第97話 流れ着いた竜
その竜は、明け方、川の浅瀬に打ち上げられていた。
ガルデの軍竜だった。鞍の意匠が違う。渡河戦で矢を受け、流されたらしい。右の翼膜──ガルデの軍竜は飛膜を持つ山岳種だ──が裂け、火は弱り、浅瀬で半ば水に浸かって、まだ生きていた。
見つけた兵たちは、槍を構えた。敵の兵器だ。処分が筋だった。
報せを受けたカヤは、走って行って、槍の列の前に立った。
「診ます」
「敵の竜ですよ」
「竜です」カヤは言った。「診たあとのことは、診たあとで決めてください」
議論は司令部に上がった。司令代行は、バンの副官だった男だ。しばらく黙り、それから言った。
「……司令なら、なんと言ったかな」
誰も答えなかったが、全員が同じ答えを思い浮かべた。名前を訊け、と言っただろう。
竜は、天幕に運ばれた。翼膜を縫い、矢傷を洗い、火の弱りには灰の湯気を立てた。首輪の鑑札に、ガルデ語の名が刻まれていた。読める者がいなかったので、ハギが「ナミ」と呼んだ。波打ち際にいたからである。
ナミは三日で立ち、七日で火が戻った。
世話の当番には、志願者が並んだ。敵の竜だと槍を構えた兵たちが、である。竜に国境はない。あるのは川と橋と命令だけだ──それを、兵たちは理屈ではなく、濡れた竜の世話をしながら覚えた。
そして、捕虜となった。竜の捕虜の扱いなど、軍のどの規定にもなかった。とりあえず竜舎の端の房に入れられ、とりあえずゲンが隣に伏せ、とりあえず、窯裏の流儀で世話をされた。




