第90話 植えられた竜
それでも、処置は始まった。
ただし、処置場に引かれていく列から、八頭が消えていた。骨格の所見が付いた竜と、焔嚢の襞の薄い竜。所見を無視して強行し、暴走で竜舎ごと失えば、責は判を押した者に返る──三十枚の不適は、軍の内側で、そう読まれたのだ。全部は守れなかった。それでも、紙が八頭を守った。
残る二十二頭に、処置は進んだ。最初の週に十頭。次の週に十二頭。
処置された竜は、三日高熱を出し、それから、火が変わった。岩を割る火。壕を一息で焼き固める火。軍の帳面の上で、竜たちは「戦力」に変わっていった。
ハギは、処置明けの竜の房の前から、動けなくなることがあった。
「先生。ゲンも、こうだったんですよね」
「そう」
「自分、あのとき、すごいって言ったんです。古参の人に、軍火ってすごいですねって」少年は、拳を握った。「今は、謝りたいです。あのとき房にいた竜に」
「謝るのは、まだ早い」カヤは、検診の帳面を少年に渡した。「書くほうが先。ハギさん、今日から処置竜の経過記録はあなたの担当です。息の焦げを、朝晩。全頭」
「……はい」
「四年前、あなたが数えた『ゲンの息の焦げ』が、九頭を救う一覧の始まりでした」カヤは言った。「同じことを、もう一度やるんです。今度は、最初から」
ハギは帳面を受け取って、両手で持った。火傷のある左腕が、少しだけ震えていた。震えたまま、少年は記録係の欄に自分の名を書いた。こういう日のために練習してきたような、丁寧な字だった。
夜、カヤは手控えに書いた。
〈処置、二十二頭。八頭は、紙が守った。残りは守れなかった。
経過記録、開始。焦げの兆しが出た竜から、順に救い出す。
覚え:負けた日から記録を始める。四年前と同じ。四年前より、早い〉




