第93話 二度目の火の夜
四年前と違うことが、二つあった。
一つ。記録があった。ハギの朝晩の経過記録が、二十二頭の焦げの兆しを、すでに三段階に分けていた。どの竜から外すべきか、迷う時間はゼロだった。
二つ。戦時だった。崖の向こうには敵陣があり、竜を並べて火を吐かせれば、それは敵への攻撃と区別がつかない。
「構わん、吐かせろ!」バン司令が怒鳴った。「敵さんには、悪いが花火を見てもらう! 竜舎ごと燃えるよりましだ!」
焦げの強い竜から順に、崖に並べ、号令で火を吐かせる。ハギが竜兵たちに交じって号令をかけた。ゲンが、怯える若い竜の隣に立って、宥めた。夜の川面に、火柱が並んで映った。
対岸のガルデ軍は、夜通し続くその火柱を、王国軍の示威と受け取って、翌朝の渡河を見合わせた──と、あとで捕虜の口から知れた。
火柱の並ぶ崖の上で、ハギは声を張り続けた。号令の合間に、一頭ずつ名を呼んだ。名を呼ばれた竜は、ほんの少しだけ落ち着く。それを少年に教えたのは、夜の竜舎を名を呼びながら回る、あの司令の癖だった。
夜明けまでに、二十二頭のうち十九頭が、燃え尽きの峠を越えた。
三頭が、越えられなかった。
暴走の入口に入った三頭は、崖の突端に隔離された。うち二頭は、カヤの応急──吐かせ続けて燃やし切る──で、昼までに鎮まった。
最後の一頭が、鎮まらなかった。
十歳の力竜だった。処置からまだ十日。焔嚢が暴走し、火が体を内側から焼き始め、痛みで、竜は崖の突端で暴れた。
突端の下は、川だった。対岸ではない。深い、流れの速い淵だった。
そして竜の暴れる先には、消火と搬出でごった返す、兵と竜の列があった。




