第88話 野戦診療
戦場の竜の傷は、窯裏のそれとは別物だった。
矢傷。火傷。崩落の下敷き。そして何より、疲労。土工の徴用竜は、壕を掘り、石を曳き、休まされずに働く。疲れた竜は躓き、躓いた竜は足を潰し、潰した足は──窯裏で何百回も見た、あの坑へ落ちていく。
竜医団の天幕は、砦の後方に張られた。
カヤの一日は、夜明け前に始まった。窯裏と同じだ。違うのは数だけだった。一日に五十頭。多い日は百頭。
「全部は診られない」初日の夜、カヤは団の竜医たちに言った。「だから、順番を付けます。命に関わる竜、今日手当てすれば働ける竜、休ませれば治る竜。分ける目が、一番大事な仕事になります」
ハギは押さえと包帯を受け持ち、ゲンは傷竜の隣に伏せる係を務めた。暴れる竜も、ゲンが隣にいると静かになった。戦場でも、それは変わらなかった。
夜、天幕の灯りの下で、カヤは団の竜医たちの診療録を検分した。書式はばらばらで、所見の深さもばらばらだった。カヤは赤筆で直しを入れ、直しの理由を余白に書いた。三日目から、直しは半分になった。七日目には、ほとんどなくなった。竜医は、書きながら育つ。自分がそうだったから、間違いない。
十日で、団の帳面には三百頭分の診療録が積み上がった。
そして十一日目、軍務局の布告が砦に届いた。
〈戦時大権に基づき、軍火株の凍結を解除す。徴用竜のうち壮健なるものより、順次処置を実施す〉
四年間、止まっていたものが、動き出した。




