第82話 軍の使い
軍務局の使いが窯裏に来たのは、徴用検査の三日後だった。
用件は二つあった。
一つ。二等竜医カヤを、軍属竜医として招聘したい。待遇は破格。任地は北辺。
二つ。戦時につき、軍火株の凍結解除を検討中である。ついては「軍火の安全な運用に知見ある竜医」として、意見書を出してほしい。
使いの読み上げる待遇は、たしかに破格だった。俸給は一等の倍。従者付き。戦後の丘の上の屋敷まで匂わせた。読み上げの間、カヤは頭の中で、窯裏の朝の患竜の列を数えていた。
「断ります。両方」カヤは即答した。
「待遇の問題であれば──」
「待遇の問題ではありません」カヤは言った。「軍属になれば、軍の命令で診る竜と診ない竜を分けることになる。それはあたしの免状の使い方と違います。それと、軍火に『安全な運用』は存在しません。意見書なら一行で書けます──植えるな、と」
使いが帰ったあと、ガマが言った。
「解禁は、止められんぞ。戦時大権は師会の外だ」
「はい」
「それでも断ったのは、なぜだ」
「植える側に立たなければ、抜く側に立てるからです」カヤは言った。「植えられた竜は、いつか必ず、抜く竜医を必要とします。そのとき軍の外にいないと、手が届かない」
ガマは、酒を一口舐めて、それだけ言った。
「……肩の力を抜いて覚えとけ。戦は長いぞ」
その夜、カヤは断りの写しを手控えに綴じた。断った記録も、記録だ。この頃、手控えに書くものの半分は、来ないほうがいい日のための備えだった。




