開会式
「ついに! ついにこの時がやって参りました! 年に一度、思う存分己の実力を示すことが許される武術者の一大イベント! 武術大会! 今年も各地からたくさんの強者たちが集まっているようです」
武術大会の会場に響き渡るその声の主はコホンっと咳払いをすると、改めて名乗りをあげる。
「申し遅れました。私は、今大会の司会、進行を行います諜報部隊所属、マルク・スピーカと申します。戦いの解説をして下さるのは炎帝こと、ギルバ・フィアンマさんです! 本日はよろしくお願いします」
「あぁ、よろしく頼む」
会場のいたるところに、宙に浮かぶ大きな水の固まりにテーブルに腰掛ける黒いサングラスをかけ、元気よく話すマルクであろう男性と、ギルバの姿が写し出されている。
「この映像は? あとあの声はどこから?」
選手控室から見た始めての光景にカイルは忙しく目を動かし、事態の把握に努める。
「なんだお前この手の魔法を見るのは始めてか? こいつは水魔法と風魔法の合体魔法らしい。俺も詳しくは知らねぇが、何人もの魔力を使われねぇと維持できねぇ代物らしい」
「またあなたはそんな適当な説明をして……」
グルナの解説に不満を唱えたのは控室の入口に姿を表したアメリアであった。
「アメリアさん!」
カイルたちは二人目の師匠の登場に声が上がる。
「二人ともおはようございます。先のカイルさんの質問ですが、使われている魔法は風魔法と水魔法で間違いありません。まず、司会者のマルクが風魔法の私の声を聞けで自身の声を会場内に届ける。映像については水魔法で水球を作り出し、写し出すもので転写しているのです」
「なるほど。言われてみればどれも基礎的な魔法の応用なんですね」
感心するカイルにアメリアは更に続ける。
「一見どれほど複雑そうな魔法でも元を辿れば基本的な魔法を組み合わせただけに過ぎません。それさえ理解できれば戦闘でも優位に立てるはずです」
「はい、ところでアメリアさんはなぜここに?」
カイルの質問にアメリアは見るからに不満そうな表情を浮かべ、その視線はグルナへと向けられた。
「今大会は国王並びに王家の方々も御覧になられており、大勢の人間が出入りするため危険が非常に高いのです。そのため、我々五帝部隊はその警備にあたる予定なのですが、その大切なミーティングにも顔を出さないどこぞの副隊長を迎えに来たと言うわけです」
アメリアの視線に気が付いたグルナは悪びれる様子もなく、いつものように軽口を叩く。
「別に俺一人いなくても構わねぇだろ?」
「他の者に示しがつかないと言っているのです! 仮にも副隊長なのですから、自身の立場ぐらい自覚しなさい! それに、雷帝、土帝、風帝部隊が不在の最中人員はかなり不足いるのですよ」
更に鋭くなるアメリアの目付きに、観念したグルナは両手を上にあげ、降参の意を示す。
「それではお二人とも試合頑張って下さいね」
そう言い残すと二人は控え室を後にした。カイルたちは二人を見送ると、試合に向けて意識を集中させるのであった。
「いよいよ今年の熱いバトルを見せてくれる選手たちの入場です!」
マルクの呼び掛けにより、複数ある入場口から一斉に参加者たちが中央へと集まってくる。
「えぇー、情報によりますと、今年の参加者は総勢二百人と言うことで例年通り凄い人数ですね。何々、今年の五帝部隊からの参加者は最近入隊したばかりのこの二人。炎帝部隊よりスグニア・スペーサー君、水帝部隊よりアユーラ・シュエールさんの二名が参加するようです。他の部隊の方は任務中と言うことで不参加みたいですね。さてさて、続々と参加者が集まってる中、ギルバさん、今年注目している選手はいますか?」
「そうだな。皆、鍛練を積んできた優秀な戦士たちのため甲乙は付けがたいが、あえてあげるのであれば、やはり我が隊のスグニアには頑張ってもらいたいものだな」
明るくにこやかに話をするマルクの声に会場の観客席に座る者たちは楽しそうに聞き入るのであった。
「なるほどなるほど。やはり、隊の仲間には期待しますよね。おっと、そうこうしているうちに選手たちの入場が終わったようですね。それでは、開会を記して国王陛下より御言葉を頂戴します」
会場の二階部分に設けられている国王専用の椅子が置かれたスペースから少し前に出ると、会場のどこからでも見ることのできる位置に国王は立つ。
「我が国民たちよ、我々は今もなお魔物たちの脅威に晒されている! それだけではない、隣国との争いも激化の一途を辿るばかりである! しかし、案ずることはない! それを今日ここにいる屈強の猛者たちが証明してくれるだろう!」
国王の言葉に会場の観客席から大きな歓声が上がる。それだけ皆、国王の言葉に心を動かされているのだ。
「では、選手の諸君、素晴らしい戦いが見れることを期待しておるぞ」
そう言い残し、国王は自身に用意された席へと戻る。その姿を目で追っていたカイルは国王席の隣に座る人物の存在に目を疑った。
(あっあれは……)
それは以前訓練休憩の際に初めて出会った一人の女性。その姿は以前あった時よりも更にきらびやかな衣装で身を纏み、さも当然のごとくその席に腰を下ろしていた。
「メッメグちょっと……」
「なっなによ! もうすぐ試合が始まるのよ! 無駄口を叩いてる場合じゃないわよ」
小声で話すメグの声は微かに震えていた。さすがにこの観客席と選手の数に圧倒されてしまっているようである。
「あの国王様の隣にいる僕たちと変わらないぐらいの歳の方って……」
「あんたね、今更何言ってるの? あの方はこの国の第一王女、ユウナ・キルホストル様じゃない」
「第一王女……」
「あんたこの大事な試合前に変な気を起こしてるんじゃないでしょうね?」
少し強い口調で放ったメグの質問など全く頭に入ることなく、以前会った際に自身がしでかした粗相の数々を思い返していた。
「それでは、予選のルール説明をさせて頂きます。各選手の番号の前にAからDまでのアルファベットが付いています。アルファベット毎に予選を行い、各ブロック四名を選出し、計十六名にてトーナメントを行います! それではAブロックの方のみその場で待機して下さい!」
マルクのアナウンス通り、選手たちはそれぞれの持ち場へと移動を始める。
「私はA-百二十四番だから、Aブロックね」
「僕はD-百二十七番だから、最後のブロックだね」
カイルとメグはそれぞれの胸元に付けられた番号を確認する。
「それじゃあカイル、トーナメントで会いましょう」
「あぁ、メグも無理はしないでね」
そう言い残し、カイルは一度選手控え室へと戻りメグの試合を見守る。
会場の中央に用意されたリングには五十名の選手が残り、試合開始の合図を今か今かと周囲を警戒しつつ、待ち構えていた。
「おい嬢ちゃん、こんな所でおままごとでもするつもりか? さっさとリングから降りな」
「そうだそうだ、そんな華奢な体で何が出来るって言うんだ。怪我しないうちに棄権した方がいいぜ」
メグの周りには腕に自信のある筋肉質の男選手たちが群がっていた。メグはそんな男たちの言葉を物ともせず、じっとその場で試合の合図を待ちわびていた
。
(今に見てなさい。一体誰に喧嘩を売ったのか後悔させてやるわ)
メグの思惑と共にAブロック予選の試合開始の合図が下ろされた。




