第78話 墓前
年の暮れ、カヤは丘の墓地に登った。
シラスの墓は、御番医の墓域の端にある。石は小さい。遺言だったという。
カヤは、雪を払い、手帖を出して、墓石の前で開いた。この一年で書き足した頁を、声に出して読んだ。灰の処方。外の目の所見。ユキの数字。アサヒの数字。
声は、白い息になって、墓域の静けさに吸われていった。読みながら、カヤは時々、読む速さを変えた。ここは老人が身を乗り出すところ。ここは、眉を寄せるところ。四十年ぶんの相槌を、もう覚えてしまっている。
「──というのが、今年のぶんです」
墓石は、何も言わなかった。竜も口が利けないが、墓石はもっと利かない。それでも、報告する相手がいるというのは、いいものだった。
読み終えて、カヤは白い頁を開き、その年最後の所見を書いた。
〈四百年の火を継ぐ方法を、探すこと。
定めの内に道がないなら、定めのほうを、間に合うように変えること。
期限は、たぶん、次の代替わりまで。
──シラス様。あなたの言った「決める者」に、あたしがなるのかどうか、まだ分かりません。ただ、数だけは、数え続けています〉
筆を仕舞うと、雪がまた降り始めていた。
丘の上から、王都が見えた。御城の塔。丘の白い師会。東の竜舎。南の下町──窯裏の路地のあたりに、夕餉の煙が細く立ち、その間に、青白い小さな火がぽつ、ぽつと灯り始めるのが見えた。
カヤは、長いことそれを見てから、山を下りた。
下りの道で、雪は本降りになった。それでも足取りは重くならなかった。宿題を出した人はもういないが、宿題は生きている。生きている宿題は、いい按配に、人を歩かせる。




