↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
継ぎ火の竜医  作者: 川中アキラ
分け火と御番医
PR
77/138

第77話 初めての単独

冬の窯裏は、いつも通り忙しかった。


趾割れ、湯気の桶、軟膏、銅五十文。ツグミは十七になり、初めての単独往診に出た。行き先は隣町の粉屋──四年前、ガマが火を貸して免状を失った、あの粉屋である。窯竜の定期の検分だった。


帰ってきたツグミは、鼻の頭を赤くして、報告した。


「経過、良好です。それで、あの、粉屋のおかみさんが」


「うん」


「『ガマ先生に、うちの竜は今年も冬を越せます、って伝えとくれ』って。……先生、あたし、なんで泣きそうになったんだろ」


「診療録に書いときな」カヤは笑った。「そういうのも、記録のうちだから」


ツグミは、その晩、診療録の末尾に本当に書いた。〈粉屋のおかみ、ガマ先生への言付け一件。内容、冬を越せる旨〉。几帳面な字で書かれたその一行を、あとで見つけたガマは、長いこと黙っていた。それから、薬研を挽く音が、いつもより少しだけ柔らかくなった。


ハギは、押さえと器具洗いを半年で覚え、いまは竜体の図を写している。夜の帳場で居眠りをして、ゲンに鼻先で押されて起きるのが、だいたいの日課だった。


「北にいた頃は、寝坊すると殴られました」とハギは言う。「ここは、竜に起こされるだけなんで、天国です」


天国の水準がおかしい、とツグミは顔をしかめた。しかめながら、翌朝から、ハギの分の白湯を先に汲んでおくようになった。


ゲンは、窯裏の名物になりつつあった。往診の荷を牽き、暴れる若竜の隣に伏せて宥め、子どもらを背に乗せる。芋の季節には、路地で焼き芋の番をした。軍火を抜かれた元軍竜が、いちばん火を上手に使っている──と、炭屋が笑った。


夜、カヤは手控えの隅に書いた。


〈ツグミ、単独一件目。ハギ、竜体図の写し三枚目。ゲン、焼き芋番。


覚え:平和な日の記録ほど、あとで効く。……効かないで済むなら、それが一番いいけれど〉

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。