↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
継ぎ火の竜医  作者: 川中アキラ
分け火と御番医
PR
87/138

第87話 対岸の帳面

川向こう、ガルデ側の砦にも、竜医はいた。


イェルダは五十二歳、ガルデの従軍竜医だった。三十年、国境の砦を回って、徴用竜を診てきた。


彼女の帳面には、三十年ぶんの数字がある。徴用された竜。返された竜。返されなかった竜。数字は、どの戦でも同じ形をしていた。戦が始まると徴用が増え、戦が長引くと返されない竜が増え、戦が終わると、誰も数字を見なくなる。


今度の戦で、イェルダが気にしていることが一つあった。


対岸──王国側の砦の竜の、飼いが良いのだ。


物見の報告では、王国の徴用竜は毎日足を湯に浸け、荷の重さは制限され、病竜は後方に下げられる。四年前には、暴走した軍竜を処分せずに治した、という噂さえあった。


「敵に学ぶのは、腰が引けるかい」若い軍医が笑った。


「竜に国境はないよ」イェルダは笑わなかった。「あるのは、川と、橋と、命令だけだ。……良い飼いは、どこの岸のものでも良い飼いだよ」


彼女はその夜、帳面の隅に書いた。


〈対岸に、数える者がいる。たぶん、わたしと同じように〉


書いてから、老竜医は老眼鏡を外して、川の方角の闇を見た。三十年この仕事をしてきて、確かめたいことは一つずつ減り、最後に一つだけ残った。竜を数える人間は、敵と味方に分かれても、同じものを数えているのか。答え合わせの機会は、たぶん戦のあとにしか来ない。来るなら、生きて会うことだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。