第68話 忍びの検分
三日後の夜、カヤは裏門から御城に入った。
御竜の間の隣、仔竜の房で、アサヒは眠っていた。生後三月あまり。銀の鱗はまだ柔らかく、寝息に合わせて、小さな体が膨らんでは縮んだ。楢峡のユキと、同じ大きさ。同じ寝相。カヤは一瞬、場所を忘れそうになった。仔竜の寝姿は、御城でも村でも、同じ形をしている。
体は順調に育っている。問題は、喉だけだった。
目。立ち方。喉。
熱は、細かった。細いだけでなく──カヤは耳を当てて、長く聴いた──株の燃える音が、疎らだった。襞のあちこちで、ぽつ、ぽつ、と小さく燃えている。群れとして、束になっていない。
「餌は」
「定めの倍、与えている」スバルが答えた。「灰の湯気も、儀のあと三度。そのたび熱は立つが、続かない」
「……株が悪いんじゃありません」カヤは、手を離した。「株が、少ないんです。ミカゲ様から吹き込まれた火の玉が、そもそも小さかった。半分は儀の場の応急で立たせた熱です。土台の群れが薄いから、餌をやっても、殖える前に燃え尽きていく」
「どうすれば」
「並の仔なら、親からもう一度、分け火を足します」
スバルの顔が、強張った。
「ミカゲ様に、あの火はもう──」
「はい。あの日が、限界でした」カヤは、はっきり言った。「ミカゲ様から、二度目は採れません。採れば、ミカゲ様の火が終わります」
房の隅で、仔竜が寝返りを打った。きゅう、と小さな寝息が鳴った。
「打てる手は、あります。灰の餌を、量を測って、定期に。あたしが処方を書きます。それで殖えは支えられる──支えられるだけです。治りはしません」カヤは、手控えを開いた。「スバルさん。ここからは、診立てを全部言います。聞く覚悟をしてください」
「……言ってくれ」
「王家の火は、アサヒ様の代で、終わるかもしれません」
言葉は、静かな房に、静かに落ちた。スバルは反論しなかった。目を逸らしもしなかった。ただ、眠っている仔竜を長いこと見て、それから、絞るように一言だけ言った。
「……全部、言ってくれて、助かった」
聞く覚悟をしろと言ったのはカヤのほうなのに、覚悟の据わり方は、この御番医のほうが上だった。




