第89話 処置前検診
軍火の処置は、砦の医務棟で行われることになった。執刀は軍の技官たち。カジは「処置後の管理」に回された。処置そのものから、軍医は外された。
カヤたちに、止める権限はない。
だが、竜医団と軍の協定には、イサギが押し込んだ一行があった。
〈徴用竜への処置に先立ち、竜医団は健康検診を行い、所見を軍に提出することができる〉
できる、と書いてあるだけの、弱い一行だった。カヤたちは、その一行に全体重をかけた。
検診は、夜明けから日暮れまで続いた。一頭あたり、四半刻。ハギが鑑札の名を読み上げ、カヤが診て、団の書記が所見を清書する。診られる竜たちは、何も知らずに、おとなしく喉を差し出した。その従順さが、書く手を重くした。
処置予定の竜を、一頭ずつ検診する。目、立ち方、喉。そして所見を書く。
〈本竜は右肩に古傷。軍火の火力に骨格が耐えない見込み。処置不適〉
〈本竜は八歳。焔嚢の襞が薄く、強い株は根付かず暴走の危険。処置不適〉
〈本竜は健康。ただし軍火処置による平均余命の短縮は二年(当団の記録による)。健康な竜への処置は、健康の名において不適〉
三十頭を検診し、三十枚の不適を出した。
軍の担当官は、書類の山を前に、うんざりと言った。
「全頭不適では、検診の意味がなかろう」
「意味はあります」カヤは言った。「二年後、この竜たちが老竜の体になって返されたとき、『知らなかった』とは、もう誰にも言えません。あたしたちは今日、全部書きました。読まなかったのは、そちらです」
「……脅しか」
「記録です」カヤは、写しの束を鞄に仕舞った。「脅しは声が大きくても、すぐ消えます。記録は静かで、消えません」




