む。まっず。やっぱこういうきちんとしたお酒は嫌いなんだよな。
「・・・口に合わなかったか」
「あはは。地元ではやっすい酒しか飲んでませんでしたから」
「安い酒。ふむ」
「どうかしました?」
「そのニッポンというところでは酒は安価なのか?」
「まあ、そうですね」
「羨ましい限りだ。酒は我が国では高級品でな」
なるほど。高級品を出してもてなしてくれるのか。嬉しいねぇ。
「さて、気になることも多いだろう。何でも聞いてくれ」
「えっと、じゃあ以前来たっていう人たちは今何してるんですか?」
「ふむ、なにをしているんだろうな」
「え」
「ベレッタ、去年来た少女は今何しているんだ?」
「ナカマエさんでしたら、今は帽子を作って売っているはずです」
「一昨年来た少年は?」
「・・・えっと、サクラさんは名誉の死を遂げました」
「名誉の死?」
「魔獣との戦闘で、落命しました」
「・・・」
「ふむ、そうか」
「えっと、俺はどうすればいいんてすか?」
「なにがだ?」
「これから、えっと仕事とかなんとか」
「毎年、2週間ほど暮らせる程度の金を渡し、好きにしてくれと城から出しているが・・・」
「え、魔獣を倒してこいとかないんですか?」
「望むなら、その仕事に就くこともてきるぞ」
「や、望みません。命大事」
あはは、自殺した野郎が何言ってんだか。
「そうか。他に質問は?」
「んー、ちょっと考えさせてください」
にわかには信じにくいけど、異世界に来たらしい。中学校の時によく読んだラノベみたいに魔王だとかを倒してこいって言われると思いきや、好きに暮らしてくれと言われてる。ふーむ。
「自分から少しいいですか?」
オチキスさんだ。王様も首肯した。
「カバラさんはこれから何をしようとしています?」
「んー、まだ決めてませんね。少し街を歩いてみてから考えたいかな」
「あ、じゃあ自分案内しましょうか?」
「あ、頼みたいです」
ベレッタさんがカツンと音を立ててコップを置いた。
「オチキスさん、確か今日は農奴についての会議があるはずでは?」
「おっと、忘れていた。カバラさん、明日で構いませんか?」
「ええ」
「私、今日案内出来ますよ」
「じゃあ案内をお願いします」
「はい。お任せ下さい。行きましょうか」
・・・ちょっとお酒残ってるぜ。
お城を出た。街並みは煉瓦っぽい家が綺麗にならんでる。良くも悪くも異世界って感じだ。俺は手癖でポケットから煙草を出そうとして、空振った。
「・・・お待たせしました」
パリッとした服からワンピースみたいなのに着替えたベレッタさんか歩いてきた。
「あの、この世界って煙草ありますか?」
「・・・喫煙者なんですか?」
「はい」
「・・・目の前の茶屋で買えます」
「ベレッタさんは吸います?」
「いえ。匂いが嫌いで」
嫌そうな顔のベレッタさんを無視し茶屋に入る。煙草の匂いが鼻につく。
「らっしゃい」
「煙草が欲しい」
「葉っぱならこっち。グラム売りだよ」
「や、手巻きとかじゃあなくて紙巻はない?」
「あるよ。しっかし男で紙巻とは珍しいねぇ」
「そうなのかい?」
「ああ。男ったるものパイプだろってね」
「ふぅん」
いくつか紙巻を出された。うーん、見たことない銘柄しかない。ラキストは?妥協でメビウスとか。適当に買おうと思って財布がないことに気が付く。
「ってわけで、ベレッタさんお金貸して」
「どういうわけですか。あと、タメ口で結構です。呼び捨てで呼んでください」
「や、ベレッタさん年上でしょ」
「カバラさんはいくつですか?」
「ハタチ」
「私は18です」
「えっ、そうは見えなかったです」
「ふん、そうですか」
「や、上品ですから普通に年上だと思ってたんですけどね」
「・・・そうですか」
ベレッタさんは軽く顔を擦った後、財布からお札を渡してくれた。やったぁ。適当に赤色の箱と緑の箱を買う。
「吸っていい?」
「私は外で待ちます」
店内の椅子に腰掛け、ライターを・・・ない。
「ライターあります?」
「あるよ」
初めて見るライターだ。ジッポみたいに開けて使うタイプだけど、フリント式じゃあなくてボタンを押すと火がつくってかじだ。早速一服。
「甘い」
なんつーか、キャスターホワイトとホープを混ぜて蜂蜜を垂らしたような、デザートと勘違いしそうな味。
吸い終わり、店を出た。
「お待たせしました」
「ええ。行きましょうか」
足並みを揃え、歩き出す。
「なんで煙草を吸うんですか?」
「なんでって言われても」
「吸い出したきっかけとかはないんですか?」
「んー、元カノと別れた時に先輩に勧められて吸い出したんですよね」
「・・・そうですか」
「ベレッタさんは吸わないんですか?」
「さんは要らないと言ってるのに。ええ、吸いません」
「ま、吸わないなら吸わない方がいいですよ」
俺は手癖で煙草を咥えた。
「あ」
「どうしました?」
「や、手癖で」
咥えた煙草を手に持ち仕舞うか迷う。
「ライターがないんですか?」
「いや、ライターも買った」
ちょっとムッとした顔をされた。ごめんて。
「いや、路上喫煙がよくないかなーって」
「・・・そんなこと気にする人いませんよ」
ベレッタさんが指さした先には歩きタバコをする人が何人もいる。へぇ、煙草が普通なんだな。
「あーでも、吸殻が」
「やはり紙巻なんですね」
「意外?」
「ええ。紙巻は女性が長い指を映えさせるために吸うんですよ。男性は大体パイプか葉巻ですね」
「ふぅん。日本じゃあ紙巻以外みんなほぼ吸わないですけどね」
「灰皿なら、そこの溝に捨てるんですよ」
「え?こういう側溝に捨てるの良くないからなぁ」
「なにがいけないんですか?」
「えぇ。まぁそういうものなら遠慮なく」
「私煙草嫌いです」
「そうなんだよなぁ」
ならしょうがないか。箱に戻す。
少し歩くと結構大きい城?のような場所についた。
「ここが先程のオチキスさんの屋敷です」
「はぇー大きい。貴族なのかな」
「まぁ、貴族ですよ」
「あ、そうなの?」
「冷静に考えて、陛下の前にいる時点で貴族だと思いませんか?」
「確かに。じゃあベレッタさんも?」
「呼び捨て」
「貴族なんですか?」
「まぁ、そうですよ」
「尚更さん付けさせてください」
「カバラさんはそういうこと気にしないと思ったんたんですけどね」
「どう見えてるんですか」
「厚顔無恥?慇懃無礼?」
「言ってろ」
むっとした俺は結局煙草に火をつけた。嫌な顔された。ざまーみろ。
「カバラさん」
「はい」
「お腹空いてますか?」
「結構空いてます」
「じゃあ、ご飯食べに行きましょう。こっちです」
斜め前のお屋敷に連れてかれた。
「ここは?」
「私の家です」
「はえーでっかい。おじゃまします」
「どうぞ・・・なんで靴を脱いでるんですか?」
「あっ、日本の癖で」
「日本だと靴を脱ぐんですか?」
「家に上がる時は脱ぎます」
「不思議な文化ですね」
「確かに?いや、外を歩き回った靴で家ん中を歩きたくないってだけじゃあないですか?」
「よくわかりません。とりあえず、着いてきてくだい」
大広間に通された。広いなぁ。
「座っててください」
ソファに腰掛ける。軽く部屋を見回すと絵画の女性と目が合った。凛々しい立ち姿と構えたレイピアがよく映えるカッコいい女性だ。
「失礼します」
ドアを開け、メイド服の女の子が入ってきた。
「あ、お邪魔してます」
「初めまして。ダカーポと申します」
「風祓蓮です」
テーブルの上にティーカップが置かれた。赤黒い紅茶が入っている。
「あの、1つ聞いていいですか?」
「勿論」
「えっと、喫煙所はどこにありますか?」
「こちらです。ついてきてください」
家から出て大きめの庭園的な場所の隅っこに喫煙所がポツンとあった。ベンチに腰掛け、煙草を咥える。
「・・・1本いります?」
「ありがたく頂戴します」
咥えた煙草に火をつけてあげる。メイドさんはベンチが2つあるのに座らない。
「座らないのですか?」
「いえ、結構です」
「ダカーポさんはここで働いてるんですか?」
「まぁそうですね」
「はえー」
「と言っても家事などはベレッタが自分でやりますのでどちらかと言えば警護ですね」
メイドにも呼び捨てさせてるのか?敬語として呼び捨てしただけか?まぁいいや。
「おっと」
煙草の箱を手のひらで弄んでいたら落としてメイドさんの足元に転がってった。メイドさんは拾わず軽く手を振った。すると煙草が時間を逆再生したこのように手元に戻ってきた。
「どうぞ・・・どうかされましたか?」
「まって今なにしたの?」
「なにって・・・なにがですか?」
「いや、ひとりでに煙草が手元に戻ってきたんだけど」
「・・・ああ、私の能力です」
「の、能力?」
「はい。私の能力はチーキーです。私の近くにある物を持ち主の元に戻せる程度の能力です」
「・・・待って、ちょっと考えさせて」
能力だって?俺にも何か能力とか発現してたりしないか?指先から糸が伸びたり爪が伸びたり。
「その能力はいつ身についたの?」
「いえ、成人式の際ですが・・・」
「じゃ、じゃあ」
急にふっとメイドさんが姿勢を正し、煙草を素早く灰皿に捨てた。直後にベレッタさんがやってきた。
「やっぱり。ご飯できたからついてきてください」
「わかりやした。ダカーポさん、ありがと」
「いえいえ、お気軽にお声がけください」
「・・・随分と仲良くなったんですね」
こっちを見ずにそう言われた。あれ?ちょっと怒ってる?勝手に喫煙所使ってごめんて。
「まぁ、ただおしゃべりに付き合ってもらっただけすよ」
「そうですか。フン」
先ほどの大広間に戻る。テーブルの上にはわかりやすく豪華な食事が並んでいる。
「自分で作ったの?」
「ええ。仕込みはやっていませんが調理とかは私がしています」
「へぇ。毎日このご飯を食べられるダカーポさんが羨ましいねぇ」
「そうですか。ん、んんっ。食べましょう」
いただきます。ムニエルみたいなのをフォークで食べる。バターっぽい味がおいしい。
「どうですか?」
「おいしい」
満足気に頷かれた。
「失礼します。ワインをお持ちしました」
「ありがとう」
ダカーポさんとはまた違うメイドさんだ。
「彼が客人のカバラ・レンさんだ」
「初めまして」
「初めまして。アレグロと申します」
テーブルにボトルが置かれ、ベレッタが2人分注いだ。
「乾杯」
「乾杯」
・・・マズい。鉛みたいな味するな。
「結構いいお酒なんですからマズそうに飲まないでください」
「あ、バレました?ワイン初めて飲んだんですよ」
「普段はどんなお酒を飲んでたんですか?」
「サワーとかハイボールとかです」
「高いお酒を割って飲むんですか」
「そーですよ」
「まぁ、カバラさんの楽し方にとやかくは言いません」
その割に結構むっとした顔してらっしゃるな。おいしいのに。
「この魚は?鮭?」
「・・・よくわかりましたね」
「や、食べたらわかりますよ」
「このスープのこれはなにかわかりますか?」
「え、わかるも何もニンジンとジャガイモでしょ」
「なんで食べてもないのにわかるんですか?」
「なんでって言われてもなぁ」
ご馳走様でした。美味しかった。
「お昼ご飯も食べましたし、街の散歩でもしますか?」
「あ、それより聞きたい事があるんだけど」
「はい」
「なんかダカーポさんが言ってた能力って何?」
「ああ。15歳の成人式で出させるお茶を飲むと人によって能力が開花するんですよ」
「え、じゃあ俺が今飲んでも無駄なんですか?」
「いや、今飲んでも発現する人はしますよ」
「じゃあ飲みたい」
「わかりました。少し待っててください」
席を外した隙に俺も喫煙所に直行する。
「また会いましたね」
「私は吸いに来たわけじゃあないですよ。掃除です」
「いります?」
「いります」
火をつけてあげる。
「ありがたく頂きます」
はぁ。ラッキーストライク吸いたい。甘いんだよほんとに。
「まったく。目を離したらすぐ煙草なんですね。ダカーポ、労働中の喫煙は禁止ですよ」
「すみません」
「お茶を持ってきました。これを飲んだら発現する人はします」
「何割くらいで出てくる?」
「えーっと、正確には分かりませんけどそんなに少なくはないくらいです」
へー。じゃあいただきます。
「飲みましたよ」
「何か浮かんで来ませんか?」
「・・・んー、ないかも」
「じゃあ恐らく、発現しない体質ですね。私と同じです」
「あ、ベレッタさんは発現してないんだ」
「ええ」
・・・バスケットケース?
「バスケットケース」
「どうされました?」
「いや、漠然とその文字が頭から離れないんですよ」
「・・・恐らく、カバラさんは開花しました」
「え、俺才能あるの?」
「恐らくは」
「マジか!やったぁ!」
何ができるのか体に意識してみる・・・わからん。
「ダカーポさんはどうやって能力に気が付いたんですか?」
「なんとなく落としたものを拾おうと思ったら気が付きました。ですから必要に応じてふと体が勝手に動くんですよ」
「どれくらいの期間で気が付きました?」
「えっと・・・5日ほどで気が付きました」
5日ねぇ。楽しみだなぁ。
「・・・じゃ、散歩にでも行きましょ」
「街の散策ですか?町から出てみますか?」
「まだ町にいようかな」
「でしたらこれを」
ダカーポさんがポケットから2つ折りのポケットナイフを渡してきた。
「万一の際は自衛してくださいね」
「万一はおきません」
相対してベレッタさんはにっこり笑った。
「ベレッタ・ウィンストンの名にかけて、お守りします」
「へぇ、心強い。よろしくね」
「・・・はぁ」
なぜか溜息をつかれた。ダカーポさんは呆れた顔をしていた。
屋敷を出て、ぷらぷら歩く。
「なぁ、能力って人によって違うのか?」
「ええ。静かに歩けるようになる程度の能力だとか、持ち主の元に物を返す能力だとかそんな感じです」
「なんつーか地味だな」
「むしろ強い能力は怖がられるからちょっと便利がちょうどいいらしいですよ」
「はーん」
「少しこの店に寄りませんか?」
「いいぜ」
入った店は茶屋だった。周りのテーブルにはカップルや家族連れが何組かいた。
「ここ煙草は?」
「駄目」
けっ。
「何飲みます?紅茶とかジュースとか」
「おすすめでお願い」
運ばれてきた紅茶を飲む。全体的にこの国は味付けが甘いな。
「ベレッタさん!」
「あら、こんにちは」
老婆がベレッタさんに話しかけてきた。
「ランデブー中申し訳ないけど、ちょっとお願いしたいんだけど、いいかしら」
「ええ、勿論」
ベレッタさんは俺に紙幣を2枚渡して屋敷に戻るように言ったあと、店から出てしまった。素直に屋敷に戻るのは退屈だし、ちょっと散歩しよう。こんな晴れた日は虹を見に行きたいぜ。
ぶらぶら歩いてたら衛兵がいる門まで来てしまった。
「そこの君、ここから出るなら身分証の提示がいる」
「え、身分証?」
当たり前だけどポケットには何も入ってない。折りたたみナイフを渡してみる。
「ああ、ウィンストン家の者か。ご協力感謝する。お気をつけて」
あっさり通された。いいんか。いいか。関係ないし。
ぼんやり青空を眺めながら地べたに腰を下ろし、煙草に火をつける。普段ならスマホを弄るが生憎持ってない。ぼんやりとナイフを眺める。別にミリタリー的な趣味はないが、きちんと研がれていて柄の部分にはト音記号に似たマークが刻印されてる。これが家紋かなぁ。ふと物音が聞こえて振り返ると、犬がいた。可愛い。俺犬派なんだよね。ウキウキしながら近づくとめちゃくちゃ唸られた。なんだよ。・・・あれ?尻尾が2本ないか?
「もしかして魔獣さんか?」
返事の代わりにいっそう強く唸られた。一応ナイフを開き、構える。煙草を吐き捨て、正しい構え方なんて知らないから腰を落とす。ナイフを持つ右手を前に、左足に重心を乗せ、半歩前に。
犬が飛びかかってきた。顔の当たりを右足で蹴り抜く。しかし犬はビクともせず、そのまま軸足にタックルされた。
「っ!ばっか!」
顔を噛まれそうになり、慌てて左腕でガード。左の二の腕に噛み付かれた。
「つあっ!痛え!」
俺は右手のナイフで犬を刺す。が、ゴムの様な感触で刺さらず、弾かれた。突き立てられた歯のせいで、腕から嫌な音がする。
「離せ!」
目にナイフを突き立てる。左目に刺さり犬は飛び退いた。その隙に這ってマウントポジションから抜ける。
「ってぇ」
左腕からは血が垂れてる。少し腕を動かすだけで激痛が走る。痛てぇよ。死にたいって思ってたけどこんな痛く死ぬんは勘弁だ。犬はナイフが刺さったままにも関わらず、逃げずにじっくりを俺を観察している。
「武器もねぇ。逃げれる気もしない。じゃあ頑張るしかねーよな」
不格好なファイテングポーズをとる。
犬が再び飛び掛ってきた。あ、死んだ。
「エリュシオンオブスカーレット!」
見知らぬ声と共に足元の草が燃え上がった。犬は突然の火に足を止めた。
「なにぼさっとしてるの!」
振り返ると女性が血相を変えてこっちに走ってきている。そのまま女性は俺を通り過ぎ、持っていたダガーで犬の脳天をカチ割った。
「はっ・・・怪我は!?してるじゃない!見せて!」
俺はへなへなと座り込んだ。
「・・・とりあえず、治療するから腕見せて」
言われるがままに腕を向ける。
「うわぁ・・・折れてはなさそうだけど、深々とやられてるね。もしかしたら後遺症残るかも」
「・・・マジかよ」
俺は煙草に火をつける。
「・・・あんた随分呑気だね」
「ちげぇ。痛すぎて何にも考えたくない」
「まったく。こんな草原に来ちゃダメってなんでわかんないのよ。消毒するよ」
「まっ、待って!」
容赦なく腕に液体をかけられる。
「いでぇ!ちょっ!勘弁してくれ!」
「馬鹿、腕無くなるよりましでしょ!」
包帯をきつく巻かれた。傷が痛いのか包帯が痛いのかよくわからんくなってくる。
「・・・いてぇ。あんた名前は?」
「私?この辺で自警団してるミストリエスだよ」
「ありがとう。助かった」
「全く。あんたの名前は?」
「風祓蓮だ」
「カバラレンね。覚えたよ。これに懲りたなら町から出ないように!いいね!」
「・・・さっきの火」
「なによ」
「どうやったんだ?」
「ん?あぁ、ただの能力だよ。エリュシオンオブスカーレット」
「なんでも燃やせる能力ってわけか。あんたが主人公だな」
「なにわけわかんないこと言ってるのよ。私ができるのは炎をコントロールするだけ。イキナリ葉っぱを燃やしたりはできないよ」
「じゃあ、なんで足元の草を燃やしたんだ?」
「あんたの煙草の火だよ」
「・・・いい能力だな」
「別に、大した能力じゃあないよ。コントロールできる時間は3秒だけだし」
「へぇ」
確かに火はいつの間にか消えてる。ミストリエスさんは立ち上がり、さっき倒した犬の方に歩いて行った。
「・・・このナイフ、あんたの?」
「ああ」
「よっと・・・ウィンストン家のじゃん。もしかして盗品?」
「違わい。メイドさんから貰ったんだよ」
「へぇー。よく目を狙えたね」
「こいつの名前は?」
「ん?ドッグだよ」
「わーお安直」
「まぁ、ちゃんと区分で言うなら、バウマッドだね。尻尾が2つで、皮膚がゴム質、特徴的な毛色」
「はぇ」
「まったく。とにかく!家に帰りなさい!あ、その前に絶対治療してもらいなさいよ!」
「・・・幾らだ?」
「なにが?」
「助けてもらったんだから、金は払うよ。あんまり持ち合わせないけど」
「・・・じゃ、その煙草1本でいいよ」
そういうと俺の咥えてた煙草を抜き、地面に捨てた。その後靴で踏んで消した。
「なにしやがる」
「こんなん吸うと馬鹿になるよ!さぁ帰った帰った!」
ナイフを投げ返された。まったく。元来た道を戻ろうとすると後ろから着いてきた。
「なんで着いてきてんだよ」
「は?単独で帰れるとでも思ってるの?あと、ウィンストンさんの家行ってこれが盗品か確認もしたいし」
「はぁ、お好きにどーぞ」
門を通り抜けようとすると当然、呼び止められた。
「君、すまないが身分証を」
先程と同様にナイフを見せる。
「ああ、ベレッタさんとこの人か。通って大丈夫。ミストリエスも確認いらない」
「まって!そんなザルでこの馬鹿を街から出したの!?盗品だと買って疑わなかったの?」
「それは・・・」
「馬鹿とはなんだ馬鹿とは」
「黙れ馬鹿!」
「は?馬鹿って言ったほうが馬鹿なんだぞ」
「うるさい!次からきちんとした身分証の提示は義務にしなさい!顔パスならともかく初めて見た顔ならなおさら!わかった?」
「わかりました」
「まったくもう。行くよ」
「ミストリエスさん」
「なによ」
「俺は馬鹿じゃあない」
「あんたは馬鹿よ。間違いなく」
病院的な場所に連れていかれた。
「・・・うーん、結構痛めていますね。骨に異常はないですが、筋肉の組織が傷ついてます」
「この人の後遺症って残りそうですか?」
「いやぁ・・・どうでしょう。運がいいことに後遺症が残ったとしても大きな問題にはならないとは思います。まぁ、それは経過次第ですが」
「わかりました」
「じゃあ、コレ内服薬ですから。絶対飲んでください。傷もできれば半日に1回、少なくとも1日の内には必ず洗ってください。じゃあ、これお薬です。お大事に」
診察もすぐ終わった。その割にもう夕方だ。
「これに懲りたらもう勝手に出ないこと。わかった?」
「勉強代が高いな」
ミストリエスと病院前で別れ、屋敷に戻る。ベレッタさんち壁が黒いから遠目でもすぐわかるな。勝手にずかずか入っていいか迷い、呼び鈴的なのを探す。ない。そりゃそうか。仕方なく玄関をノックしてみる。
「・・・おかえりなさい」
「えっと、ただいま」
「全く、どこをほっつき歩いてたんですか?せっかく用事を素早く済ませたと・・・」
ベレッタさんのお説教が急に止まった。
「その包帯はどうしたんですか?」
「・・・えっと、野良犬に襲われて」
「・・・門の外に出たんですか?」
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・出ました」
「・・・っ、入ってください」




