第83話 戦時竜医団
師会が動いたのは、開戦からひと月後だった。
発足したのは「戦時竜医団」。言い出したのはイサギだった。四年前の連判四十一名が母体になった。
「軍属ではない」イサギは発足の席で言った。「師会の竜医団として、北辺の徴用竜と民間竜の診療に当たる。指揮系統は師会。軍の命令は受けない。軍とは『協定』を結ぶ。──二十年前の戦で、我々は竜を軍に丸投げした。同じことは、二度とやらん」
発足の席は、丘の上の大講堂だった。集まった竜医は百を超えた。二十年前の戦を知る白髪の一等から、免状を取ったばかりの三等まで。カヤは末席に座ろうとして、イサギに名指しで前へ呼ばれた。
団の副長に、カヤの名が挙がった。
同時に、もう一つの件が決まった。戦時特例による、一等への繰り上げ昇格である。
「北での権限のためだ」イサギは事務的に言った。「一等であれば、野戦での処置の判断を、誰の検分も待たずに下せる。継ぎ火の事後審査も、自身で通せる」
免状を受け取る日、イサギは廊下ですれ違いざまに言った。
「三等のとき、貴殿に言ったことがある。竜を救って人の決まりを破る者は、最後に竜も救えなくなる、と」
「覚えています」
「あれには続きがある」痩せた試験官は、前を向いたまま言った。「決まりを直しながら竜を救う者は──最後には、決まりのほうが竜を救うようになる。貴殿は今、その途中にいる。……死ぬなよ、副長」
痩せた背中が廊下の角に消えるまで、カヤは免状を持ったまま立っていた。三等の試験の日、この人はカヤを落とすために難癖を並べる側だと、ガマは言った。並べなかった。それから五年、この人はずっと、内側から門を開け続けている。




