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継ぎ火の竜医  作者: 川中アキラ
分け火と御番医
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94/138

第94話 岩

バン司令が、突端に向かって歩き出した。


「司令!」


「来るな」司令は、振り返らずに言った。「この竜は、わしが徴用の判を押した。名前はドウマ。南の石切り場の力竜だ。石を曳かせたら、砦一の竜だった」


司令は、暴れる竜の正面に、ゆっくりと回り込んだ。


燃える竜と、兵の列の、間に。


「ドウマ」


岩のような男は、岩のような声で、名を呼んだ。


暴れていた竜が、一瞬、動きを止めた。夜の見回りの足音を、竜たちは覚えている。八十の房を、二十年、歩き続けた足音だった。


「済まんな」司令は言った。「こっちだ」


司令は、突端へ向かって歩いた。竜は、痛みに咆えながら、それでも、その足音を追った。一歩。また一歩。兵の列から、崖の突端へ。


燃える竜が司令に追いついたのは、突端の際だった。


二つの影が、縁で重なり──淵へ、落ちた。


水音は、一つしか聞こえなかった。


崖の上の誰も、しばらく動けなかった。ハギが膝をつき、竜兵たちが順に帽子を取った。カヤは、手控えを胸に抱えたまま、淵の暗い水面を見ていた。診られなかった竜と、それを最後まで背負った人。両方が、水音一つの中に沈んだ。


ドウマの火は、水の中で消えた。バン司令は、三日後、下流の岩場で見つかった。帳面は、胸の内衣に、油紙で包んで仕舞われていた。濡れてはいたが、読めた。


最後の頁の、最後の行は、その日の朝に書かれていた。


〈ドウマ、焦げ強し。今夜が峠。


わしの判で徴用した竜、通算三百十一頭。名はすべて本帳にあり。


あとを頼む〉

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