第96話 湯気班
二度目の火の夜は、砦の空気を変えた。
軍火の危うさを、今度は全員が目で見た。処置済みの竜を戦線に出したがらない指揮官が増え、現場の判断で、焦げの出た竜が次々と天幕に回されてきた。
カヤは、団の中に小さな班を作った。名前は付けなかったが、兵たちが勝手に呼び始めた。
湯気班、と。
処置の天幕には、灰を溶いた湯気が、朝から晩まで立ちのぼっている。焦げた息の竜を曳いていく先を、兵たちは「湯気の天幕」と呼び、いつからか呼び名は縮まって、班そのものの名になった。
やることは決まっていた。焦げの兆しの出た軍火竜を受け取り、灰の湯気で燃やし切らせ、ミゾレの株を継ぐ。逆継ぎ火の野戦運用である。一等竜医となったカヤは、事後審査を自身の名で通せた。イサギが押し込んだ「弱い一行」と、戦時特例の昇格が、ここで噛み合った。
解除された竜は、火が並に戻る。兵器としては帳簿から消え、荷駄や土工に回される。
「戦力の低下だ」と言う士官もいた。
「そうでしょうか」カヤは、解除明けの竜が土工の列で黙々と石を曳くのを指した。「暴走の恐れがなくなった竜は、夜も竜舎で眠れます。眠れる竜は、長く働けます。……それに」
「それに?」
「この竜たちは、戦争が終わったあとも、生きて村に帰れます」カヤは言った。「帰れる竜を増やすのは、負けじゃないと思います」
解除の処置は、一頭に十日かかる。餌を絞り、灰の湯気で燃やし切らせ、植えて、待つ。天幕の中に房を仕切り、多いときは五頭を並べて診た。五頭の熱を行き来するカヤの一日は、歩数だけなら王都への道より長い、とセイが呆れた。
解除は、秋までに三十一頭に及んだ。
手控えの一覧は、頁を跨いで伸びていった。ハギの経過記録が入口を守り、カジの管理が出口を支えた。ミゾレの株は、北の砦で、また殖えた。




