第81話 二度目の竜徴令
竜徴令は、開戦の十日後に貼り出された。
貼り出しの朝、辻には音もなく人が集まり、音もなく散った。四年前は、ざわめきがあった。年金の額に驚く声、うちの竜は、と案じる声。今度は、誰も驚かなかった。来ると分かっていたものが来ただけの朝は、静かで、そのぶん重かった。
四年前の令と、文面はほぼ同じだった。違うのは規模だ。前回は壮健な竜だけ。今回は「荷役に耐うるすべての竜」。年金は五枚に上がっていた。金で釣る気が、上がったぶんだけ見えた。
窯裏の診療所は、その日のうちに動いた。
患竜三十一頭、全頭の診療録の写しは、ひと月前に揃えてある。ツグミが書式を増やし、ハギが写しを取り、カヤとガマが所見を入れた。嵐の前の数えは、済ませてあった。
検査の日、診療所の前には机が出され、机の上に三十一冊の診断書が並んだ。
検査官は、四年前と同じ年かさの下士官だった。机の上の束を見て、男は長い息を吐いた。
「……またあんたか」
「またあたしです」カヤは言った。「三十一頭のうち、徴用に耐えるのは九頭。残りは理由付きで不適です。照合はどうぞ」
下士官は、今度は照合しなかった。束ごと受け取って、帳面に何かを書き、それから小さな声で言った。
「便宜を図る気はないがな。あんたの診断書は、上で通るんだ。四年前の北の一件以来、軍の中にもあんたの名を知ってる者がいる。……雑に扱えない相手だとな」
下士官は束を荷袋に収め、それから、少しだけ声を落とした。「……不適の理由が細かい診断書ってのはな、竜医どの。俺たちみたいな末端には、ありがたいもんなんだ。連れて行った竜が北で潰れると、判を押した俺の寝覚めも悪い」
四年で変わったのは、カヤの立場だけではなかった。数える側の人間は、軍服の中にも、少しずつ増えている。
九頭は、徴用された。ゴウタは今回も不適だった。北で一度焼かれた嚢は、帳面の上でも重い。
夜、カヤは手控えに書いた。
〈徴用九頭。守ったのではない。送り出した。
覚え:不適の判を押す手が、今回は重い。
九つの名は、別の頁に写した。帰る日に、照合するために〉




