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継ぎ火の竜医  作者: 川中アキラ
分け火と御番医
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82/138

第82話 軍の使い

軍務局の使いが窯裏に来たのは、徴用検査の三日後だった。


用件は二つあった。


一つ。二等竜医カヤを、軍属竜医として招聘したい。待遇は破格。任地は北辺。


二つ。戦時につき、軍火株の凍結解除を検討中である。ついては「軍火の安全な運用に知見ある竜医」として、意見書を出してほしい。


使いの読み上げる待遇は、たしかに破格だった。俸給は一等の倍。従者付き。戦後の丘の上の屋敷まで匂わせた。読み上げの間、カヤは頭の中で、窯裏の朝の患竜の列を数えていた。


「断ります。両方」カヤは即答した。


「待遇の問題であれば──」


「待遇の問題ではありません」カヤは言った。「軍属になれば、軍の命令で診る竜と診ない竜を分けることになる。それはあたしの免状の使い方と違います。それと、軍火に『安全な運用』は存在しません。意見書なら一行で書けます──植えるな、と」


使いが帰ったあと、ガマが言った。


「解禁は、止められんぞ。戦時大権は師会の外だ」


「はい」


「それでも断ったのは、なぜだ」


「植える側に立たなければ、抜く側に立てるからです」カヤは言った。「植えられた竜は、いつか必ず、抜く竜医を必要とします。そのとき軍の外にいないと、手が届かない」


ガマは、酒を一口舐めて、それだけ言った。


「……肩の力を抜いて覚えとけ。戦は長いぞ」


その夜、カヤは断りの写しを手控えに綴じた。断った記録も、記録だ。この頃、手控えに書くものの半分は、来ないほうがいい日のための備えだった。

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