禁忌の子
あれから数日が経とうとしていた。
城での生活にも慣れてきたカイルたちは今日もグルナとの戦闘訓練に励んでいた。
「よし、休憩だ」
グルナの言葉と同時にその場に息を切らしながら座り込むメグ。グルナの訓練は今までホールズで受けていた訓練よりも遥かに厳しいものであった。
「ちょっと飲み物もらってくるよ」
「私のもお願い」
カイルは訓練所を出て、食堂へと向かう。
「あなたは確か……、カイルさん?」
建物の中で急に呼ばれた聞き覚えのない声に振り向くと、そこには兵士たちとは明らかに違うきらびやかな装いをした、カイルとそう歳は変わらなさそうな女性が立っていた。
「えっと、君は?」
「私はユウナと言います。カイルさんはホールズ出身なのですよね? いろいろとお話を聞かせて頂けませんか?」
「えっと……」
(この子は一体何者なんだ? 僕のこと知ってるみたいだけど……)
戸惑うカイルの様子に気付いたユウナは説明を加える。
「カイルさんのことは城内の者から聞いています。あまり城の外に出る機会がなくて、外の世界の話を聞きたいのです」
「そうだったんだ。僕が話せることだったら」
それからユウナに質問されるがままに、ホールズでの生活や友達のこと、自分たちがどうしてここに来ることになったのかを話した。
どの話にも興味津々なユウナの反応に気をよくしたカイルは更に話を続ける。
「ホールズでいろいろ頑張ってきたんだけど、持ってきた短刀も折られて……、まるで歯がたたなかったんだ」
それまで陽気に聞いていたユウナであったが、少し真剣な表情へと変わる。
「そうですね、頑張った。なんて言葉は自分で使うような言葉ではありませんものね」
「えっ? そっそうだね……」
ユウナの雰囲気が変わったことを感じたカイルはたじたじとなり言葉を詰まらせる。
「すみません、お話有難うございます。また聞かせてくださいね。それと私が協力できることがあれば力になりますね。訓練頑張って下さい」
そう言うと、来た道を戻るようにユウナはその場を後にした。
「一体何だったんだ?」
彼女の態度が急に変わった理由も分からないまま、カイルは訓練所へと戻っていった。
「カイル遅かったわね。あれ? 飲み物は?」
手ぶらで戻ってきたカイルに訓練所で待っていたメグが首をかしげる。
「あっ、ごめん。忘れてた」
「もう! 何のために行ったのよ!」
「おい、再開するぞ!」
呆れ果てるメグをよそに訓練は再開された。グルナとの戦闘訓練が終わりを迎える頃、アメリアが訓練所に姿を現した。
「それじゃあ、後は頼むな」
「あなたに言われなくても責務は果たします」
アメリアと入れ替わるように訓練所を後にするグルナを見送り、アメリアの指導の元調律訓練が始まる。
「はい、それではここで休憩にしましょうか」
「はぁー、疲れたー。私たち本当に強くなってるのかしら?」
休憩と共に緊張の糸が切れたメグの口から実感できない自分たちの成長具合に対する愚痴が溢れる。
「どうだろうね? まだグルナのパートナーすら見てないもんね」
「私たち程度じゃまだ早いってことなのかしらね?」
「お二人は彼のことについて聞いてないのですか?」
二人の話を聞いていたアメリアは不思議そうに尋ねる。何も聞かされていない二人もまたアメリアの言葉の意味がわからず困惑する。
自身の発言に後悔したのか、アメリアは少し表情を曇らせ言葉に詰まる。
「ここの者なら知っていることですし、遅かれ早かれお二人の耳に入っていたでしょう」
誰に向けられた発言か解らないが、少し早口になったアメリアは言い訳じみた台詞の後に改めて話し出した。
「結論から言いますと、彼グルナ・ハーディアスにはパートナーがいません。いえ、パートナーを作ることができないと言った方が正しいですね」
「パートナーがいない!? あんなに魔法を使っているのに?」
「そうですね。どこから話したものでしょう……。お二人は禁忌の子と言う言葉をご存知ですか?」
「禁忌の子?」
繰り返し言葉にするメグは聞いたこともないと言うばかりに首をかしげる。しかし、隣にいるカイルは考える素振りを見せる。
「確か、人間と魔物の間に出来た子供のことでしたっけ?」
「その通りです。私たちコヴァターはパートナーと契約する際に相手の魔石を半分体内に取り込むことは知っていますね。その際、元々両親から受け継がれている少量の魔石はなくり、パートナーとコヴァターの二人で一つの魔石を共有することになります」
この情報もホールズの図書館で大量の書物を読破しているカイルにとっては知り得ている情報である。
「しかし、禁忌の子と呼ばれる彼らには魔物の親から受け継がれる魔石が通常よりも大きく、他の者と共有せずとも十分に魔法を使えるだけの力があるのです。そして、体内に二つの魔石を取り入れることのできない人間の体では契約することができないことを意味します」
「そうだったのね……。でも、どうして禁忌の子と言われるようになったんですか?」
「昔から輪から外れた者は忌み嫌われるものです。更に禁忌の子には真紅の眼と髪と言う産まれ持った特徴がまた異端とされているのでしょう」
「真紅の眼!?」
その特徴は紛れもなくジンを連れ去った人物の特徴であった。しかし、アメリアの話を合わせると一つの疑問が浮かんだ。
「ちょっと待って! おかしいわよ!」
「メグ?」
「だって、アメリアさんの話だと真紅の眼を持つ禁忌の子にはパートナーを持つことはできないんでしょ? でも、ジダバルさんの話だとパートナーを連れてたって言ってたじゃない!」
「それは私たちでもわかりません。可能性としては、何らかの方法で自身が持つ魔石を消滅させたか、パートナーの特殊な能力によるものなのではないかと思いますが……」
メグの指摘はもっともである。しかし、アメリアですらその疑問の回答を持ち合わせてはいなかった。
「答えがでないことをいつまでも考えていても仕方がありません。今は目の前の大会に向けて訓練をしましょう」
パンッと手を叩き、考え込むカイルとメグに訓練の再開を求めるアメリア。大会まで時間のない二人は再び訓練に励むのであった。
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時間はあっという間に過ぎ、武術大会の当日。
「とうとうこの日が来たわね……」
「僕たちならきっとやれるよ……」
武術大会の参加選手の控え室には他にもキルホストル中から集まった腕に覚えのある強者達が集まっている。
その雰囲気のせいか、言葉とは裏腹に不安を拭いきれていないカイルの表情は非常に険しいものになっていた。
「なんだなんだお前ら、ここまで来て緊張してんのか?」
この三ヶ月間二人に武術指南をしたグルナはいつもと変わらない態度で二人の前に現れた。
「あれは炎帝部隊副隊長グルナ・ハーディアス!?」
「なぜこんなところにあの男が……」
「副隊長と話してるあのガキたちは一体?」
大会の参加者たちの視線はグルナに集まる。同時に、グルナと話をしているカイルとメグにもその視線は向けられた。
二人は改めて目の前にいるグルナ・ハーディアスと言う人物が周りから一目置かれる存在であると認識した。
「お前らはこの三ヶ月間、出来る限りのことはした。後は思いっきり暴れてこい!」
「はい!」
グルナの言葉に勇気付けられた二人は先程までの不安な感情は消え去り、いつもの力強い視線をグルナに送る。
「よし、行ってこい!」
こうして、武術大会の幕が開ける。




