第69話 二通の処方
処方は、二通、書かれた。
一通目を書くのに、カヤは夜を三つ使った。灰の量が多ければ株は煽られて早く燃え尽き、少なければ熱が立たない。仔竜の体重と、襞の薄さと、餌の刻限。手控えの数字を組んでは崩し、組んでは崩しして、ようやく一枚に収めた。
一通は、灰の餌の処方箋。量、刻限、湯気の立て方、熱の測り方。スバルは「自分の発案」として御城に上げ、処方は正式に採用された。ただ、御番医は内の検分録にだけ、一行を書き足した。〈本処方、設計は二等竜医カヤ〉。「公表はできん。だが、記録に嘘は書かん」とスバルは言った。「誰の目が効いたのかは、四百年の記録が知っているべきだ」
もう一通は、カヤの手控えに書かれた。誰にも出さない処方だった。
〈アサヒ様の火を根本から治す道
一、ミカゲ様からの再度の分け火──不可。親の火が終わる
二、灰の増量──殖えの底が擦り切れている株には、餌だけでは足りない
三、外の株を混ぜる──王家の火ではなくなる。門外不出の誓いに反する。禁忌
覚え:三しか、残っていない〉
書いてから、カヤは長いこと、三の行を見ていた。
窯裏の夜が、窓の外にあった。路地には青白い火が灯っている。貸し借りされ、株分けされ、継がれて、それでも──だからこそ──生き延びてきた火が。
カヤは頁をめくり、別の頁に、小さく書き足した。
〈楢峡のユキ。ミゾレの火。殖え、良好。
王家の火と、正反対の数字〉
なぜその二つを並べて書いたのか、カヤは自分でも、まだ言葉にしなかった。
言葉にすれば、それは「三」の行の続きになる。禁忌の続きに、楢峡の白い竜の名を書くことになる。筆が、そこだけ動かなかった。動かない筆を、カヤはそのままにしておいた。急がせてはいけない答えというものがある。竜にも、自分にも。




